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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
四章 黒鬼の主、初陣す
20/68

1話 斬れない打刀(前)

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

 隣から大きなあくびが聞こえる。刀がまぶたをこすり、なんとか眠るものかと粘っていた。

 彼女は昨日と同じ黒のタートルネックに黒のジーンズという、黒ずくめの地味な服装だった。

 蓮華と話していた時間はそこまで長くはなかったが、眠りに就いた時間が遅かったのだ。服を選ぶ余裕はなかったのかもしれない。

「あれからすぐ寝た?」

「うん、おかげさまで。でもあと二時間早く、眠ってたらよかったなあ。蓮華は大丈夫なの?」

「ええ、慣れてるから」

 最近寝不足を自覚したのは、職場復帰を()(しん)されたあの日くらいだ。蓮華にとってはいつもどおりの睡眠時間だった。もう少し寝ろ、とはアドルフから言われているのだが。

「ところで今日から現場出るって聞いたけど、武器とか支給されるの?」

「それなら前もって技術部に伝えてあるわ。まずはそっちに行きましょう」

 鬼の力を操り、自分の武器や道具を創りだす人間もいる。

 だが鬼の力が弱い者は、それができない。退魔二課に所属している人間がそうだ。

 技術部は、そういった局員のために武器を開発している。

「へー、技術部か。なんか名前だけでわくわくする名前だね」

「技術部は技術部でも、行くのは技術二課のほうよ。技術一課は、部外の人間に開発の様子を見せたがらないと思うわ」

 山岡の部屋には乱雑に書類や創った物がおいてあったが、技術部の本丸はそうもいかないだろう。最悪、部屋の外で武器を引き取る形になるかもしれない。

「? 技術一課はなにを開発してんの?」

「魔を探知するシステムの開発、それから魔そのものの研究ね。探知システムの(しょう)(さい)は私も知らないけれど、かなりの精度を持っているのは確か。魔の研究内容は、彼らの弱点や性質を調べてデータ化すること。これは私たちにもある程度は開示されるわ。そういったデータをもとに、武器を開発しているのが技術二課というわけ。……と、ここまで話しておいてなんだけれども、私も行くのははじめてよ」

「なんじゃそりゃ!」

 魔のデータは局のネットワークに共有されており、局員ならばどこからでも(えつ)(らん)できる。

 魔に関する情報を求めて、わざわざ技術部におもむく必要はほとんどない。先だっては技術部そのものを素通りしてしまったほどだ。

「横のつながりは()(はく)なのよ、ここは。好き好んで他部署に顔出す人間は、あまりいないわ」

「おっきい組織なのに、それで大丈夫なの……?」

「さあ。そう思うこともあるけれどね、万が一を考えると」

 部署の連携が微妙である以上に、時には幹部たちの権力争いも(から)む。彼らに足を引っ張られ、重要な案件がおきざりになるのだけは、避けなければ。

(これは一つのチャンスかもしれない。武器の受け取りを理由に、技術部と接触できる)

 問題は、連携が望める相手に心あたりがない点だ。

 山岡は技術部に属してはいるが、あの性格だ。同僚たちとうまくいっているとは思えない。彼を通しての接触は、個人のあいだで留めておくべきだろう。

 地下へ続く、長いエレベーターを降りていく。

 技術部へいたる通路は、灯りがぽつぽつと設置されている。山岡の部屋も不気味なほの暗さを保っていたが、技術部では照明を減らす必要でもあるのだろうか。

「同じ建物なのに、なんか暗いね……」

「部屋の中に入れば、気にならないでしょう」

 数日前に来た場所にぶつかった。部屋から()れる光が、廊下をかすかに照らしている。

 手前の部屋が技術一課、その隣が二課、さらに奥のつきあたりが、山岡の部屋だ。

「うう、確かにそうだけど、廊下暗いと変なの踏みそうでやだなぁ……」

(せい)(そう)はちゃんとされてるから安心しなさい。ほら、さっさと行くわよ」

 一歩一歩確認して歩く刀を急かし、技術二課のインターホンを鳴らした。ここから先は、中から開けてもらわなければ入れない。

『こちらは技術第二課です。所属部署と名前、用件をお願いします』

 抑揚のない機械音声が二人を出迎えた。

「退魔第一課の蓮峰と楠木です。武器の引き取りにうかがいました」

 事前の連絡はしているが、名前だけでは通してもらえない。少しの間をおいて、再び機械音声が話す。

『照合します。ICカードをかざしてください』

「ICカード? はて、そんなもんあったっけ?」

「最初にもらったでしょう、まったく」

 蓮華は首にかけていたストラップを持ちあげた。顔写真と名前、所属部署が刻印された名札だ。関係者と部外者の見分けを区別するため、必ず持っていなければならない。

「あ、それタイムカード機能しかないと思ってた。これじたいが身分証なのか」

 刀はジーンズのポケットから慌てて取りだし、読み取り部分にカードをかざした。

『照合できました、お入りください』

 電子音と共に、ゆっくりドアが開く。ここまでセキュリティが厳重なのは、局の中でも技術部が一番だろう。

「お待ちしていました、蓮峰さん。私は技術二課の主任をしております、(ちょう)です」

「はじめまして、長主任。お世話になります」

 長という男は色白のひょろりとした背格好で、そこは山岡と似たり寄ったりだ。短く整えた黒髪をワックスで立て、黒縁の眼鏡をかけている。

 白衣の下に着ているシャツにはのり付けがされてあるのか、しわ一つもない。身だしなみには気を遣うタイプらしい。

「そちらが、例の黒鬼の主ですか」

「えっと……その」

 刀は長の視線から逃れるように蓮華の背中に隠れた。

「いえ、まだそうとは。そもそも黒鬼の主なら、ここのお世話になることはありませんから」

 蓮華は即答した。蒼鬼は刀を黒鬼の主だと断定したが、局員の不安をより(あお)る必要はない。なにより、刀の精神状態を考えればだまっておくほうが無難だった。ここで黒鬼に覚醒されれば、管理局は一巻の終わりだ。

「――失礼しました、言葉がすぎたようで。ご案内します、こちらへ」

 長の誘導する先には再びセキュリティゲートがあったが、今度は彼がそれを解除し、奥の部屋に入ることができた。

「発注内容が、使いやすい長さの日本刀、とかなり大雑把(おおざっぱ)でしたので、とりあえず打刀の平均値で作らせていただきました」

 歯に(きぬ)着せない長の一言に、場の空気が固まった。頼むなら内容を詰めろ、と暗に言われているようだ。

「蓮華ぁ……そりゃないでしょ、使うのあたしだよ?」

 さすがの刀も困り顔だ。

「……日本刀は専門外なのよ。悪かったわね、事前に訊かなくて」

「まあいいよ、大太刀とかならともかく、打刀の平均の長さなんでしょ? だったら扱えると思う。あの、抜いてみても?」

 刀は蓮華と長の顔を見、うかがいを立てた。

 長は一瞬、顔を(こわ)()らせた。蓮華にぎこちなく視線をよこす。

「大丈夫、私がいますから。いいわよ、カタナ。使うのは貴女なんだから、ちゃんと確認しておきなさい」

 武器を振りまわすには、この部屋は狭い。万が一の場合でも容易に防げるはずだ。

 長は咳払いを一つ、細長い木箱を刀に手渡した。

「……では。どうぞ、ご査収ください」

 箱には打刀が一振り、つや消しされた黒(さや)の中に納まっていた。


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