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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
三章 異邦に放りこまれたもの
16/68

2話 この世界について

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

 今日は話が中心で、現場に出るのはもう少し先だ、と彼女は前置きした。

「たぶん、貴女はほとんどなにも聞かされていないでしょうから。自分の状況は把握しておいたほうがいい、おたがいにね。まずは管理局のこと、どれくらい聞いてる?」

「えと、魔を倒すための国家機関で、超能力者の集まりとか。そういう力を持つ人がいたら保護して育成してるって。なんかあたしもそうらしいんですけど、今のところ鬼の力っていうのは使えないから、なんかの間違いではないかなと……」

「そうでもないでしょう。あの剣術、自力であれなら相当なものよ。冷や冷やしたわ」

 手合わせを思い返したのか、蓮華は右腕を小さくさすった。

 彼女の怪我は、魔との戦いで支障はないのだろうか。刀はふと思いだす。ようやく他人に目を向ける余裕ができていた。

「そういえば腕、大丈夫ですか? あのあと、ずっと気になってて」

「それは大丈夫。むしろいいリハビリになったわ、一年ぶりの職場復帰だから。それより()きたいことがあるなら、今のうちにお願い。不安要素はつぶしておきたいから」

 額面どおりに言葉を受け取っていいものか、刀は悩んだ。

 蓮華が指摘したとおり、訓練施設にいたころは、質問してもほとんど答えが返ってこなかった。自分が何者かも知らされない、気を揉む日が続いた。

 この女性なら、すべて教えてくれるのだろうか。

「思いつかないなら、先に訊くわね。貴女は自分のこと、なんと説明を受けたの? 例えば保護された状況とか、理由とか」

「……倒れているところを病院に搬送(はんそう)されたそうなんですけど、鬼の血を引いた人間だって分かりました、施設に入ってもらいますって。その前、は。ごめんなさい、全然覚えてなくて」

「なんの鬼かは聞いているのね?」

「黒鬼、だそうです。でもそれだけ。鬼の力は訓練所で何回も見たけど、あたしは使い方もその力の正体もちんぷんかんぷんで。そもそも鬼も、魔だってよく分かんないし……」

 蓮華はなるほど、と小さくつぶやいた。

「貴女、日本神話は知っている?」

「はい。訓練所の図書室で読みました」

 訓練所では、許可なしでは敷地外に出られなかった。家族の不幸など、特別な理由に限られていたからだ。

 そもそも、刀は外出許可を(しん)(せい)できなかった。不特定多数の人間との接触は禁じられ、訓練以外の活動は厳しく限定された。

 例外は図書室だった。普段からほとんど利用が少なく、他の訓練生の目はなかった。

 もちろん監視は必ずつき、時間にも制限が設けられたため、落ち着いて読めたものではなかった。

 それでも少しずつ読みすすめていったのが、日本神話だった。ストーリーがはっきりしていて、図書室の本の中では読みやすかったのだ。

「あれには神々が天から降りてきて、国を統治したと書かれている。でも、その前からこの国には人とは異なるモノたちが住んでいたし、土地を治めてもいた。神々はそれを魔と呼んで討伐していった。鬼も魔の一種よ」

 やはりそうなのか、と刀は合点(がてん)がいった。

 訓練生たちが使っていた不思議な力。あれが、普通の人間に扱えるはずがない。彼らは人外の枠に、片足を突っこんでいたのだ。

「神々の力が強かったころは、魔も鬼も大人しくしていたんだけど、その力が弱まると活動を活発化させた。困った当時の偉い人たちが、魔と人の混血に退治させる組織を作った。鬼は人間に化けて女をさらっただのなんだの話があるくらいだし、人とのあいだにできた子どもが多くいたみたいね」

「じゃあ、それが管理局のきっかけかぁ」

 簡単に言えばそんなところだ、と蓮華はうなずいてみせた。

「黒鬼って、どんな鬼なんですか。それにあたしのことコッキノアルジ、って呼ぶ人たちがいるんですけど、なんなんですか」

「……鬼の主は、誰よりも鬼に近い人間よ」


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