1話 一寸先は、異邦
本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。
※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。
※章ごとに話数を分けて投稿しています。
「まずは、簡単に説明からね」
管理官たちの部屋から退出し、即座に蓮華はこっちだと指差す。
白沢という管理官は知的で冷静沈着な印象を受けたが、蓮華には気高さや、自信に満ちた雰囲気を思わせる。
二人とも切れ者なのだろう。彼女らと同じ部屋に閉じこめられれば、十分も耐えられないかもしれない。よっぽど強いポテンシャルを持たぬかぎり、優秀な人材にはさまれた人間は、プレッシャーでつぶれてしまう。
「ここが退魔部退魔第一課。今は……ほとんど出払っているわね。基本外まわりだから」
退魔一課の部屋はすりガラスで区切られており、廊下からでもうっすら中の様子が見えた。
中に入れば、デスクと椅子が整然と並べられている。
人の姿は数えるほど。だがそれぞれの席に誰かがいることは、机の上の私物でうかがい知れた。
「けっこう大所帯なんですね――っ!」
刀は部屋をのぞいたとたん、一人の局員と目があった。
彼は緊張した面持ちだった。訓練所でも何度となく見た、自分を恐れる目だ。
コッキノアルジ、とつぶやく声が耳に届く。
「噂が広まるのは早いわね。楠木さん、次に行くわよ」
「あっ、えっ?」
蓮華が説明をはじめて、まだ数分しか経っていない。自分が所属する部署の説明にしては、あまりに簡単すぎではないだろうか。
「ここだと周りが落ち着かないから、場所を変えるだけ。もともと部屋の場所以外は、おいおい教えるつもりだったし」
「は、はあ……分かりました」
刀はすなおにしたがった。彼女の言はもっともだろう。
このままここに居続ければ、他の局員たちの動揺をまねく。針の筵と化すのは目に見えていた。
奇異の目で見られること数度、その視線からはなれられたのは、大通りに出たあたりだった。
多くの店が入った商業ビルが立ち並び、平日にも関わらず、買い物客で賑わっている。
これなら人の中にまぎれ、局員の目も気にならない。通行人にとっても刀はただの他人だ。ほっと胸をなで下ろす。
蓮華もこのあたりで話をしよう、と近くの喫茶店を指差した。
手頃な値段のコーヒーを提供しているらしく、店内はすでに客でごった返している。
「好きなの選んで、奢るわ」
「えっ、いえっ、なんか悪いです! と、というか。ほら、ここのシステム、なんかよく分かんないですし、ね?」
ただレジで注文すればいいだけなのだろうが、その客の声は、呪文かなにかにしか聞こえない。客からの複雑怪奇な呪文を復唱し、注文どおりに作っている店員の手さばきも、魔法のようだ。
「なら適当に頼むわ」
「あっ、はい……」
刀の焦りをよそに、蓮華は他の客と同様、レジに向かう。ただ先の彼らと違い、呪文は短めだった。
「カプチーノのトール、二つ」
明日はいつも通り、平日の更新時間21時半に投稿します。




