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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
二章 挑戦者 対 訓練生
14/15

4話 始動

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。


 起床の放送が、コンクリート打ちっ放しの、殺風景な部屋に響きわたる。

 それを合図に、すべてが目覚めていく。朝の支度をはじめる音たちが。

 しかし楠木――楠木刀は、その放送が鳴るよりも先に、目を覚ましていた。

 今日はいつもより、気持ちが落ち着かない。

 支給された黒いタートルネックに黒のジーンズを着込み、髪を手ぐしですく。着替えが終わったのをみはからい、金属の小窓が開く。トレーにのせられた食事が突きだされた。

 小窓の奥から、顔なじみの中年の男性職員が小さく手を上げる。

「よっ。こうしてあんたにメシ持ってくんのも最後だなぁ」

「うん、そだね。おじさんには世話になったよ、ありがとう」

 刀は深々と頭を下げた。記憶を失って知りあいも身寄りもいない彼女にとって、ここで出会った彼が唯一の知りあいだった。

「いいっていいって、礼なんぞ。これからは局で仕事するんだろう? ヘマして死ぬんじゃないぞ、命あっての物種だからな」

「うん、頑張るよ」

「それじゃあ、元気でやれよ」

 小窓が閉じられ、職員の気配が去っていく。刀は手元に残された食事を、じっと眺めた。今日の午前中に、局から迎えが来る。保護されてからはじめて、この施設の外に出るのだ。

「……大丈夫、これまでずっと、独りでやってきた」

 あの職員以外、誰もが刀を怖がり、よけいな接触を避けた。教官と話す機会も多かったが、彼らが親しみを感じている様子はなかった

 刀は孤独と冷たい視線に一年堪えた。()()(じん)なことを言われても、言い返しはしなかった。

 局の正式なメンバーとなったあとも、これまでどおり(じゅう)(じゅん)を貫き、仕事を確実にこなしていけばいい。そうすればいつか理解される日が来るだろう。

「きっと、うまくやれるさ」

 刀は震える拳を押さえつけ、自分に言い聞かせた。


 局に向かう車では、部屋を出る際と同じ()(じょう)をかけられ、両脇には(くっ)(きょう)な男たちが座った。まるで犯人の護送のようだった。

 刀は自分が黒鬼の血を引く人間だと聞かされているが、それがどういう意味なのかはよく知らない。

 他の訓練生が使っていた超能力――鬼の力も、どうすれば使えるのか、まったく分からないままだ。

 これまでの待遇は人として冷たいものばかり。自分の鬼の血は、あまり歓迎できる話ではないのだろう。

 局に着いて通された部屋は、異様に物々しい気配を帯びていた。

 紫色の結界が、いくつも張りめぐらされている。訓練に参加する時と同じ対応だ。だが、今は武器もなければ、手錠もかけられたままだ。この処置は大げさすぎる。

 仮に抵抗するとしても、両脇の男たちに取り押さえられるだろう。

 対応にややあきれながら、結界の先へ目をこらす。防御壁は出入り口から部屋の真ん中までで区切られ、その先になにがあるのかは視認できない。

 壁から紫の色がすぅと抜け、ようやく先の様子がうかがえた。そこにはさらに小さな結界に守られた、三人の男女が立っている。

 中年の男性と初老の男性、それから若い女性の姿。

 中年の男性は明らかにこちらを警戒した表情だったが、他の二人は平然とした様子だ。

 彼女の顔には見覚えがある。記憶を失って局に保護された時、刀の名前を(たず)ねた人物だ。

「久しぶりですね、黒鬼の主」

「あなたは……」

 結界ごしに、若い女性が声をかけた。

「そういえばまだ、名前を名乗っていませんでしたね。私は(しら)(さわ)(つき)()、ここの退魔一課の管理官をしています。こちらは同じ管理官の新田さん、戸川さんです」

「は、はじめまして……楠木刀です」

 刀は中年の男性・新田と、初老の男性・戸川に会釈した。どうやらこの三人は、局の中でも上の立場らしい。

「一年間の訓練、ご苦労様でした。今後、貴女はここ退魔一課の一員として働いてもらいます。よろしいですね?」

「はい、よろしくお願いします」

 これまでの(しょ)(ぐう)を思えば、このまま局にいてよいのか分からない。

 だが記憶を失った刀には、行くあても生活資金もない。訓練施設では、衣食住はいちおう保障されていたが、日当は出なかったからだ。

 白沢はけっこう、とうなずき、話を続ける。

「貴女は局や鬼、魔について知らないことも多いでしょうから、サポートする局員がつきます」

 部屋のドアがノックされた。

「来ましたね。どうぞ、入りなさい」

 ドアが開き、さらりと流れる長い金の髪が目の端に映る。

(……あっ)

 ついこのあいだ、見た顔がそこにはあった。

 刀との手合わせを望み、(がん)として譲らなかった女性。

 確か名前は、蓮峰蓮華。刀は教官がそう言っていたのを思いだした。

 先日は道着姿だった彼女は、今日はパンツスーツに身を包んでいる。いかにも仕事のできる、キャリアウーマンのようだった。

「楠木さん。今日から蓮峰さんが貴女のサポート役であり、直属の上司です。今後は彼女にしたがって行動を共にしてください。いいですね?」

「あ……は、はい。よ、よろしくお願いしま――!?」

 蓮峰蓮華は刀の目の前に立つや否や、左の手刀をまっすぐ振り下ろした。

 思わず目をつむった刀の耳に、がちゃんと乾いた音がする。

 かけられていた手錠は、(くさり)だけが粉々になって床に散らばっていた。

「仕事の邪魔になるし、もうそれは必要ないでしょう」

 両手で払う仕草を見せ、刀の上司はこともなげに言いきった。

「退魔部退魔第一課、蓮峰蓮華です。改めてよろしく、楠木さん」

「あ、え、ええと……く、楠木刀、です。よ、よろしく、お願いします……」

 差しだされた白い右手を、おずおず握り返す。

 本当にここでうまくやっていけるのだろうか。

 蓮峰蓮華との再会は、その不安を吹き飛ばしてしまうほどの強い衝撃を、刀にあたえたのだった。


二章はここで終わりです。次回をお楽しみに。

次の更新は今日の21時半です。引き続きよろしくお願いいたします。

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