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断罪されたので「業務改善」いたします!  作者: 九葉(くずは)
第2章

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第12話 面接に来たのは変人でした

「……全滅、ですね」


ハンスさんがげんなりとした顔で呟いた。

私も無言で頷くしかない。


目の前に広がるのは、凄惨な光景だった。

ピカピカに磨き上げられた玄関ホールに、三人の男たちが横たわっている。

一人は白目を剥いて気絶し、一人は青い顔で口元を押さえて蹲り、もう一人は「空気が……重い……」と呻きながら出口へ這っている。


今日は、新規採用の面接日だった。

私の出した「変人募集」の求人票は意外にも効果があり、朝から数名の応募者が訪れたのだ。

だが、結果はこの有様だ。


クラウス様は現在、王城へ出仕中で不在である。

にもかかわらず、屋敷に染み付いた彼の魔力の残滓だけで、一般人はこのザマだった。


「やはり、無理なのでは……」


ハンスさんが弱音を吐く。

私も眉間を揉んだ。

想定以上に、この屋敷の環境は過酷らしい。

魔力耐性必須とは書いたが、自己申告レベルの耐性では話にならなかったようだ。


「いいえ、まだ一人います」


私は視線をホールの隅に向けた。

死屍累々の候補者たちの中で、ただ一人、立ったままの人物がいる。


ボサボサの焦げ茶色の髪。

瓶底のような分厚い眼鏡。

着古して袖が擦り切れたローブ。

そして、片手には分厚い本を持ち、倒れている人々を気にする様子もなく読みふけっている青年だ。


「……彼を応接室へ」


私はハンスさんに指示を出した。

生存者がいるなら、拾うしかない。たとえ見た目が怪しくても。



「レオン・ヴァン・ストラテンです。没落貴族の三男。専攻は魔導工学。以上」


応接室のソファに座るなり、青年――レオンは投げやりに言った。

足は組まれ、背中は丸まっている。

私に対する敬意など欠片もない態度だ。


ハンスさんが眉をひそめ、いまにも「無礼者!」と怒鳴り出しそうになるのを、私は手で制した。


「初めまして、レオンさん。私はこの屋敷の管理を任されているエレナです」


「知ってる。王太子に捨てられた悪役令嬢だろ? 有名人じゃん」


レオンは鼻で笑った。

直球すぎる侮辱に、逆に感心してしまう。

社交界のまわりくどい嫌味に慣れていた私には、この無遠慮さが新鮮ですらあった。


「それで、志望動機は?」


私は淡々と進める。感情的になってはコンサル失格だ。


「金だ」


彼は即答した。


「研究費が足りない。実家からは勘当されたし、学会からは『危険思想』だと追放された。でも、あんたの求人には『相場の二倍』って書いてあったからな」


「それだけ?」


「あと、『国一番の魔力』だ。氷の宰相の魔力は特異だと聞く。普通の魔石じゃ再現できない出力があるってな。それを間近で観察できるなら、多少のリスクは冒す価値がある」


レオンは眼鏡の位置を直しながら、ニヤリと笑った。

その瞳には、倒れている他の候補者たちにはなかった、狂気じみた知的好奇心が宿っている。


「……なるほど」


私は手元のメモに書き込む。

『協調性:G』『忠誠心:G』『魔力耐性:S』『専門知識:A』。


極端すぎるパラメータだ。

普通なら即不採用である。

だが、今の我が家に必要なのは、仲良しこよしができる常識人ではない。

毒ガスのような魔力の中で、平然と作業ができる専門家だ。


「レオンさん。あなたは、この屋敷の空気をどう感じますか?」


「ん? ああ、ちょっとピリピリするな。高濃度の魔力粒子が浮遊してる。普通の奴なら神経をやられて嘔吐するレベルだ」


彼は他人事のように言った。


「あんたもよく平気だな。令嬢なんて生き物は、真っ先に死ぬと思ってたが」


「私は頑丈なのが取り柄ですので」


私は微笑んでかわした。

彼には通用している。私の魔力耐性と、彼自身の耐性。

少なくとも、この空間で会話が成立するのは、私とハンスさん以外では彼が初めてだ。


「採用の方向で考えたいと思います」


私が告げると、ハンスさんが「ええっ!?」と声を上げた。


「エ、エレナ様、正気ですか!? このような無礼な男を……旦那様が許すはずがありません!」


「ですがハンスさん、他に選択肢がありません。それに、彼の知識は使えます」


私はレオンに向き直った。


「ただし、条件があります。試用期間を一ヶ月設けます。その間、私の指示には絶対に従うこと。そして、屋敷の主であるクラウス様に無礼を働かないこと。もし守れなければ……」


私はニッコリと笑った。


「即刻、契約解除の上、給与は支払いません」


「……ちっ。わかったよ、雇い主サマ」


レオンは舌打ちをしたが、条件は飲んだようだ。

金への執着が強いのは、制御しやすいという利点でもある。


その時だった。

玄関の方から、重い扉が開く音が聞こえた。

同時に、屋敷全体の空気がカクンと数度下がる。

肌を刺すような冷気。


本物が帰ってきたのだ。


「……おいおい、マジかよ」


レオンが初めて顔を引きつらせた。

先ほどまでの残留魔力とは桁が違うプレッシャーに、さすがの彼も冷や汗をかいている。


「ただいま戻った……」


応接室の扉が開き、クラウス様が入ってきた。

銀色の髪に、冷ややかな美貌。

激務の後のせいか、その瞳は鋭く尖っている。


彼は私を見て、わずかに表情を緩め――

その直後、ソファに座る薄汚れた男を見て、瞬時に凍りついた。


「…………誰だ、貴様は」


地獄の底から響くような声。

室温が一気に氷点下まで下がるような錯覚を覚える。

パキ、と窓ガラスに霜が走った。


「ひぃっ!?」


レオンが悲鳴を上げてソファの背もたれに張り付く。


「クラウス様、お帰りなさいませ!」


私は慌てて二人の間に割って入った。


「彼は今日、面接に来た応募者です。レオン・ヴァン・ストラテンさん。魔導工学の研究者で……」


「男か」


クラウス様は私の説明を遮り、不機嫌そうに吐き捨てた。


「なぜ男なんだ。メイドを募集したのではなかったのか」


「魔力耐性のある人材を探した結果です。性別を問うている余裕はありませんでした」


「……ふん」


クラウス様はレオンを値踏みするように睨みつけた。

その視線は、不審者を見る目であり、同時に――自分のテリトリーに見知らぬオスが入り込んだことへの、本能的な嫌悪感に満ちていた。


「……気に入らん」


ボソリと呟かれたその言葉に、採用計画がいきなり暗礁に乗り上げたことを悟る。


(まずい。人見知りが発動したわ)


私は頭を抱えたくなった。

最強の魔力耐性を持つ変人と、最強の嫉妬心(無自覚)を持つ魔王。

この二人を共存させるのは、屋敷の掃除よりも難易度が高いミッションかもしれない。


「とにかく、詳しい話は夕食の後に。……レオンさん、あなたは別室で待機を。ハンスさん、彼を監視していてください」


「は、はい! さあ、こちらへ!」


ハンスさんが逃げるようにレオンを連れ出す。

残されたのは、私と、部屋の温度を下げ続ける不機嫌な宰相様だけ。


「……エレナ」


クラウス様が、拗ねた子供のような目で私を見た。


「あの男は必要なのか?」


「はい。業務拡大のために、どうしても」


私は一歩も引かずに答えた。

ここで引けば、私の過労死が確定する。

愛と仕事は別物だ。ここはドライに行かせてもらう。


「……そうか」


彼は短く答え、ふいっと顔を背けた。

その耳が少しだけ赤いのは、怒っているからなのか、それとも別の感情なのか。


(やれやれ。今夜の説得は大変そうね)


私は小さくため息をつき、冷えてしまったコーヒーを淹れ直すためにワゴンへ手を伸ばした。

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