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断罪されたので「業務改善」いたします!  作者: 九葉(くずは)
第2章

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第11話 ワンオペの限界と求人広告

第2章スタートです!!!

執務室の窓から、柔らかな午後の日差しが差し込んでいる。

私の隣の席では、この国の宰相であるクラウス様が、珍しく眉間に皺を寄せずに書類と向き合っていた。

部屋にはコーヒーの香りが漂い、穏やかな時間が流れている。


これぞ、私が手に入れた理想の職場環境。

……と言いたいところだけれど。


「……エレナ。財務報告書のチェックは終わったか?」


「いえ、まだです。その前に厨房の在庫確認と、庭師への指示出しと、来客用の茶葉の手配がありまして」


私は手元のリストを見ながら、小さくため息をついた。

ペンを握る指先が、少しだけ重い。


第1章で見事に「居場所」を確保し、クラウス様との信頼関係(と恋愛関係)も構築した。

それはいい。とても順調だ。

問題は、環境が良くなったことで、やりたいこと――やるべきこと――が爆発的に増えてしまったことだ。


屋敷の修繕計画。

領地経営の見直し。

王都との取引ルートの開拓。

そして、クラウス様の健康管理(おやつ作り含む)。


これら全てを、私と執事のハンスさん、そして通いのパートさん数名で回すのは、物理的に限界があった。

いわゆる「ワンオペ」ならぬ「ツーオペ」状態だ。


「……すまない。君に負担をかけている」


クラウス様が手を止め、心配そうに私を覗き込んだ。

その銀色の瞳が揺れているのを見て、私は慌てて首を振る。


「いえ、謝らないでください。これは業務フローの欠陥であって、クラウス様のせいではありません」


「だが、君の顔色が少し悪い。……やはり、王都に帰したほうが良かったのではないか?」


またその話だ。

彼は最近、私が少しでも疲れた顔をすると、すぐに「君の将来のために」と自己犠牲的な発言をする癖がついている。

過保護なのだ。


「帰りませんよ。ここが私の職場ですから」


私はきっぱりと告げ、立ち上がった。

棚から新しい羊皮紙を取り出し、彼の机の上に広げる。


「ですから、根本的な解決策を提案します」


「解決策?」


「はい。新規人材の採用です」


私はペンを取り、さらさらと文字を書いた。


『求む、住み込み使用人。経験不問。給与応相談』


「圧倒的に人手が足りません。ハンスさんも腰は治りましたが、年齢を考えれば無理はさせられません。正規のスタッフを少なくとも二名、増員すべきです」


私の提案に、クラウス様は複雑な表情をした。

嬉しくなさそうだ。

人見知りの彼にとって、テリトリーに他人が入るのはストレスなのだろう。

それに、少しだけ「二人の時間が減る」と思っているのかもしれない。


「……金ならある。雇うこと自体に反対はしないが」


彼は眼鏡の位置を直し、低い声で言った。


「私の魔力に耐えられる者が、そう簡単に見つかるとは思えんぞ」


それが最大の問題だった。

彼の魔力は、常人にとっては毒に近い。

そばにいるだけで頭痛や吐き気を催し、最悪の場合は寝込んでしまう。

私が平気なのは、どうやら公爵家の血筋による高い魔力耐性と、前世の激務で鍛えた精神力のおかげらしい。


「承知しています。ですから、条件を厳しく設定します」


私は『給与応相談』の横に、太字で書き加えた。


『ただし、魔力耐性必須。体力に自信のある方』


「まずは街の職業斡旋所に掲示を出してみます。数打てば当たる、の精神で」



数日後。

私の楽観的な予測は、冷酷な現実によって打ち砕かれた。


「……応募ゼロ、ですか」


「はい。ゼロです。問い合わせすらありませんでした」


報告に来たハンスさんが、申し訳なさそうに肩を落としている。

街へ買い出しに行ったついでに、掲示板の様子を見てきてくれたのだが、結果は惨敗だった。


「やはり、『氷の宰相』の悪名は轟いておりまして……。『あそこに行けば凍らされる』『生きて帰ったメイドはいない』といった噂が根強く……」


「失礼な噂ですね。生きて帰るどころか、毎日美味しいご飯を食べて太り気味なくらいなのに」


私は頬を膨らませた。

だが、一般市民にとって、この屋敷が「魔境」であることは事実だ。

普通のメイドや従僕が、命を賭けてまで応募してくるはずがない。

給与を相場の1.5倍に設定しても、効果はなかった。


「エレナ様、やはり諦めてはいかがでしょう。私がもう少し頑張れば……」


「ダメです。あなたが倒れたら共倒れです」


私はダイニングテーブルに突っ伏した。

思考を巡らせる。

コンサルタントとしての知識を総動員するのだ。


(普通の求人がダメなら、ターゲットを変えるしかない)


一般人は魔力に耐えられない。

ならば、魔力に耐えられる人間とは誰か?

騎士? 彼らは国に属している。

高位貴族? 使用人になんてならない。


では、魔力そのものに興味がある人間は?

あるいは、魔力を日常的に扱っていて、社会からはみ出してしまった人間は?


「……そうだわ」


私は顔を上げた。

閃いた。


「ハンスさん、求人票を書き直します」


「へ? 条件を緩めるのですか?」


「逆よ。もっと尖らせるの」


私は新しい紙を取り出し、勢いよくペンを走らせた。


『求む、魔力研究者または魔導技師。

 学歴不問、素行不問。

 国一番の強大な魔力を、間近で観察・研究できる環境を提供します。

 研究費支給。給与は王宮魔術師の初任給の二倍』


書き終えて、私はニヤリと笑った。


「これならどう?」


ハンスさんが目を剥いた。


「え、エレナ様……これでは、まともな使用人は来ませんぞ。来るとしても、怪しい魔術師か、マッドサイエンティストのような変人ばかりでは……」


「それでいいのよ」


私は断言した。


「まともな人間は、この屋敷の環境(魔力汚染)には耐えられない。だったら、最初から『魔力に対する耐性』や『執着』を持った変わり者を狙うしかないわ」


それに、研究者崩れなら、専門知識がある。

うまくいけば、屋敷の魔導設備のメンテナンスや、新しい業務改善ツールの開発も任せられるかもしれない。


「毒を以て毒を制す、ではありませんが……変人には変人の使い道があります」


「は、はあ……」


ハンスさんは納得がいかない顔をしているが、私は確信していた。

この条件なら、必ず食いつく者がいるはずだ。

社会的な常識よりも、知的好奇心や研究欲を優先する手合いが。


「さあ、これをすぐに貼り出してきてください。一番目立つところに!」


「承知いたしました……。何が来ても、私は責任を持てませんが……」


ハンスさんは不安げに求人票を受け取り、出て行った。



その日の夜。

夕食の席で、私はクラウス様に新しい求人のことを報告した。


「……研究者、か」


彼はスプーンを口に運びながら、少し考え込むように言った。


「確かに、私の魔力に耐えられるのは、魔術の心得がある者くらいだろう。だが、私の魔力を研究対象として見るような輩を、屋敷に入れるのか?」


不快感を隠そうともしない。

彼は自分の魔力を「呪い」のように感じている節がある。それを観察されるなど、いい気分ではないだろう。


「ご安心ください。あくまで業務契約です。もしクラウス様に害をなしたり、不快な思いをさせたりしたら、私が即座に解雇します」


私は胸を張った。

それに、と付け加える。


「もし優秀な技術者が来れば、クラウス様の魔力を制御する新しい魔道具だって作れるかもしれません。そうすれば、もっと普通の生活ができるようになるかも」


「……ふむ」


その言葉には、少し興味を持ったようだ。

彼は私を見て、微かに口元を緩めた。


「君がそう言うなら、任せる。……ただし」


彼の視線が鋭くなる。


「変な男が来たら、私が氷漬けにするかもしれんが、構わないな?」


「……物理的な氷漬けは禁止です。解雇通知でお願いします」


私は釘を刺しておいた。

冗談に聞こえないのが、この「氷の宰相」の怖いところだ。


窓の外では風が唸っている。

王都からの物流が滞っているせいで、明日届くはずだった小麦粉が遅れるという報告も受けていた。

王太子の嫌がらせはじわじわと続いている。


だからこそ、戦力が必要なのだ。

私の「業務改善」を次のステージに進めるための、新しい仲間が。


(どうか、使える変人が来ますように)


私はスープを飲み干し、心の中で祈った。

この時の私はまだ知らなかったのだ。

翌日、本当に想像を超える「変人」が現れて、私の胃痛の種になることを。

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