25話: 声の器、祈りの隣で
翌朝、湊はまだ暗い座敷で一人、巻物と向き合っていた。
蝋燭の火だけが紙面を照らし、そのわずかな揺らぎが図の空白を広げたり縮めたりするように見える。
――声のための場所。
兼続が言ったその言葉が、夜の間じゅう耳に残って離れなかった。
寺の声は揃いすぎ、
村の声は途切れ、
町人の声は笑いに包まれて、形を持てなくなっていた。
どれも“道”が塞がれている。
湊は筆をとり、空白の中央に細い円を描きかけて止めた。
(広すぎれば、声は散る。狭すぎれば、溜まる。
……人が集まり、語り、離れる。その循環が必要だ)
円の外へ向かう線を、湊は二本、細く引いた。
それは流れのようでもあり、呼吸のようでもあった。
「湊殿、起きていたか」
障子越しに八代の声がした。
湊が返事をする前に、八代は座敷へ入ってきた。
「……夜通し、考えていた顔だな」
「はい。ですが、まだ形にはなりません」
八代は湊の描きかけの図をのぞき込み、しばらく黙った。
「流れを作ろうとしているのだな」
「ええ。声は水と同じです。集めすぎれば濁る。流さなければ腐る。
ならば――」
湊は筆を置き、ゆっくりと言った。
「寺のように“揃えない場所”を作るべきだと」
八代の眉がわずかに上がった。
「揃えぬ場所……それは、意見の衝突も生むぞ」
「はい。しかし、衝突しないよう揃えるのは、声を殺すのと同じです」
八代は口の端をゆるめた。
それは、わずかながらの称賛の色を含んでいた。
「湊殿。そなたはもう“城普請”ではなく“声の普請”をしているな」
その言葉に湊は、恥ずかしさと誇らしさの入り混じった感情を覚えた。
窓の外に目を向けると、冬の光がようやく山際から滲みはじめていた。
空は薄い灰色で、巻雲が細く走っている。
昨日見た鱗雲とは違う。
――今日は“流れ”が生まれる空だ。
「湊殿、兼続様はもう政務の間におられる。
昨日の報告と“考え”を、聞きたがっておられるはずだ」
「はい。参りましょう」
湊は巻物を丁寧に巻き直し、懐に収めた。
――声の器。
――声の道。
その“最初の線”を、今日ここから引く。
冷たい空気が忍び込む廊下を、湊と八代は並んで歩き出した。
◆
政務の間には、すでに直江兼続と岡左内がいた。
二人とも机に向かい、山と積まれた書付や図面に目を走らせている。
湊と八代が膝をつくと、兼続が顔を上げた。
「来たか、湊。……よい顔になったな」
「昨夜はほとんど眠っておらぬ顔に見えますがな」
左内が鼻で笑う。
だが、その目はわずかに興味を帯びていた。
「さあ、見せてみよ。そなたの引いた“声の線”を」
兼続の促しに、湊は懐から巻物を取り出し、そっと広げた。
神指城の町割り図。その一角の空白に、細い円と二本の線が加えられている。
「ふむ……」
兼続の目が細くなる。
左内は身を乗り出し、線の位置を確かめるように指先でなぞった。
「この円は何だ」
「人が集う場、にございます。
寺でも、武家の屋敷でもない、誰が来ても咎められぬ場所。
その代わり、ここでは“揃えぬこと”を許す」
自分で言いながら、その言葉の危うさを湊は自覚していた。
武家の国で、声を揃えぬ場を作る――それは、秩序を乱すと取られてもおかしくない。
左内の唇が、にやりと釣り上がった。
「面白いことを言う。揃えぬことを許す、だと」
「ここを“直訴の場”にするつもりか」
兼続が静かに問う。
「いいえ。直訴は、あくまで決められた筋でなされるべきもの。
ここは……そうなる前に声を出せる場所に」
「そうなる前、とは?」
「寺では、声が祈りの形に縫い込まれてしまっているように見えました。
村では、声が交わる前に途切れている。
酒屋では、笑いが声を包んでしまう。
どれも“本当の不満”が形になる前に、別の形を与えられておりました」
湊は自分の見てきた光景を、一つひとつ思い浮かべながら続けた。
「本当は腹の底で思っていることを、誰も言葉にできぬまま、
皆、『まあ仕方ない』と……」
「黙るのだな」
兼続が言葉を継いだ。
「はい。その黙りが積もれば、いずれ一揆となって噴き出します。
ならばその前に、言葉の形にならぬうちに、
せめて“声”として吐き出せる場が要るのではないかと」
「ほう」
左内が机を指で軽く叩く。
「では問う。この円の中では、何が行われる」
「……市を、開きとうございます」
部屋の空気が、わずかに揺れた。
「市、だと?」
兼続の声は抑えられていたが、その奥には驚きがあった。
「はい。物と物をやり取りする市ではなく――
言葉と顔をやり取りする市、にございます」
八代が思わず湊を見た。
左内の目が、鋭く細くなる。
「言葉の市、とな」
湊は頷き、巻物の上を指し示した。
「ここを、大通りから少し外した場所にしております。
武家の往来からは外し、寺からも距離を置く。
その代わり、町人と村人が行き来しやすい交わりの位置です」
兼続が図に顔を寄せた。
「この二本の線は?」
「一つは、城下の市庭から延びる道。
もう一つは、近在の村々から馬や荷車が入りやすい道筋としております。
どちらの側にも偏らぬよう、それでいて“顔を合わせやすい”角度に」
「角度、とは妙な言い方だな」
左内が目だけで笑う。
「はい。寺の門前では、皆、同じ方向を向いておりました。
村の集会では、庄屋に向かって一列。
酒屋では、皆、暖簾の内側だけで輪になっている。
どれも“向き”が決まっているがゆえに、声が偏っているように思えたのです」
「だから、ここでは向きを揃えぬ、と」
「はい。横並びで座る者、向かい合う者、立ったまま通り過ぎる者。
それぞれの違いが、そのまま声の違いとして残るように」
兼続はしばし沈黙した。
部屋の中に、紙が擦れる音だけが細く響く。
「……湊」
「はっ」
「市に集まった声は、やがてどこへ行く」
その問いは、湊が一晩考え続けてなお答えを見いだせなかった部分だった。
だが、ここで立ち止まるわけにはいかない。
「まずは、そこに居合わせた者の胸に留まりましょう。
次に、酒屋や職場に持ち帰られる。
その中で『それは違う』と否定される声もあれば、
『実は自分もそう思っていた』と、ひそかに重なる声も出てくるはず」
「ふむ」
「そうして重なった声の一部が、庄屋や役人を通じて
“届けられるべき声”に変わるのではないかと」
「変わらぬ声は?」
「いずれ消えます。
ただ、どこにも出せぬ声がそのまま溜まるよりは……
一度表に出て、誰にも拾われなかった声のほうが、まだ静かに消えてゆくかと」
左内が、くつ、と短く笑った。
「数字のときもそうだが、お主は“捨てられるもの”をよく見るな」
「捨てるつもりはございません。
ただ、すべてを拾おうとすれば、器が先に割れます」
「正直な物言いだ」
左内は兼続のほうを見た。
「兼続様。こやつの案、悪くはございませぬぞ」
「利の面から見て、どうだ」
「市を開くとなれば、まず商人が動く。
人が集まれば銭も集まる。
見張りを置けば、怪しげな連中も多少は抑えられましょう」
そこで一拍置き、左内は続けた。
「ただし――声もまた集まる。
そこで交わる話の中には、上杉家にとって耳の痛いものも多かろう」
「それを承知で、湊はこれを描いたのだな」
兼続の視線が、試すように射抜いてくる。
湊は、その目から逃げなかった。
「はい。
耳の痛い声を、すべて寺に押し込めてしまうほうが、
いずれは大きな痛手になると考えました」
「なぜそう言い切れる」
「寺で聞いた言葉は、皆、『有り難いことだ』『お上に感謝せねば』でした。
そう口では申しておりましたが……
目が、そう言っておりませんでした」
老女の濁った眼。
若い男の、どこか遠くを見る眼。
笑みの形だけを覚え込まされた口元。
「あの目を、私はもう一度見たくはありません」
気づけば、言葉が先走っていた。
八代が小さく目を見開く。
だが兼続は怒らなかった。
むしろ、わずかに目を細める。
「……湊。そなたは、寺を敵に回したいのか」
「いいえ」
「では、どうする」
「寺にできぬ役目を、別の場で引き受けるだけにございます。
寺は祈りの場。
ここは、愚痴と怒りと弱音を受け止める場。
役目を分ければ、どちらも守られます」
左内が、今度ははっきりと笑った。
「兼続様。こやつ、つくづく行政向きでございますな」
「その評価は、誉め言葉と取ってよいのか」
「もちろん。
城下の寺を一度に潰せば、見える火が上がりましょう。
だが、別の器を先に用意しておけば、火種のいくらかは流れを変える」
兼続は静かに頷いた。
「湊」
「はっ」
「この“言葉の市”――名は後から考えるとして。
ここで集まる声を、誰が聞き、誰がまとめる」
その問いに、左内の視線も湊へと向いた。
湊は一度、深く息を吸った。
「私が、最初のひとりとして立ちたいと存じます」
部屋の空気が、すっと引き締まった。
「湊殿……」
八代が思わず声を洩らす。
左内は目を細め、兼続はじっと湊を見据えていた。
「自ら火元に立つつもりか」
「はい。
村の水争いも、銭の流れも、人足逃散も――
私はすでに“怒りの形”をいくつも見てきました。
それならば、まだ形になっておらぬ怒りも、
聞く覚悟を持たねばならぬと思うのです」
「……聞くだけで済むと思うか」
「済まぬでしょう。
しかし、聞かずに済む道も、もう選べぬところまで来ていると」
湊の言葉は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
胸の奥の震えは、もはや恐れではない。
覚悟に近い何かだ。
兼続は、ふっと目を伏せた。
「左内」
「は」
「この案、銭と治安の面から見て、どこまで許せる」
「治安の荒れを防ぐための見張りと、
声を拾う役目の者を何人か。
それと、いざという時に“潰せる仕掛け”さえ用意できれば……」
「潰せる仕掛け、とは」
「市の時間を限定すること。
場所を外へ移せるよう、常の建物は小さくしておくこと。
それから――」
左内は湊をちらりと見た。
「声をまとめる役目は、一人に背負わせず、必ず複数に分けることですな」
「複数、にございますか」
「お前ひとりが全てを受けたら、途中で折れる。
あるいは、どこかで歪む」
その言葉には、妙な重みがあった。
左内自身が、かつてそういう“歪み”を見てきたのだろう。
「……誰が良いか、当てはあるか」
兼続の問いに、左内は少しだけ考え込んだ。
「町人から一人。寺とは距離を置いた者。
それと、百姓から一人。庄屋ではなく、村の中ほどにいる者。
最後に、武家側からひとり。湊とは別の目を持つ者がよろしい」
「八代など、どうだ」
兼続がふいに言うと、八代が目を丸くした。
「は、はあ? 拙者は剣しか――」
「剣しか、と思っている者ほど、余計な理屈を挟まぬ。
声を“そのまま”聞くには、そういう耳も要る」
「……恐れ多いお役目ですな」
八代は頭をかきながら、それでも否とは言わなかった。
兼続は再び湊に向き直る。
「湊」
「はい」
「そなたが描いたこの円と線。
わしはこれを、神指城の図に書き加えることを許す」
喉の奥が熱くなる。
湊は思わず、畳に手を突いて深く頭を下げた。
「身に余るお言葉……必ずや、恥じぬよう務めます」
「ただし」
兼続の声が、少しだけ厳しさを増した。
「ここから先は、帳簿や図面の上だけでは済まぬ。
人の声は、人の顔と人の事情に結びついておる。
寺とも、町人とも、百姓とも、真正面から向き合わねばならぬぞ」
「はい」
「逃げるな。
そして、全てを一人で背負おうとするな」
その言葉に、湊は一瞬だけ八代と左内の顔を見た。
二人とも、何も言わないが、その視線は「支える」と告げていた。
「――ではまず、寺に話を通せ」
兼続が言った。
「寺に、でございますか」
「声のための新たな場を作る以上、
これまで“心の面倒”を見てきた寺に筋は通さねばならぬ。
寺を敵に回さぬこと。
それが、この普請の“初手”だ」
寺の静かな本堂。
揃えられた声。
揃えられた祈り。
あの空気の中に、ふたたび踏み込まねばならない――。
湊の背筋に、冷たいものが走った。
だが、それでも逃げるという選択肢は、もはやどこにも無かった。
寺へ向かう道は、朝日を浴びてうっすらと白んでいた。
霜が解ける前の硬い土は、足の裏から冷気を吸い上げてくる。
湊は歩幅を乱さぬよう、深い息を胸に通しながら進んだ。
八代が横を歩く。
普段の飄々とした気配は消え、言葉少なに周囲へ視線を配っていた。
「湊殿。……顔が固い」
「でしょうね」
「いや、そうではない。むしろ覚悟の顔だ」
湊は苦笑した。
だが自分の胸の奥では、形のない塊がうずき続けていた。
(寺に、話を通す……
“揃えられた声”を守る者たちに、揃えぬ場所の説明をする……)
説得ではない。
敵対でもない。
ただ、向き合うだけ――それでも足は重かった。
寺の山門が見えはじめると、湊は自然と背筋を伸ばした。
昨日見た鱗雲とは異なり、今日は細い流雲が空を斜めに走っている。
流れのある空――まるで、声の道のはじまりを示すようだった。
◆
山門をくぐると、すでに朝勤めが終わった後らしく、境内には静寂が満ちていた。
掃き清められた石畳。そして、木々の影が長く伸びている。
僧が一人、境内の隅で桶の水を替えていた。
湊たちの姿を見ると、僧は軽く頭を下げる。
「おはようございまする。兼続様のお使いで?」
「いえ。直にお話を伺いたく参りました。住職殿は……」
「すでに本堂にてお待ちです」
湊の胸が、どくりと鳴った。
待たれている――つまり、寺側も何かしら察している。
八代が湊へ目配せする。
「行こう」
本堂の前に立つと、板の香りが深く漂った。
扉を開けて中に入ると、住職と数名の僧がすでに座していた。
住職は昨日と同じ穏やかな表情だった。
しかし、そのまなざしの奥には、僅かな硬さがあった。
「湊殿。再びお越しくださり、まことにありがとう存じます」
「こちらこそ。昨日は多くを学ばせていただきました」
湊が膝をつくと、住職は一拍おいて言葉を続けた。
「さて……本日は、何をお話しくださるのか」
「……はい」
湊は胸の奥で塊となっていた言葉を、ひとつずつ崩しながら口にした。
「声のための場を、新たに設けたいと考えております」
本堂の空気が、たしかに揺れた。
僧の数人が視線を交わす。
住職は落ち着いた表情のまま、湊を見据えた。
「声の……場」
「はい。寺では祈りの声が揃う。
それは尊いものであり、乱してはならぬものです。
しかし、人が抱える声のすべてが祈りの形を取れるわけではありません」
住職は薄く目を閉じた。
少しの沈黙ののち、静かに問う。
「湊殿。昨日、何をご覧になりましたか」
「揃えられた声です。
皆が同じ言葉を口にする――しかし、それが本心とは限らない。
むしろ、本心を言えぬまま祈りの形に押し込められているようにも見えました」
本堂に、ざわりと微かな波が走った。
だが住職は怒らなかった。
ただ、静かに目を開き、問いを重ねる。
「では、その本心は、どこへ向かうべきだと?」
「揃えぬ声が許される場所へ。
そこで初めて、人は“言葉の形”に変える準備ができます」
「寺では、それができぬと?」
「できます。しかし――限界がございます」
湊の言葉に、住職のまぶたがかすかに揺れた。
「寺は祈りを守る場所。
祈りの形から外れる声を、すべて受け止める器ではないと、昨日痛感いたしました」
僧の一人が口を開いた。
「では湊殿。声の渦が生まれたとき、それをどう鎮めるおつもりで?」
「その渦こそ、人の“生きた声”です。
それが一度外に出れば、流れも生まれます。
流れがあれば、渦は長くは留まりません」
「流れ……」
住職はその言葉をゆっくりと反芻するように呟いた。
「寺の祈りは、声を天へ届ける流れでございます。
では、湊殿が作ろうとしているのは――地に流れる声、でございますな」
「はい。地にある声です。
弱い声、怒りの声、愚痴の声、諦めの声。
それらを祈りに変える前段の場所です」
八代が横で、思わず息を呑む気配を見せた。
だが湊は視線を住職からそらさなかった。
住職はしばし沈黙したのち、細く長い息を吐いた。
「……なるほど。
ならば湊殿。寺は、その場にどう関わればよいのか」
「関わらず、見守っていただきたいのです」
この一言は、寺にとってもっとも受け入れがたい申し出だった。
しかし、湊の声は揺れなかった。
「寺を否定したいわけではありません。
ただ、この場は寺の働きとは異なるもの。
祈りの器と、声の器を、無理に一つにせぬための距離でございます」
住職は、深い皺の中に感情を隠したまま、静かに頷いた。
「……湊殿。そなたは、昨日見せた顔と今日の顔が違う」
「昨日は、ただ驚いただけです。
今日は、覚悟して参りました」
住職の表情に、わずかな変化が生じた。
怒りではない。
疑いでもない。
それは――評価に近いものだった。
「湊殿。
新しき器を作るというは、古き器を壊すのではなく、
その“隣に置く”ということ。
その覚悟があるなら、寺として反対する理由はございません」
湊は深く頭を下げた。
「感謝いたします」
「ただし、ひとつだけ」
住職の声が少しだけ厳しくなる。
「声は、刃にもなる。
その場を設ける者は、必ずその刃を己にも向けねばならぬ時がくる」
「覚悟しております」
「ならば、よい」
住職は目を閉じ、小さく祈りの仕草をした。
「声を流す道もまた、天が与えた役目の一つ。
湊殿がその役目を担うなら、寺は祈りによって妨げぬようにいたしましょう」
胸の奥にあった塊が、わずかにほどけた。
寺という大きな存在が、正面から拒まなかった。
それだけで、湊の足元が再び強さを取り戻した。
◆
本堂を出た途端、八代が息をついた。
「……湊殿。よく言い切ったな」
「震えていました。膝が」
「見えなかったが?」
「それは、剣士である八代殿が鈍いだけです」
「なにっ」
軽口を交わせるだけの余裕が、ようやく湊の胸に戻ってきた。
ふと境内を見渡すと、冷たい風が梢を揺らし、乾いた音を立てていた。
そこに、昨日とは違う“流れ”を感じた。
(これで、第一の門は開いた……)
声の市――まだ名も形も定まらぬその場は、
今、確かな一歩を得たのだ。
「湊殿」
「はい、八代殿」
「これより、どうする?」
「次は町人と村人。
声を流す道を作るためには、まず“川筋”を知らねばなりません」
「その役目、拙者も共に果たそう」
八代の言葉に、湊は深く頷いた。
(ここからが、本当の始まりだ)
風が頬を撫でた。
冬の冷たさの奥に、確かなあたたかさがあった。




