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散ル散ル未散ル VOL.2

ゾンビハンターの苛烈な日常を描く、銃とメカとアクションを描いた作品です。

「どなたか、取り残されている方はいませんか? 政府からの依頼で救助に参りました! 返事はしなくていいです! 駆除が終わったら、出てきてください! 念のため、後でもう一度お声がけしますので、それまで安全な場所に隠れていてください!」


 電気の供給が絶たれている、深夜のショッピングモールに響き渡る数発の銃声が、不気味な静寂を破る。

 特殊な訓練によって夜目が利くミチルは、暗闇でも全く苦にしない。モール内を無造作に歩を進めながら、目に付くゾンビに対して片端から銃弾を撃ち込んでいく。

 ミチルがサイレンサーを使用しないのには、理由がある。ゾンビをいちいち探すより、向こうから集まってくるのを迎え撃つ方が効率がいいためだ。生存者がいる場合、注意をミチルの側に引き付けられるという利点もある。

 ゾンビが、音に敏感な習性を逆に利用しているのである。

 尤も、たとえそれを思い付いたとしても、ミチル以外に誰もそんなリスキーな遣り方は取らないが──。


 そうして、集まって来たゾンビたちの中に、『そいつ』はいた。


 ミチルは苦戦している。彼女の俊敏な動きに限界を超えてついてくる、バスケットボールのNBA選手を連想させる、アスリート系の巨体ゾンビが突如現れたからだ。腐敗した身体とは思えないほどの俊敏なフットワークと、先読みの鋭さで弾丸の消費を誘い、彼女を徐々に追い詰めていた、かのように見えた。


「もう、見事に避けてくれるわね」


 ミチルは不意に立ち止まり、その場で大きく息を吐いた。


「いいわよ、こっちもフィジカルで勝負してあげる。わたしのプライド傷つけた代償払ってもらおうかな。それに悪いけど先のこと考えたらさ、あんたみたいな特殊なゾンビ相手に、大事なカスタム弾無駄にするわけにはいかないのよね。それじゃあ、ギア上げていくわよ」


 そう言うや否や、ミチルの姿は一瞬でかき消えた。フードコートの床を蹴り、重力に逆らい壁を駆け上がると、天井の剥き出しになった鉄骨を伝って、一気に巨体ゾンビの死角へと回り込む。


「こっちよ!」


 背後から声が聞こえたかと思うと、ミチルの手に握られていたサバイバルナイフが、巨体ゾンビの背中に深々と突き刺さった。腐敗した肉体が裂け、黒い血飛沫が飛び散る。しかしゾンビは構わず、その巨大な腕を振り回してミチルを叩き潰そうとする。ミチルはそれを見切って紙一重で躱すと、再び姿を消した。


「まさか、スピードでわたしに勝てるつもりだった?」


 今度は巨体ゾンビの左側面から声がする。しかし、振り向いた時にはミチルは既にそこにいない。 

 声によるフェイントで、ゾンビの無警戒になった足元を潜るように背後からスライディングで抜けると、ミチルは瞬時に立ち上がった。巨体ゾンビは突如バランスを崩し、よろめく。すれ違いざまに、ミチルが両のアキレス腱をナイフで切り裂いていたのだ。

 生まれた隙を見逃さず、反転するとジャンプ一閃、今度は頭部めがけてナイフを突き立てる。腐敗していかにも脆弱そうな肉体だと、ミチルには見えていたのだが、意に反してなかなか致命傷にはならない。それでも、確実にゾンビのダメージは蓄積されていく。


「さあ、おいでよ。わたしが欲しいんでしょ!」


 ミチルの姿が消えるたびに、巨体ゾンビの身体に刀傷が増えていき、腐った体液がぶちまけられていく。

 ギアをさらに上げていくミチル。

 彼女の動きは、もはや完全に人間離れをしていた。まるで影のように、巨体ゾンビの周囲を高速で、右に左に旋回する。

 特筆すべきは、装備も含めた全荷重を受け止めながらの、切り返しの素早さと正確さだ。体勢が全くブレない、体幹の強さが窺える。

 ゾンビは、ミチルの幻影を追いきれずに、完全にペースをかき乱され、ただ無駄な攻撃を繰り返すだけの状態になっていた。

 ミチルはその隙を冷静に突いていく。 

 何度も繰り返し繰り返し、鋭い斬撃を浴びせていく。

 スピードでゾンビを翻弄して、煽る。  

 巨体ゾンビは完全に冷静さを失い、本能のままにミチルを追いかけ始めて、数分の時が経過していく。


「やっと、捕まえられたわね!」


 ミチルが叫んだ。

 ゾンビの巨大な手がミチルのセーラー服の襟首を掴んだ。ミチルはさして抵抗もせず、まるで捕獲されるのを待っていたかのように、両肩をがっちりと掴まれたまま、巨体ゾンビの胸元に引き寄せられる。


「いいよ、食べたければ食べなよ」


 ミチルに悲壮感はない。

 しかし、極限まで興奮したゾンビはそれには気付かず、ようやく捉えた獲物を補食しようと大口を開けたその瞬間だった。

 ミチルはゾンビの喉の奥めがけて、ナイフのかわりに自身の右手に再び顕現させた『M9改』の銃身を、まるで魔術のような鮮やかな手際で迷うことなく激しく突っ込んだ。


「待ってたわ、この瞬間を。タフ過ぎるのよ、アンタ」


 言うや否や、ゼロ距離からの発砲!

 銃声は耳をつんざくほどに響き渡り、ゾンビの後頭部が脳漿を撒き散らしながら、内側から弾け飛んだ。

 崩れ落ちたゾンビの巨体を、ミチルはただクールに見下ろす。


「もう、聞こえてないだろうけど。勝ったと思った? でも、この間合いじゃ、さすがに避け切れなかったね」


 ミチルは『M9改』を数度空撃ちすると、銃身に残った血と肉片を振るい落とし、新しいマガジンを装填した。


 ミチルの孤独な戦いは、まだ終わらない。


最後まで読んで頂いて、ありがとうございました!

2025/12/18 18:10より「魔法少女・クロニクル」再開ですが、明日から投稿予定の作品が「時間律維持機構/時間監査局/クロノ・マギカ」全十篇と少々長いので、新シリーズを独立させることにしました。

クロノ・マギカも可愛がって頂ければ嬉しいです。

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