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9.加入者と妖族



 クラン創設からひと月後、僕達の家が立派なクランハウスに改築された。小人族によってあっという間に改築は終わり、僕達の家だった部分は、そっくりそのまま庭も含めて最上階に移されている。そして現在、僕は椅子に座り、クラン加入の為の模擬戦を眺めていた。



「セトリ様、マスターレオンの紹介状がある者は、一応大丈夫そうです」


「紹介状というか、押し付けられたんだけどね」



 でもまさか、中級パーティの他に上級パーティもいるとは思わなかったな。パワーバランス的に大丈夫なのか?



「問題児と言ってましたからね。ですが、戦力が多いに越したことはないかと。クランメンバーは家族のようなものです。セトリ様の御守り代わりにでもなればいいですね」



 御守りって……まあ、いいや。僕はサブマスターがいてくれれば、文句はないんだけど。



「サブマスターの件はどうなってる?」


「その件ですが、フレデリック様が探してくださっていて、何名かがこちらに向かっているそうです。今日あたり来るのではないかと」



 まさかのフレディが探してくれたの!?あの人、一応教皇だよね?いいのかな。教皇って偉い人なんだよ。



「なぁ、カイル。僕達兄弟ってフレディと親子みたいなものだろ?いいのかな。こんなに手伝ってもらってさ」


「親子のようなものだからこそではないですか?セナトとセトリ様の為にと、探していたので。それに、楽しそうでしたよ。クラン創設のお祝いに、とも言っていましたね」


「なるほど。フレディには本当に感謝だな。必要な人材なら、僕も兄さんも嬉しい」


「セトリ様が喜ぶのなら、セナトも満足でしょう。噂をすれば、到着したようですね」



 そう言って、いつも通りなぜか跪いていたカイルが立ち上がると、地下訓練所へレオンさんを先頭に三人の開拓者らしき人物がやって来た。



「セトリ、待たせたな。髪飾りとフレデリックからの人材だ」


「髪飾りはロウに渡してほしいんだけど」



 レオンが見せてきたのは、白い魔石のついた髪飾りで、デザインだ。紐でくくるようで、紐の先にはなぜか鈴がついている。



「この魔石に、牡鹿だかを入れておけ」


 カイルによって髪飾りをつけられ、白牡鹿が魔石に近づけば、スルリと姿が見えなくなる。どうやら魔石に入ったようだ。



「魔石に入ったし、気に入ったみたいだ。ありがとう、レオンさん」


「どーいたしまして。そんじゃ、俺はこれで帰らせてもらう。こいつらとは、そっちで話せ」



 そうして残された三人は、僕の前に来てなぜか跪く。



「お初にお目にかかります。私は月光騎士団に所属しておりました、ルアン・シキヴァートと申します。シキヴァート領で活動しており、現在は上級開拓者となります」



 絶対に来てはいけないような人が来てしまったようだ。ルアン・シキヴァートという名前に心当たりがある。帝国騎士団の元団長であり、シキヴァート公爵家の先代でもある。早めのセカンドライフを開拓者として過ごしているとは聞いていたが、まさか本人が来るとは思わなかった。まだまだ元気そうなイケオジである。長身であり、白髪混じりのパワフルなお爺ちゃんという印象だ。



「えっと……シキヴァート様、僕はセトリ・ロスティクスです」


「ルアンでよい。儂もセトリと呼ぶとするかのう」



 おー、なんかこっちの方が親しみがある。やっぱり堅苦しいのは、精神衛生上、良くないよな。



「ルアンさん、えっと……よろしく?」


「ふむ……仕方ないのう。それで良しとするかの」



 ルアンさんが立ち上がると、次は森人族の老人が僕の顔を触ってきた。布で目を隠し、白い髪は相当生きてきたと見える。森人族で老人ともなれば、千年近く生きているのだろう。



「ほっほっほっ」



 笑っているが、それ以上言葉が続かない。そこで、最後に残っていた鬼人(きじん)の男性がかわりに紹介してくれた。



「この人は、クオン・ヘイワーズ。俺はカムイ・サトウだ。爺さんは目が見えず、穏やかに笑っているだけで、特に害はないから安心してほしいそうだ。結界と修復魔法を得意としているからと、教皇が言っていたな」


「それって、僕の厄災対策?」


「その為だろうな。ちなみに、俺は妖術使いとして、クランを紹介してもらった。階級は中級だ」


「そうなの?じゃあ、向こうで試験受けてきてね」



 僕が指差す先では、兄さんと若い男性が戦っている。ロウはこちらを見ているため、カムイが気になるのだろう。僕がロウを呼べば、すぐにカムイを連れて行ってくれた。



「ということは、サブマスターはルアンさん?」


「そうなるのう。儂がセトリを支えるが、たまには強い剣士と戦いたいのう」


「それなら、兄さんはどう?ルアンさんから見て、まだまだかもしれないけど、兄さんの相手をお願いできないかな。兄さんも戦いが好きなんだけど――」


「セナト・ロスティクスか……本気になったら、相手にならんわい」


「やっぱり、ルアンさんから見たらまだまだかぁ」


「いいや、儂がじゃよ。セナトはセトリを守ることなく、戦いに集中すれば特級の実力者じゃろ。あの、ロウも化け物じゃな。儂が死ぬ」



 そうなのか?もしかして、騎士団の強さってそうでもないのか?それとも、本当に兄さん達がおかしいのか。じゃあ、いつも兄さんの訓練に付き合ってるカイルも……



 僕がカイルに目を向ければ、カイルは微笑むだけで何も言わず、ルアンさんはカイルの様子に苦笑いだった。その後、ルアンさんはカイルとともにサブマスターについて話し合うことになり、僕はひとりで戦いを眺めているうちにいつの間にか眠ってしまっていた。



 起きてからは、フォルトによって最上階に連れて行かれ、リビングでゴロゴロ。紹介状を持った人以外にも、予想以上に加入希望者が多かったため、大人しくしているのが僕の仕事だ。



「フォルト、カムイはどうだった?」


「奴なら、ロウくんが珍しく口出ししてたよぉ。パーティをつくれだってさぁ」



 パーティをつくれなんて言うの珍しいな。気に入ったのかな。というか、妖術ってどんな術だっけ?魔法とは違うのか?



「フォルト先生!妖術について教えて」


「いいよぉ。ちなみに、俺も使えるんだけど、見てみる?」


「えっ……見たい!」



 なんで使えるのかは、この際どうでもいい!とりあえず見てみたい!



「妖術は幻影か召喚のどっちかなんだけど、俺の場合は召喚ねぇ。俺は狐を呼び出せて、俺の目になってくれるんだよ。調査には便利だし、狐と自分の場所の入れ替えもできる」



 そう言って、フォルトが呼び出した狐は、綺麗な黒い毛並みで僕にすり寄ってくる。



「可愛い!ふわふわだ」


「こいつは、セトくんの護衛を任せてる奴だよぉ。優秀なんだぁ。この間のケーキ屋の時も、こいつが手伝ってくれたんだよね」



 そ、そうなんだ。こんなに可愛いのに、実は怖い?でも、僕には何もしてこないし……うん、考えるのはよそう。可愛いものは可愛い。



「ちなみに、フォルトはなんで妖術が使えるんだ?」


「俺は狐獣人じゃなくて――」



 次の瞬間、フォルトが姿を変えていき、尾がどんどん増えて九尾の狐になった。



「俺は妖狐(ようこ)。鬼人と同じで(よう)族なんだよねぇ」



 大きな体に、フサフサの白い毛。顔の一部や尻尾の先が赤い毛で、白に赤のグラデーションだったフォルトの髪と同じような色合いだ。顔にあった謎の赤い印も、目の前の狐と同じである。姿は違くとも、フォルト以外に考えられない。



「妖族……ん?でも、フォルトのマーキングはどういうことだ?」


「マーキングなんて、獣ならみんなやることだよぉ」



 そう言って、ベロンと僕の顔を舐めてスリスリしてくる。この姿ならマーキングも悪くない!



「フォルト、今度からはその姿で過ごさない?」


「セトくんの大好きなご飯が食べれなくてもいいならねぇ」


「それは駄目。やっぱりなし。戻って戻って」



 その日以降、フォルトがたまに狐の姿である妖体(ようたい)で僕のそばにいるようになり、兄さん達は何事もなかったように普通に受け入れていた。






 


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