8.クラン創設2
問題児がどれだけいるかは分からないが、兄さんとロウはわりとノリ気だ。実力を見てから考えるとまで言っている。
「僕は、僕の害にならなければいいよ」
「なら、リーダー達に伝えておくぜ」
「レオンさん……まさかこの後、ラヴァさんも来たりする?」
「いや、来ないんじゃねェか?リーダーが探索者ギルドから出ることは、普通ならねェしな。セトリくらいだろ」
良かった!ラヴァさんが来ないなら、心置きなくここでまったりできるよ。
そんなことを思っていたのが良くなかったのだろう。開拓者協会の入り口に、ラヴァさんの姿が見えてしまった。
「ヒッ!」
「おや、本当にセトリの髪が長くなっているね。ますます森人族のようだ」
「僕は人族だ!」
「そう、そこが残念でならない。森人族ならば、すぐにでも森へ連れて行き、守神と契約してもらうのだけどね」
守神とは、森人族の森にいる守護獣のことであり、守護獣は男女関係なく美しい者を好むようだ。契約してしまえば、結婚することも森から出ることもできないが、守護獣が契約者を守るのだと言う。契約者を守るついでに、契約者がいる場所も守るため、契約者は自然と軟禁状態となるのだ。
「嫌だ。僕は軟禁されたくない」
「ずっとゴロゴロしているのにかい?」
「……見てたの?」
「まさか!そんな変態行為はしていないよ」
こわっ!本当にラヴァさんは怖い。何考えてるか分からないし、ストーカーみたいな発言するし……僕、監視されてないよな?森人族って怖いんだよなぁ。同族好きというか、綺麗なものが好きというか……
「そ、それより!ラヴァさんは何しにここへ?」
「セトリのクラン創設の祝いをしにね。探索者ギルドからクランマスターが出たことなんて初めてだろう?」
そう言って、収納魔具から取り出したのは、黒の魔石がついた首飾りだった。ラヴァさんは自身の首をトントンと指差し、黒蛇の存在をジェスチャーで伝えてくる。
「その子が魔力を補給しないようだから、この魔石にセトリの魔力をためておくといいよ」
「……見えてたの?」
「勿論。私を誰だと思っているんだい?森人族はそういった存在に敏感なんだよ。セトリを守っているようだし、刺激したくはないからね。知らないふりをさせてもらったよ」
もしかして、フレディから聞いたのか?見えるのはフレディくらいだし、この憑きモノについて何か聞いたのかもしれないな。
「別に僕は隠してないけど」
「そうだね。セトリの魔力で回復できるのだろう?見えるようになるのなら、見えた方がいいと思わないかい?」
「思う。僕にはどうする事もできないし」
「そうだね。知能も下がっているようだから、早く回復してもらった方がいいと、フレデリックも言っていたよ」
やっぱりフレディだった。でも、これはありがたい。白牡鹿は放っておいても髪から魔力を食べてるけど、黒蛇は食べる気配がないんだよな。
「まさか、セトリの首にいるのか?」
「そうだよ。黒蛇は首に巻きついてる」
「苦しくねェの?」
「大丈夫。すり抜けるし」
兄さんとロウは僕の心配をしているようだ。まさか首に巻きついているとは思わなかったのだろう。兄さんがラヴァさんから首飾りを受け取ると、慎重に僕の首につけてくれる。すると、黒蛇は魔具と同じで壊そうとするが、魔石に僕の魔力が流れると、ピタリと止まって壊すか迷ってしまったようだ。
「ふふ、それは壊せないでしょう。容量は少なくとも、常にセトリの魔力で満たされているのだから」
「容量いっぱいになると魔力が流れないのか。食べなかったらどうなる?」
「食べなかったら、その魔力はセトリの毒になるよ」
次の瞬間、兄さんとロウがラヴァさんの首に剣を向け、クラン名を考えていたはずのカイルとフォルトも無表情でラヴァさんを見ていた。二人で話していたレグスさんとレオンさんも、いつの間にかラヴァさんの背後に回っている。こんな状況でも穏やかに笑っているラヴァさんは、やはり怖い。
「私がセトリを殺すとでも?セトリを傷つけるなんて、考えるだけで自分を殺したくなる。それは、その子が魔力を食べればいいだけのこと。その子が魔石に入れるようなら、回復後も役に立つものだよ」
「……確かに!黒蛇が回復したら、首に巻きつかれるだけで熱が出そうだ」
「私はセトリのことを考えて、その首飾りを贈っただけだよ。セトリは喜んでいるようだけど、キミ達はまだ納得できないのかい?」
すると、全員が何事もなかったように普通に戻ったが、僕にとってはそれが恐怖でしかない。僕の周りは、危険なものばかりだと、嫌でも再認識させられた。黒蛇は魔力を食べることにしたようで、渋々魔石に入っていく。
その後、ラヴァさんはレオンさんに連れられて帰って行き、カイルがクラン名を記入する。
「クラン名は、【厄災の使徒】です。我々パーティを【導】と略すように、クランは【使徒】、もしくは【厄使】と呼んでもらいましょう、セトリ様」
「あ、うん。そうだね」
使徒って何!?僕の代わりに依頼受けるから使徒!?おかしい。絶対にカイルが考えただろ。僕の【厄災】を入れたのは……フォルトか?
「俺は厄神がいいと思ったんだけどなぁ」
「神を正式に使ってしまえば、教会が動く。フォルトだって分かっているだろ」
「分かるけどさぁ」
なるほどね……良かった。神じゃなくて、本当に良かった。
「クラン名【厄災の使徒】略して【厄使】にするとしよう。次に、クランについてだが――」
そう言って、レグスさんがクランについて説明していく。クランとは開拓者と依頼の分散を目的としており、ギルドと同じような立ち位置になるようだ。僕は途中からクランの運営について頭に入ってこなかったが、カイルやロウが理解しているため問題はないだろう。
途中で説明に飽きてきた僕は、知り合いを見つけてそちらに向かった。もう既に開拓者協会はボロボロであるため、僕は自由の身である。
「レファン!こんにちは」
「おや、こんにちは、セトリ。コレをやったのはキミだったか」
レファン・ルダータ。女性だが、男性寄りの麗人だ。レファンはいつも可愛い女性に囲まれていて、ある意味ハーレムになっている。羨ましい!
「どうして僕がやったと思うんだ」
「この規模の破壊はキミしかいない。全員が落ち着いている事と、キミが自由にしている事からも、やったのはセトリしかいないだろう。また転んだのかい?」
「当たり。でも、今回は転んでないよ」
「転んでないのか?なら、何があった」
グッと親指を立てただけだなんて言えない。
「レファン、問い詰めるのはそのへんにしてちょうだいな。わたしは、この綺麗な髪の方が気になるわ。あぁ、なんて可愛らしい。セトリくんは天使よ」
「そうね。セトリくんなら、女性パーティにいても違和感がないわ」
「そもそも、レファンが女性に好かれるように、セトリくんは男性に好かれるでしょう?」
三つ子の女性は、僕を愛でつつもレファンに恋する乙女のような表情だ。三つ子の名前はいまだに覚えられない。ただ、三つ子のお姉さんと呼べば、彼女達は喜ぶため、そのままである。おそらく、お姉さんと呼ばれるのが嬉しいのだろう。この三人は、見かけによらず歳を重ねているようだから、名前より年齢が気になるらしい。
「僕も一応男だよ」
「こらこら、あまりいじめてやるな。セトリの場合は成長しないのだから、恋愛にすら発展しないだろうね」
なんか……僕の男としての何かが壊れた音がする。気のせいかな。ポキッといった気がするんだ。
「きゃー!可愛い!セトリくん、こっちにもおいで!」
「綺麗な髪ね!お姉さんが抱っこしてあげる!」
「セトリくんがいると癒されるわ!」
などと、僕が女性パーティの方へ行けば、大人気である。完全に子ども扱いで、女性に愛でられるのは想像以上に疲れる。レファンと喋ろうと思っただけなのだが、なぜかもみくちゃにされた僕は、ロウに助けだされて開拓者協会を後にした。




