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7.クラン創設



 僕の笑顔に全員が固まる。これはいつもの事だ。そして、机がミシミシと鳴るのもいつもの事。僕の骨がミシミシと鳴るのも……いつもの事。だが今回、机がバッキバキに割れ、僕を抱きしめるフォルトがスリスリ攻撃をしてくる。これは獣人族特有の匂いつけ……マーキングだ。



「セトリ……さまッ!くッ……胸がッ……」


「俺の弟は天使だった!髪が伸びるだけでこんなにも破壊力があるとは!」


「セトは笑顔禁止だ!危険すぎる!」


「セトくん、かぁいい!」



 マスコットのようであり、弟のようであり、家族のようであり……とにかく子どものように僕を溺愛するみんなは、僕の笑顔に弱い。それも、とびきりの笑顔に弱いのだ。だからこそ、この笑顔はここぞという時に使う。



「僕のお願い、聞いてくれるならクラン創設もいいかと思うんだ」



 僕のお願いに反応するように、黒蛇と白牡鹿も含めた全員が静かに頷く。それを確認し、僕は指先を丁寧に合わせて、貴族と言われても遜色ないよう、笑顔を崩さずに口を開く。



「クランの管理を任せる人が欲しいんだ。信用できて、力もあって、僕を甘やかしてくれそうな人。僕のお願い、聞いてくれるよね?」



 コテッと首を傾げれば、もう堕ちたも同然。フォルトのスリスリがベロベロに変わったのがその証拠だ。頬を舐められるのは、わりとよくあるため気にしない。獣人族は庇護欲をそそる者を好み、守る為にマーキングするのだ。子どもや恋人がその対象であり、僕も【厄災】扱いされる前は、子ども扱いでよく獣人族に愛でられていた。だが、今ではロウとフォルトだけであり、ロウはフォルトがいない時だけマーキングをしてくる。一応、僕を守る為だ。戯れているのも多少はあるが……



「セトリが望むようにしよう!ただし、クランマスターはセトリだ!」


「セトを補佐する奴が優秀ならいいんじゃねェの。セナの言う通り、マスターはセトだがな」


「セトリ様の為、優秀な人材を探しましょう!」

 

「そうだねぇ。とりあえず、クラン創設後は人材募集かなぁ」



 僕はマスターだろうが、他人に丸投げが決定したため、だらんとフォルトに寄りかかり、完全に身を預けた。



 その後は、全員で開拓者協会へと向かい、僕はフォルトではなくロウの片腕に座っている。



「今回は大人しく来おったな」


「レグスさん、こんにちは。僕は毎回大人しいよ。今日もゴロゴロしてたんだ」


「髪が伸びて、美少女になったとは聞いたが……ふむ、これは危険だ」



 レグスさんは何を言ってるのかな。美少女じゃなくて、せめて美少年と言って欲しい!むしろ僕は美青年だろ。



「レグス代表、セトリが可愛いのは今に始まった事じゃないぞ。知らなかったのか?」


「それはセナト、お主の兄目線――」


「セトは可愛い。それは(くつがえ)らねェだろ。何言ってんだ」


「いや、可愛いとは思うが――」


「可愛いより美しいだろう。セトリ様は神なのだからな」


「か、神って、お前さん――」


「セトくんは、【厄神】になったんだよぉ。教皇も納得してたぁ」


「なッ……【厄神】だと」



 レグスさんは大忙しだ。何かを言う度にうちのメンバーが口を挟む。一人一人に反応するのは、さぞかし大変だろう。分かるよ、その気持ち。



 僕はグッと親指を立ててレグスさんを応援した。すると、なんという事でしょう。白牡鹿がレグスさんめがけて跳躍し、黒蛇が大きくなって、急に開拓者協会を破壊したではないか。何かの合図だと勘違いしたのだろう。

 


「クソッ!なにしやがった、セトリ!」


「おっ、みっけぇ!ロウくん、良かったねぇ」



 フォルトの指差す先には、たまたま来てしまったのだろう、冒険者ギルドマスターのレオン・ウェールズがいた。獅子獣人の男性で、昔から僕を可愛がってくれていた人でもある。



「レオンさん!逃げてー!」



 僕が叫ぶ間に、既に動いていたロウは、僕をカイルに預けてレオンさんの元へ向かってしまっていた。殴りかかっていかないため止めはしないが、ロウが怒ると怖いのは知っている。そのため、僕は逃げてと言いながらも両手で目を覆い、見ないようにする。



「レオン、その汚ねェ口調やめろ。セトが真似すンだろ」


「あ゛?」


「セトがクソと言いやがった。今、レオンも言ったよな?」


「お前に言われたくねェよ」



 確かに、ロウにだけは言われたくないよな。分かる、分かる。僕もそう思ってる。



「セトはこんなに可愛いんだ。天使みてェなセトに、悪影響だろ」


「だから、お前には言われたくてねェって」


「セトの可愛さが半減する。グレたらどうしてくれンだ」


「セトリがグレたら【厄災】じゃすまねェな」


「そうなンだよ。セトは【厄神】になっちまった」


「なんだって!?」


「だからよォ、あの綺麗な髪を纏めるに相応しいモンをよこせ」


「……なるほど。分かった。詫びにいくつか持ってこよう」


「そうしてくれ」



 僕は何を聞かされているんだろうか。見てはいないが、きっと二人とも恐ろしい顔で喋っていたのだろう。人がいなくなっているのがその証拠だ。



「セトリ様、良かったですね!美しい髪飾りが手に入りそうですよ!」


「うん、まあ……そうだね」



 そうだね、としか言えない。喧嘩してんのか、髪飾りについて話してんのか分からない。



 ロウが戻ってくると、僕の頭を撫でてきて、ついでに髪を整えてくれる。黙っていれば、ただ過保護なだけなのだが、喋るととんでもなく口が悪い。これでも良くなった方だ。特に良くなったのは、怒り任せに獣体にならないところだ。

 ロウはこれでも良い子になったのだ!



「ロウ、噛まなかっただけ偉いね」


「……噛んだらセトに怒られンじゃん」



 うんうん、可愛いな。僕に怒られるのがそんなに怖いのか。まあ、そりゃそうだろうな。僕が怒ると、とんでもない事になるし。主に僕が……なんで僕が怒ってるのに、僕がとんでもない事になるのかは分からないけどな。



「さて……被害が凄いが、さっさと話すとするか。これ以上暴れられたら敵わんからな」


「別に暴れてないよ」


「……そうかい」



 レグスさんは諦めたように遠い目をし、兄さんがクラン創設の契約をする。クランマスターは僕。サブマスターはまだ未定。所属メンバーは、とりあえず今のところは【厄災の導】のみ。そして肝心のクラン名だが、何がいいかと突然意見を求められる。



「クラン名なんてなんでも良くない?」


「駄目だ。セトリが決めてくれ」


「そうだな。【厄災の導】は俺達が決めたんだ。セトリか……カイルかフォルトでもいいんじゃねェの」


「確かにそうだな。カイルもフォルトも決めてくれ!」



 すると、カイルもフォルトも悩み始め、僕は二人に任せようかと呑気に考えるふりだけする。とりあえずカイルの膝の上は筋肉で硬いため、移動しようかと考えたその時、レオンさんが僕を抱き上げた。



「大人しくしろ、セトリ。これ以上壊すな」


「壊すつもりはない」


「動いて何かあれば壊れるだろ」



 うん、そうだね。でも、お尻が痛い。



「レオンさんは何しに来たんだ?」


「話を逸らすな……と、言いたいが、セトリに会う為だな」



 僕に会う為?僕に会ってもいい事なんて何もないぞ。厄に巻き込まれるくらいだ。



「クラン創設にあたって、問題児達を受け入れてほしい」


「……なんで問題児?」


「問題児は問題児に任せろって言うだろ?」



 言わないよ!?なにそれ、どこの話だ!そんな国があるなら僕の厄を押し付けてやる!



「問題児が多くても女はいらねェからな」



 相変わらずロウの女嫌いは異常だな。何があったんだよ。



「分かってる。それに、パーティも同性で組むのは常識だ。男女で組んで色恋沙汰おこすバカは若い奴らか、もうどっかで死んでる」


「というと、問題児はベテランか?まさか、セトリの信者か!」


「そうだ」



 そうだ、じゃない!信者ってなんだよ!僕知らないんだけど。教会ならまだ分かる。でも、開拓者で僕の信者なんて、よほどのバカだぞ。



 僕がクラン名を考えていないのは、既にバレているだろう。カイルとフォルトが悩んでいる中、問題児の話題で盛り上がっていた。




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