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6.流血事件



 席についてケーキを選んでいると、フォルトが嬉しそうに武器を取り出す。



 え……フォルトさん、何してるの?ここでそんなもの出したら危ないよ。



「ラッキー、さすがセトくん。ほんと、セトくんといると飽きないなぁ」



 笑顔でそう言うと、フォルトは隣に座ってきた客の首を斬り、更に厨房へと行って暴れたい放題。突然のことに、僕は目を閉じた。



 うん、これは夢だ。ケーキ屋に行って、ケーキを選んでたら、連れが突然人斬りになった。他の客や店員も皆、なぜか武器を取り出して僕に向かってくる。普通に怖い。黒蛇と白牡鹿が僕を守るように店内を破壊し、大惨事だ。



「セトくん、生きてるぅ?」


「……フォルト、説明して」


「いつもの護衛だよぉ。セトくんが【雪の庭】から出てきたから、セトくんを攫う為に雇われたんだろうねぇ」


「人攫い?」


「そうそう、セトくんは教会から神聖視されてるし、セトくんを欲しがる貴族はたくさんいるんだよねぇ。あと、子ども好きの変態からも大人気!」



 まだ諦めてないのかよ。フォルトもフォルトで、わざわざ全員をここに集めたな?



「セトくん、今度からは食べ物につられないようにねぇ。こうやって、セトくんをおびき寄せる為に、わざわざ店建てる奴もいるんだからさぁ」


「……暇なの?」


「教会の奴らはこんなに暇じゃないよぉ」



 フォルトは開拓者協会に所属しているが、教会側の元暗殺者でもある。教会からの依頼で僕を護衛していたのだが、今はパーティメンバーであり、勝手に僕の護衛をしてくれている。



「フォルトは楽して暇そうだけど」


「これは、引退してパーティ入りした特権。セトくん、不機嫌だね。この間まで、俺がいなかったから怒ってる?」


「怒ってないけど……この人達、生きてる?」


「生きてるよぉ。セトくんが殺すなって言ったんじゃん。それに、今の俺は教会の暗殺者じゃないしぃ」


「でも、職業(ジョブ)暗殺者(アサシン)でしょ」


「そうだけどさぁ。一応、メインは他にあるんだよ」



 フォルトは同じパーティでありながら、いまだに謎が多い。そもそも僕は、パーティメンバーが戦っているところを見る機会がない……というより、虚弱体質が原因で見れない事がほとんどであるため、全員の能力が分かっていなかった。



「はぁ、いちごケーキ食べたかった」


「……セトくんって、まともそうに見えて誰よりもぶっ飛んでるよねぇ」



 失礼だな。この状況をつくった奴に言われたくない!



「この状況でいちごケーキ選ぶとか……セトくんの精神状態がかわいそう。帰ったら、美味しいいちごケーキ作ってあげるぅ」


「やった!そうと決まったら早く帰ろう!」



 フォルトの作る物はなんでも美味しいんだ!これは迷宮で頑張ったご褒美だな!



 そうして、フォルトが教会に連絡をいれ、僕達は【厄災の導】の家に帰った。





⌘⌘⌘



「セトリを狙った者達はこちらで預かっても?」


「ああ、かまわん。儂は【雪の庭】の件で精一杯だ」



 セトリとフォルトがケーキ屋から去った後、フレデリックとレグスが血まみれの店内で話す。



「【雪の庭】に関しては、そちらの力不足だよ。セトリを責めるような発言はしないでもらおうか」


「はぁ、お前は本当にセトリ贔屓だな」


「セトリは私の息子のようであり、神でもあるからね」


「セトリの上にはセナトがおるだろう」


「セナトも可愛い息子だけれど……あの子は少々おバカ……いや、なんでもないよ」


「まあ、バカではあるな。だが、セナトがいなければ、セトリは既に死んでおる。セナトはセトリをずっと守っておるからな」


「分かっているよ。だからこそ、私にとっては二人とも可愛い息子達で、セナトからセトリを奪うつもりはない」


「怒らせると怖いのは、セナトだからな。いや、ロウもいたか。アレも厄介だ」



 ロウの話になり、フレデリックの表情が険しくなる。フレデリックにとって、ロウは厄介というより危険人物だった。



「そういえば、レグス代表は知っているかい?神獣は執着心が異常なんだよ」


「……なんの話だ」


「神獣の執着は、時に厄災となる。ナニに執着するのかは、神獣によって違うようだけれど、引き寄せられる対象はなぜか同じなのだとか。気をつけたほうがいい。扱いを間違えれば、神獣の怒りに触れるよ」



 そう言ってフレデリックがケーキ屋を去り、残されたレグスは片手で目を覆った。



「……分かっておるわい。あの子ら三人の謎は謎のまま。それでいい。儂もまだ死にたくはないからな」



 レグスのひとり言は誰に届くでもなく、血みどろの部屋に消えた。





⌘⌘⌘



 流血事件から数日後、僕はリビングに転がっていた。虚弱体質であり、よく転ぶ僕の為に、この家は土足禁止で高級マットが敷かれている。そこでクッションを抱きしめながら、日当たりの良い場所でゴロゴロ。僕のすぐそばには、ポーションや薬を調合するロウがいる。そして庭では兄さんとカイルが訓練中。フォルトはみんなのご飯作りだ。



 お!もしかして今日のデザートはプリンか!いい匂いがするぞ。



「セト、これ持って」



 鼻をスンスンさせていると、ロウが草を渡してきた。調合用の草だが、僕にはなんの草か分からない。体にいいのは知っている。なぜなら、たまにこの草をそのまま口に突っ込まれるからだ。熱が出た時によく口にぶち込まれる。今回の迷宮では、この草を回避していたが、持つ手が震えるくらいには苦い草である。



「震えンな。これはセトの為の解熱薬になンだぞ」


「震えるよ!震えるくらいに、この草が苦いのは知ってる!クソまずいんだからな」


「おい、クソはつけンな。どこで覚えてきやがった。まったく……セトの言葉づかいは気をつけてたはずだぞ」



 一番言葉づかいが悪いのはロウだけどな。



 僕限定で言葉づかいに厳しいロウは、殺気を込めて兄さんを睨みつけた。すると、兄さんはその殺気にすぐに反応し、立派な剣が飛んできた。だがロウも負けていない。飛んできたその剣を掴んだと思ったら、その勢いのまま投げ返したのだ。



 ひぇ……危なすぎる!頼むから、僕がいない時にやってくれ。



「セナ、セトの言葉づかいに悪影響だ。クソは使うな」


「クソ?そんな言葉使わないぞ。ギルドで覚えたんだろ」


「チッ……」



 舌打ちするロウは、再び手を動かして調合をする。迷惑な奴である。ロウの尻尾を撫でて落ち着かせようとすれば、ロウの耳がピクピクと動く。するとそこに、フォルトがやって来て自分の尻尾も差し出してきた。



「セトくん、おいでぇ。ご飯できたよぉ」


「ありがとう、フォルト」



 そうして僕はフォルトに抱えられ、そのままフォルトの膝の間に座って食べる。自分では食べず、食べさせてもらうのが僕の食事の仕方だ。せっかく作ってくれたご飯が、何かの拍子に駄目になっては困るからだ。自慢じゃないが、基本的に僕は自分では何もしない。とんでもない事になるからだ。僕が唯一、自ら進んでやる事と言えば、庭の木を使って毎日身長を測る事くらいだ。相変わらず十歳の子どもより低い身長だが、それでも日課は欠かさない。



「セトリ、今日は開拓者協会に行くぞ」


「ん?嫌だよ」


「呼び出しだ。クランを創設してほしいらしい」


「嫌だ。面倒だし」



 クランなんて、他にもあるし必要ないだろ。僕はこのまま家でゴロゴロしてるからさ、兄さん断ってきてよ。



「では、私がセトリ様のクランを創設して来ましょう!」


「いや、無理だぞ。リーダーじゃないといけないらしい。セトリを連れて行って、俺が代筆するんだと言ってたな」


「なら、セトくんを連れ去るしかないねぇ」



 だからなんで僕なんだよ。リーダー変えればいいだろ。



「……セト、クランはつくっておけ」


「嫌だって言ってるだろ……でしょ」



 うっ、睨まれた。さっきのクソがまずかったのか。今までギリセーフだったのに!



「クランがありゃ、依頼も押し付けられンだぞ」


「なにそれ、僕へのご褒美?」



 そんなの、クラン創設一択じゃないか!



「セトリを守る奴が増えるのはいい事だぞ。俺の訓練も捗る!」


「セトリ様に近づく奴が増える……クラン加入者は見極めなければ」


「セトくん、面白い奴入れよぉ。それで、俺の遊び相手になってもらう。いい考えだぁ」



 うん、でも待てよ?クランの管理は誰がするんだ?この感じだと、兄さん達じゃ無理だろ。管理と依頼、どっちが面倒だ?これは悩む。どっちの面倒をとるべきか……あ、そうだ!いい事思いついたぞ。



 パンと手を叩くと、すぐに静かになる。そして僕は、最後の一口となるご飯を飲み込み、とびきりの笑顔をつくった。






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