4.厄憑きレベルアップ
翌日、僕は迷宮【雪の庭】の前にいた。普通、開拓者は依頼を受けた日に行動するが、僕達は違う。虚弱体質な僕は、準備をしなければいけない事がたくさんあるのだ。
「セトくんには、ローブは大きかったかぁ。でも、相変わらず可愛いねぇ。膝小僧」
僕のローブを捲り、膝小僧を褒めるフォルト。カイルが抱きつくように、筋肉で僕の首を絞め、フォルトがしゃがんで膝小僧を見ているというカオス状態だが……もっとカオスにしてやろう。
「行くぞ!セトリ!体もあったまったし、準備はできた!」
上半身裸で剣を振り回し、ひとりだけ汗を流している兄。危ないうえに恥ずかしいからやめなさい。
「セト、首絞まってンぞ。大丈夫か?」
相変わらず心配はしても、助けてくれないロウ。気づいてるなら助けてくれ。
「セトリ様、今日はとても良い天気ですね。厄日和です」
突然の大雨に雷が鳴っているにも関わらず、爽やかな笑顔で僕の首を絞め続けるカイル。厄日和ってなんだよ。
「それにしても、雪エリアで短パンとか……セトくん、気合い入ってんねぇ」
おい、やめろ!僕だって好きで着てるわけじゃない!
子どもは開拓者になれないため、僕に合う防具がないのだ。しかし、この服は貴族用の服なだけあり、防御力がある。難点は、膝上のパンツであることだが、膝上にベルトをつけて固定すれば、大きめのロングブーツでも、固定してはくことができるのだ。膝小僧フェチのフォルトは、このベルトとロングブーツに挟まれて、膝小僧が強調されるのが気に入っているらしい。だがそんなフォルトも、雪エリア向けではない服が気になるようだ。
どうだカオスだろ?これをカオスと言わずになんと言う。
「はぁ……みんな行くよ」
そうして先頭を歩く。
迷宮内での先頭は、探索者である僕の役目だ。
そして、僕を助けるのが冒険者である、みんなの役目である。
迷宮【雪の庭】は、ほとんど一本道で、まず迷うことはない。魔物の種類も、スノーラビット、スノーキャット、スノーバードといった、危険度の低い魔物がたまに出るくらいだ。しかし、油断してはいけない。自慢じゃないが、僕は一度死にかけたのだからな!
「セトリ!魔物が弱すぎる!」
うん、兄さんは雪でも切ってなよ。あと服は着て。見てる方が寒いわ。
「セナはセトから離れろ。お前が一番危ねェ」
いやいや、迷宮で一番危ないのは、むしろロウだよ。宝箱が見えた時以外、全然やる気だしてくれないし、僕が怪我してから動くよね。なんで?ロウは僕をいじめたいのかな!?僕の体重が減ったのは、絶対にロウが原因でもあるからな!?今だって、武器じゃなくてポーション持ってるじゃん。お願いだから武器を持て!後ろでポーションを構えるな!
僕は攻略用の魔具を取り出し、この迷宮の地図を見ようとしたが、立体的な地図が現れると同時に黒蛇に壊されてしまった。魔具を壊した黒蛇は僕から離れて、フヨフヨと浮いている。
「やっぱ駄目だねぇ。【夜の庭】以来、魔具がすぐに壊れるんだもんなぁ」
「今回もセトリ様の勘で行くしかないですね。頑張ってください」
「セトくんの勘は凄いからなぁ。それに必死に地図書いてるセトくんは面白い」
僕の勘というより、黒蛇の案内だ。なぜかこの黒蛇は、迷宮に入れば案内してくれる。だが、危険な場所ばかり案内するため、僕としては避けたい。
「……行きたくない」
僕が首を横に振れば、黒蛇は大きくなって暴れる準備をする。完全に脅しである。この黒蛇が触れる事ができるものと、できないものの違いはいまだに分からないが、物を壊す事が可能であるため、全部をすり抜けるわけではないのだ。そのため、大きくなる時点で脅しになる。
「この兄がセトリを守ってやる!安心して進め!」
「……はぁ、わかったよ。進むから絶対に僕を守って!死にたくない!」
「安心しろ。セトは死なせねェよ」
そりゃ死なないだろうよ!特級ポーション握りしめてるんだからな!頼むから武器を持ってくれ。僕が安心できない。そのポーションだけは絶対に使われたくない!回復はカイルに任せてくれ。
迷宮はいろんな意味で疲れる。ツッコミどころしかない彼らと、黒蛇と僕の共同作業による厄災。虚弱体質な僕が疲れないわけがなかった。黒蛇について行く僕は、雪に足をとられてボフッと雪にダイブする。それと同時に勢いよく雪が舞い、僕を守るように黒蛇が囲ってくる。
「セトリ!大丈夫か!」
「セト!ポーションがある!安心して行ってこい!」
「セトリ様!すぐ助けに行きます!」
「これでセトくんの厄憑きがレベルアップするなぁ。楽しみぃ」
あー、最悪。みんなの声が上から聞こえるってことは、ここは隠しルートだ。今回は部屋じゃないのかよ。
「……天井ってことは、転移かな。黒蛇、キミがやってくれちゃったの?」
黒蛇は首を横に振り、僕が原因だと言わんばかりに尻尾を向けてくる。
「僕はたまたま雪に足をとられて転んだだけだよ」
僕は悪くないし、ここまで来たら、もう何も恐れたりしない!だって、もう既にまずい状況なんだから!
僕は黒蛇を無視して歩きだすが、すぐにパタリと倒れて動けなくなる。虚弱体質が雪の上にダイブしたら、どうなるか分かるだろうか。そう、僕はすぐに熱を出した。こんなにも効き目があるのかというほど、驚きの早さで僕の体調が悪くなる。
「あー、今度こそ死ぬんだ」
心配するように僕を包んでくる黒蛇だが、全く意味がない。すり抜けてしまっては、いないのと同じなのだ。体が動かなくなり、持っているポーションも熱には意味がない。瞼が重くなり、意識が飛びかけたその時、サクサクと雪を踏む足音が聞こえてきた。
誰だ……まさか、開拓者の生き残りでもいたか?
力を振り絞って見上げると、そこには白い牡鹿が立っていた。フンフンと鼻を鳴らして僕の髪を食べようとする……がしかし、黒蛇と一緒ですり抜けてしまっている。黒蛇と一緒ということで更に気が遠くなり、再び脱力する。
あー、駄目だ。コレは駄目な奴だ。絶対悪霊の類だ!間違いない。
熱で呼吸が乱れ、プルプル震えていると、突然の浮遊感に気持ち悪くなる。
「うぇ……むり、死ぬ」
「セトリ!」
吐きそうになったその時、兄さんの声が聞こえて、やたらしっとりした熱い肌が僕を包む。
「にい……さん……あつい」
寒かったが、兄さんに抱きしめられたことで急に暑苦しくなり、再び雪にダイブしようとする。だが、それを阻止するように、次は鋼鉄の鎧が僕を包んできた。すごく痛い。
「セトリ様!熱が出てますね……怪我だけでも治しましょう」
カイルである。治してくれるのはありがたいが、僕専用でありながら、僕から離れたのは許し難い。それと、この鎧も痛くて気に入らない。
「カイル……帰ったら、おしおき」
「ッ!喜んで!」
カイルが喜んだ気がしたが、気のせいだろう。それより気にしなくてはいけないのが、首に巻きつく黒蛇と僕に擦り寄ってくる白牡鹿だ。黒蛇は白牡鹿のことは威嚇しないらしい。
あぁ、ついて来ちゃったのか。いや、憑いちゃったのか。クソッ、この白牡鹿がみんなに見えないのが悔しい!
「おい、セト!また何か憑けやがったな!?宝はどこだ!」
「セトくん、あいつら片付けたら、ご褒美ちょーだい」
「ご褒美……分かった」
ものすごい数の魔物が襲ってくるのを見た反応は其々だが、さすが僕の厄についてくるだけはある。全員、顔はニヤついているのだ。その中でも、ぶっ飛んでる奴がひとり、僕の顔を覗き込んでくる。
「じゃあ、まずは命令して。セトくんの命令、やる気でるんだよなぁ」
「……魔物を殲滅しろ」
僕の命令に対して全員が「了解」と口にする。それと同時に僕は雪の上に置き去り。カイルまで行ってしまったのだ。
待って!カイルは戻ってきて――




