3.指名依頼
騒がしくなったところで、必殺「耳が痛い」を発動。ため息をつくのがポイントだ。すると、途端に静かになる。僕は小さい声で呟くだけだが、これの効果は凄まじい。ロウがポーションを取り出し、カイルが治癒しようと魔法を発動するくらいには効果がある。
「はぁ、漸くセトリと話せるわい。こっちはセナトに代筆してもらうとして……セトリ」
レグスさんが何かを取り出そうとするため、僕は両手で目を隠すが、背後にいるフォルトに両手を掴まれる。
「セトくん、見て見てぇ。これ、面白い依頼だよぉ」
「いや、僕は見たくない!」
「んー……じゃあ、帰ろっかぁ」
次の瞬間、僕はフォルトに抱えられて扉の前まで移動するが、その一瞬にメンバー全員がついてくる。フォルトの道を塞ぐ為だ。
「待って、フォルト。僕もここに用事があるんだよ」
「用事?なら仕方ないかぁ。セトくんの用事って何ぃ?」
フォルトが僕を抱えて戻れば、メンバー全員も大人しく戻る。なんとも言えない不思議な光景だが、これはいつもの事だ。誰かが僕を連れて行こうとした場合、必ず全員がついて来るのだ。
「ああ、それなんだけど、僕専用のパラ――」
「セトリ、それは言うなと言っただろ!」
兄さんが僕の口を必死に塞ぐが、パラと言っただけで反応するカイルが、いい笑顔になった。
「セトリ様専用の聖騎士ですね?それなら私がいます」
いや、カイルじゃなくて僕専用だって言ってるだろ。僕専用ってことは、僕だけの聖騎士だ。
「ンな事よりセト、この依頼受けねェの?代表はセトの好きそうなもン選んでくれた――」
「言うでない!」
僕の好きそうなもの?それって、迷宮探し?それとも、迷宮の隠し部屋探し?
「迷宮【雪の庭】の再調査だ。隠し部屋の他に、魔物の調査を頼む」
「ん?【雪の庭】って下級の迷宮だよな?何度も攻略されてるし魔物も少なくて、迷宮【雪獄】ほどの命の危険はない。僕は別だけど」
「ああ、そうだ。迷宮の庭で死にかけるのはセトリくらいだ」
よく分かってらっしゃる。さすが、開拓者協会の代表。一応調べてるのかな。それと、この手の依頼を僕に振ってくるって事は……
首に巻きつく黒蛇を撫でる。この黒蛇がいた迷宮も、【夜の庭】という庭シリーズであり、魔物も出ない安全な迷宮だった。だが、夜というだけあり、ライトの魔具を使用しても暗い。手練れの冒険者であれば目が慣れて周囲も見えるのだろうが、僕は残念ながら全く見えない。そのうえ、魔具を壊してしまった僕は仲間とはぐれてしまった。その結果が、黒蛇との出会いである。
「セトリが厄憑きになった【夜の庭】は、今では上級の迷宮になっとる。おそらく、庭シリーズの迷宮が目覚める鍵はセトリが壊した祠だ」
「じゃあ、僕じゃなくていいよね。僕は行かない。開拓者なら、喜んで僕みたいな犠牲者になってくれるよな」
開拓者は未知のものに惹かれる。僕もそうだけど、今回は僕にとって未知じゃない。もう既に厄憑きになったんだから、僕じゃない人を犠牲にしなよ。
「いいや、これはあくまで推測だ」
「じゃあ尚更、僕じゃなくていいよね」
「それが……【厄災】に憧れる開拓者が、ギルドに関係なくこの依頼を受けた。その結果、誰も帰ってこなかった」
待って、【厄災】に憧れるって何?僕の苦労も知らないで、厄憑きになりたいバカがいるのか。この黒蛇を押し付けてやりたい!
「それなら知ってる。最奥に突然現れた死体の山。全員が氷漬けで発見。祠は確認されず、立ち入り禁止となっているそうだな」
「そうだ。さすが上級聖騎士。教会で知ったか?」
「教会は、セトリ様を庭シリーズから離そうとしていたな。セトリ様に何かあっては大変だとな」
「はぁ……教会はセトリの厄を神聖視しておるからな」
教会は遊びに行くと歓迎してくれるし、物を壊しても怒られないから好きだ。何より、僕の怪我をすぐに治してくれる!それと、教皇様は黒蛇が見えるんだよな。あの人のおかげで、僕は教会で自由にさせてもらってるし、感謝しかない。
カイルがなぜか褒めてほしそうに目を輝かせているが、僕は知らないふりでレグスさんとも目を合わせず、フォルトの腕の中から逃れた。その瞬間、レグスさんはこの場にいる開拓者に避難指示を出し、開拓者協会の従業員には結界を張らせる。非常に失礼である。
「僕は行かない!」
「……何か、欲しいものを一つやろう」
「欲しいものなんてない。すぐに壊れる」
「確か、聖騎士が欲しいのだろう?」
「は?」
王子様のようなカイルから発せられたと思えないほど、低い声が響く。だがしかし、僕専用の聖騎士は確かに欲しい。
「条件は上級以上だよ」
「ああ、一人いる。パーティに恵まれず、ソロで上級の奴がな」
「……ちなみに、女性は駄目だよ。ロウが嫌がる」
「男だ。ソロで上級の女性はなかなか見つからないが、男なら問題はないのだろう?それに、パーティ内の色恋沙汰はこっちとしても勘弁だ」
ふむ……カイルが大人しいのが怖いけど、会ってみてみんなとの相性が良ければ欲しいな。カイルが怖いけど。いや本当に、カイルが怖い。でも、僕は欲しい!成長しないと言われても、ポーションを使わなくしたら、奇跡的に成長するかもしれないじゃないか!
兄さんを始め、メンバー全員……カイルを除いて様子を見る。全員カイルを警戒しているため、特に問題はなさそうだ。
「その人に会ってから、依頼を受けるか決める」
「気に入らなければどうなる」
「依頼を受けないだけだよ。だって、欲しいものをくれるんでしょ?報酬とは別に。僕だけの特別報酬だ。それがないなら、受けないに決まってる。他の依頼を受けた方がマシだからね」
僕が依頼を受ける保証がないため、別な報酬を考え始めたレグスさん。この人はどうしても、災厄の更なる高みへ僕を登らせたいらしい。
「……ケーキ一年分」
「聖騎士」
「食事一年分」
「聖騎士」
「……【厄災】による一般人への被害責任を一年間、儂が負担する」
「……プラス聖騎士。でも、今回の人が駄目でも次がある!」
「それは、良さげな奴が現れたら紹介しろ、ということか……依頼を受けてくれるのなら紹介しよう」
僕が渋々頷けば、レグスさんは安心した様子でふっと息を吐く。問題はカイルだ。レグスさんと先ほどの契約を交わし、僕が正式に依頼を受けた後、兄さんが僕を拘束した。
「さっきまで黙っててやったんだ。大人しくしていろ。俺は弟が監禁される姿は見たくない」
いや、監禁される気なんてないけど。ブラコンは構わないけど、変な妄想はやめてくれ。
「カイルがこれ以上拗ねたら厄介だ。これはセトの為だぞ」
兄さんとロウが僕を止めてカイルに味方する中、フォルトはひとり、ニヤニヤと笑っていて楽しそうだ。
「レグス代表、聖騎士について一つ条件をつけてもいいか?」
「……セトリとの契約は交わされておる。それに違反しなければ問題はない」
「では、私の指名依頼をこなせる者を紹介してくれ。セトリ様専用の聖騎士は私がなる。指名依頼がなければ、私がセトリ様から離れる事はない。それに、指名依頼を押し付けられるのなら、パーティに入れる必要もないんだ。【厄災の導】は、全員がセトリ様の安全を最優先すると同時に、ソロでも上級の迷宮に潜れるほどの実力者揃いだからな」
「確かに、指名依頼さえどうにかできれば問題ないな。はぁ、分かった。教会絡みは本当に面倒だ……が、セトリが望む聖騎士を見つけるよりは楽だな。セトリ、そういう事だ。諦めよ」
諦めるも何も、教会絡みの指名依頼ってどうにかできるものなのか?どうにかできるなら構わないけど……あれは、実力がないと無理だろ。そもそも聖騎士自体、教会が関わるものだ。カイルでなくてもいいなら、とっくに……いや、ちょっと待てよ?カイルは指名依頼を断った事がない。本当は断われるのか?
「カイル、一つだけ聞かせてほしい」
「セトリ様、一つと言わず、なんでも言ってください」
「あ、うん。えっと……カイルの指名依頼って断われるものなの?今までカイルを指名してたなら、カイルしかできないんじゃ」
「私である必要はないです。ただ、私が【厄災の導】に加入する条件として、今まで通り教会に協力するようセトリ様が仰ったので」
あ、原因は僕だったみたいだ。そんな事言ったかなぁ。言ったんだろうなぁ。ごめん、普通に忘れてた。
「うん、分かった。じゃあ、カイルは今度から、僕専用聖騎士ね」
「はい!セトリ様専用……なんて良い響き」
カイルは跪き、祈るように額の前で手を組む。
カイルは本当に残念すぎる。イケメンだし実力もあるけど……うん、残念だ。
そもそも、【厄災の導】のメンバーは残念イケメンの集まりだ。兄さんは好戦的でブラコンなイケメン。ロウは女嫌いで口が悪いイケメン。カイルは……お分かりの通り。フォルトは危険人物で、パーティメンバー以外の人達は関わりたくないと口を揃えるが、イケメンではある。
うん、うちのメンバーって特殊だよな。集めたくて集めたわけじゃないけど……とりあえずカイルのことは見なかった、聞かなかったことにしよう。精神衛生上それが一番だ、うんうん。




