2.メンバー集合
今日はロウに運ばれる僕、セトリ・ロスティクス。ロウの耳を撫でながら向かうのは、開拓者協会。メンバーは、兄さんとロウと僕の三人だけ。他二人のメンバーはこの後合流する予定だ。
「セト、また軽くなったか?」
「俺も昨日引き摺ってて思ったな。セトリは食べてるはずなんだけどな」
兄よ、そもそも弟は引き摺るものではない。ロウも僕の扱いは雑だけど、兄さんよりはましだ。なんと言っても片腕に乗せてくれるからな!
そう、僕の体は小柄というより子どもだ。虚弱体質により、成長期である幼少期に成長できず、更には定期的な厄日と転びまくっていた結果、ポーションを手放せなかった。その結果がコレである。幼少期や軽傷にはポーションを使用しない方がいい。自己治癒能力が低下してしまうからだ。しかし、僕の場合は使わなければ死んでいたことだろう。
「そういや、最近は毎日のようにポーションを使ってたな……まずいぞ、セナ。やっぱ、あいつをセトから離すべきじゃなかった」
「そうは言っても、セトリをひとりにする事はできない!セトリはいつ死んでもおかしくないんだ。肌身離さず身につけておかないとな」
兄よ、弟はアクセサリーじゃないぞ。僕も死にたくないから、ひとりにはしないでほしいけどさ。でも、危険な場所に行くのが悪い気がするんだ。
「確かに、家でも原因不明の火事で死にかけるわ、転んで頭打って死にかけるわ……どうしようもねェもんな」
「そうだろ?ポーションで死ぬ事はないから大丈夫だ。それに、食事を増やせばいい」
うん……ごめんなさい。僕はもう、虚弱体質というより不幸体質なんだと思う。
僕は家にいても死ぬ。迷宮に行っても死ぬ。街を歩いていても死ぬ。結局、ひとりでいる方が危険なのだ。どこに行っても命の危険がある僕は、誰よりも命と向き合っていると言える。
「あ、そういえば、開拓者協会に行けば上級の聖騎士がいたりしないかな」
「……まだ諦めてねェのか?セトにはあいつがいンだろ」
「いや、そうなんだけど、今回みたいにいない時があるじゃん?それなら、もう一人いたほうが――」
「セトリ!それ以上言うな。あいつがセトリに執着してるのは知ってるだろ」
ロウも兄さんも、僕の口を塞ごうとする。それに対し、黒蛇は必死で噛みつこうとしているが、残念ながらすり抜けてしまう。
「知ってるけど、僕専用が欲しいんだ」
「だからな、あいつがいるだろ。セトリ専用――」
「違くてさ。どこにも行かない、僕専用の聖騎士が欲しい!」
「確かに……あいつ、指名依頼があるからな。やはり、ここは俺がセトリを肌身離さず――」
「あいつなら、セトを優先しそうだけどな」
兄さんは僕のツッコミ待ちなのかと思うほど、ひとりで盛り上がっているが、僕もロウもスルーする。兄さんはいつもひとりで楽しそうなので、毎回は付き合っていられない。
「とにかく、良さげな人を見つけたい」
「良さげな人……ねェ。なかなか見つかンねェんだよな。俺は女は無理だ」
「俺はセトリを大事にする奴なら誰でもいいぞ。なかなかいないけどな!」
女嫌いのロウに、ブラコンな兄さん。最初は三人のパーティだったからこそ、ロウと兄さんの意見が重要であり、僕は守ってくれるのなら誰でも構わない。これが【厄災の導】というパーティだ。
「まあいいか。この話はここまでにして、先に開拓者協会に入っちゃおう。あの二人もそろそろ来るだろうし」
僕が手を叩けば、兄さんもロウも話をやめて開拓者協会の中に入る。もちろん、僕は歩かない。開拓者協会だろうと、挨拶だろうと、今日ばかりは決して歩かない。初日から物を壊したくはないからな!
「お待ちしておりました。【厄災の導】のかたですね?」
「あ、はい。そうです」
「では、ここにパーティ名とメンバーを書いてください」
そこで、僕はゴクリと喉を鳴らす。それはなぜか……もちろん、僕が何かをするだけで、良くない事が起こるかもしれないからだ。兄さんもロウも、どうしたものかと悩んでいる。するとその時、受付の女性が何かを思い出したように、誰かを呼びに行き、僕達は座って待つ事になった。
あー、暇だ。
こんな時、探索者ギルドだったら、迷宮の新情報とか見れるんだけどな。
兄さんとロウに服を掴まれている僕は、ソファに座っていても油断はできない。椅子がたまたま壊れていたり、子どもが座るようにできていないため転げ落ちたり、外では色々と気をつける事が多いため、必ずメンバーのうち誰かが確認してから僕は座る。そして、座ってもこうして掴まれたり、最悪の場合膝の上だ。
それにしても、めちゃくちゃ見られてるな。やっぱり、この姿が原因か?見た目子どもだもんな。子どもの上級なんていないし……みんな強そう。
「セト、あいつらが帰って来たぞ」
「あ、本当?それなら間に合いそうだね」
「まずはあいつにセトリの治療をさせよう」
鼻がきくロウの言う通り、少し待つと勢いよく扉を開けて入ってくる男性二人。
「セトくん、ただいまぁ」
「あー、おかえり。フォルト」
なぜか背後から現れたフォルト・クロート。白に赤のグラデーションの派手な髪の狐獣人で、顔には赤い印がいくつもある。目が開いているのか分からないが、開いたら開いたで怖いため、あまり刺激しないようにしている。今も、僕の首に抱きついてくるが、そのままされるがままで、黒蛇は威嚇している。
「セトリ様、お待たせしました。まずは治療しましょう」
「ありがとう、カイル」
僕しか目に入らないかのように、まっすぐ僕の元まで来るカイル・フローシャ。金髪碧眼の王子様のような男性だが、この男が"あいつ"と呼ばれていた聖騎士だ。こんな見た目で、なんでもできる男だからか、貴族絡みの指名依頼が多い。そんなスパダリのようなカイルだが、僕の体を観察する目が非常に怖い。
カイルが僕の前に跪き治癒してくれる。ポーションでは不十分だった部分は多いため、ありがたいとは思うが、跪くのはやめてほしい。
「ねぇ、セトくん。上級になったって事は俺達と同じだし、そろそろ特級になるよねぇ」
「まだだよ。そもそも僕は特級になるつもりないし、昇級したばっかり」
特級とは上級よりも上の階級であり、国に関わらずどこへ行っても衣食住を保証してもらえるのだ。ちなみにこの国、ルナリューンに現在滞在中の特級開拓者は二人だ。
「セトリ様、治療は終わりました。それにしても、ポーションをいくつ使ったのですか?ポーションはなるべく使わないよう、セナトとロウに言っておいたはずですが……彼らは何をしていたんでしょうね」
「……何してたんだろうね」
「おい!セトリ」
面倒を押し付けるように目を逸らすと、兄さんが僕の顔を掴むが、黒蛇が威嚇すると同時にカイルが兄さんを睨みつける。カイルが兄さんを注意しようと、口を開いたその時、受付のお姉さんが、僕もよく知っている人物を連れて戻ってきた。
「セトリ、待っておったぞ。漸く上級に上がったか」
「うげっ……なんでレグスさんが来るんだ」
ルナリューンの開拓者協会代表である、レグス・ジーニアスだ。開拓者協会はギルドと違って、それぞれの国に一箇所のみで、国ごとに代表が決まっている。ルナリューンはレグスさんである。元上級開拓者で、冒険者ギルドに所属していた人だ。ムキムキお爺ちゃんだが、現役時代はルヴァさんとパーティを組んでいたらしい。
「セトリだからな。儂以外に誰が対応できると?」
「……いっぱいいるじゃん」
「名前すら書けぬ奴が何を言うておる」
だって!初日から破壊するのは良くないじゃんか!
言い返せば、子ども扱いされるため、口にはしないが睨んでみると、なぜかフォルトに頭を撫でられる。
「レグス代表、書くのは俺で構わないか?セトリの怪我が増えると、セトリが減る」
兄さん、ちゃんと体重がって言わないと伝わらないと思う。
「代表、セトの体重が減ったんだ。今は少しでも怪我させねェようにしてェ」
いつも慌ててポーションを使ってくるのはロウだよな?少しくらい様子見てくれてもいいんだけど。
「セトくん、体重減っちゃったのぉ?かわいそうに。俺がいなかったからかなぁ」
「セトリ様の体重が減ったのは、一目で気づいた。フォルト、なぜ分からない?私がいなかったからに決まっているだろ」
「はぁ?カイくん、何言っちゃってんのぉ?俺がいなかったからに決まってんじゃん。ねぇ、セトくん」
「私がいなかったからですよね、セトリ様」
うわ、やめて!僕に話振らないで!
兄さんとロウは、レグスさんに僕の体重について語り、フォルトとカイルは僕の取り合い。レグスさんは興味のない僕の体重について聞かされ、周囲から同情の目を向けられる。カオスである。




