12.旅へ
街を出て、自然の流れで森に入っていく【厄災の導】は、迷わず進んでいく。
走る必要があるのか分からないが、僕は妖体になったフォルトの背に乗り、どんどん進む。
「……これはどこに向かってるんだ?」
「聞いて驚くなよ。今回はなんと!国外だ」
国外……ルナリューンを出るってことか?
「昇級の旅だ。特級になる為に必要だろォ」
昇級?……なんのこと?ショウキュウってなんだっけ。
僕の聞き間違いかな。
「旅は特級になる為に必要なことです。開拓者協会は国に属しているわけではないので、各国の情報を集めたり、迷宮を調査したり、秘境へ行ったり、とにかく自由ですよ」
「旅の中で実績を積めば、特級になれるんだよねぇ。特級って、国に関係なく特別扱いされるから、昇級条件が難しいんだよ」
うん、待って。
僕は特級になる条件を聞きたいわけじゃない。
なんで昇級が出てきたのさ!
「家に帰る」
「帰れないぞ。旅のついでに、庭シリーズの解放も頼まれたからな!」
「なんで勝手に決めるのさ!僕は行きたくない!」
「セトリには、いろんな場所を見てもらいたいんだ。その為の旅でもある。セトリが喜ぶと思ってな」
うっ……急に怒れない状況になったぞ。
兄さんのこういうところ、本当に昔から変わらないな。
僕にいろんな事を経験させたいって……兄さんだって、僕がいなかったらもっと自由にできるのにさ。
強引すぎるけど憎めない。
僕だって他の国は見てみたいし、いろんな美味しいものが食べたい。
未知の場所も好きだし、未知の味も好きだ。
ただ、未知は怖いから、なかなか踏み出せないし、相談されたら反対してたと思う。
「……強引すぎる」
「ごめんな。セトリ、一緒に冒険しよう。昔、約束しただろ?クランだって創設した。もう、俺達は自由だ。そうだろ?」
「クラン創設と自由は何か関係があるの?」
「ああ。クランがあれば拠点を管理し、守ってもらえるだろ?帰る場所はあった方がいい。それに、クラン内で何かあっても、マスターが不在中は、開拓者協会が管理してくれるんだ」
そうなのか?そんなの知らなかった。
開拓者協会って謎だよな。
国に属さないのに、権力だけはある。
少し教会に似てるよな。
「俺達の家も守ってくれるし、クランがあるだけで、他国でも信用されやすいんだ。クランの金も入るぞ」
「特に俺達【厄災の導】は、クランがあった方がいい。セトの【厄災】があンだろ?悪いイメージしかねェんだ」
「ただ、庭シリーズに関しては、良い評価が得られています。安心してください。セトリ様は解放者としても有名になりつつありますよ」
「迷宮を解放するから、解放者だっけ?確か、庭シリーズを解放すると、古い迷宮が新しくなるんだよねぇ」
んん?待てよ。
今何か、僕の知らない情報がいくつか出てきた気がするな。
これは、訊いた方がいいのか?いやでも……庭シリーズに興味があると思われたくない。
よし、ここはスルーしよう。
その後はゆっくり進んでいき、何日か野営して、漸くルナリューンを出た。
ロウママのおかげで、野営をしても僕は元気である。
むしろ、家にこもっている時より調子がいいくらいだ。
「ここから先がソルレイユだよぉ」
ここまでの道案内は、フォルトが召喚した複数の野狐がしてくれた。
森に住む子達のようで、安全な道や魔物の出る場所を教えてくれたため、僕は安全地帯に放置されて狩りをしながらここまで来た。
本当なら、もっと早く着いたのではないかと思う。
ソルレイユは砂漠地帯で、昼は暑く、夜は寒い。
虚弱体質な僕にとって、天敵のような環境だが、転んでも痛くないのはありがたい。
なにより、黒蛇や白牡鹿が暴れても、砂が舞うだけだ。
「いきなり過酷な場所に来たな。早めにオアシスまで行かねェと、セトがもたねェぞ」
「オアシスまでの道案内はぁ……フェネックにでも任せようかなぁ」
フォルトがフェネックを召喚すれば、一度僕にスリスリしてから歩き始める。
なぜ擦り寄るのか分からないが、砂がついてジャリジャリしていた。
フェネックの案内で進み、森がひらけて渓谷が見えた。
熱風が吹き、先へ先へと進むと、砂漠が見えてくる。
砂だらけで方向が分からなくなりそうな、恐ろしく何もない砂漠だ。
だがそれ以上に、初めての砂漠でテンションが上がってしまった。
うぉおお!凄いぞ!砂だらけだ!暑いし、火傷しそうだけど、なんか凄いぞ!あの奥に見えるのは砂嵐か?怖いな。
怖いけど、凄いな。
こっちに来てないし、大丈夫そうだけど……大丈夫だよな?
「セトリ、楽しそうだな。連れてきて良かった!あの砂嵐も気になるか?」
「気になるのでしたら、砂嵐に突撃しましょうか?」
何言ってるの?行くわけないじゃん。
危険すぎる。
本にも、砂嵐には近づくなって書いてあるだろ。
常識だぞ?大丈夫か?
「セト、駄目だぞ。何考えてやがる」
なんで僕が悪いみたいになってるんだよ。
「セトくんは俺の背にいようねぇ」
僕は悪くないため、何も言わずに砂嵐とは別の方向を見ていると、そちらではサンドワームという魔物が砂漠を泳ぐように動いており、その近くにはサンドシャークという魔物の群れまでいた。
巨大ミミズのようなサンドワームに、サメのような魔物が襲いかかる。
その他の場所でも魔物同士で争っており、なんとも言えない光景がひろがっている。
とても恐ろしい場所である。
「……魔物大戦争」
「開拓者もいるよぉ。気になるのは分かるけど、今はオアシスまで行かないとだからぁ、我慢してねぇ」
だからなんで、さっきから僕が注意されるんだよ。
僕はただ、景色を眺めてるだけだ!
その後、フェネックの頑張りにより、寒くなる前にオアシスに到着。
プアト村、ここにあるのは冒険者ギルドと探索者ギルドであり、プアトのような複数の村に囲まれた中心の街、ソルレイユの首都ドゥアトに開拓者協会があるらしい。
プアト村の冒険者ギルドに来ていた僕達は、来て早々に開拓者協会へ行くように言われてしまったのだ。
「――と、ということで、その……【厄災の導】の皆様には、開拓者協会へ……む、むむ、向かっていただきたいのです」
プアト村の冒険者ギルドマスターは不在のようで、サブマスターはまだ若い。
冒険者が好き勝手にギルドを荒らしているようにも見える。
そこに僕達のような厄介者が来たら、涙目になるのも無理はない。
「ギルマスはいつ帰ってくるんだ?俺達はセトリの体調を見ながら進まないといけないんだ」
「あ、ああ、あの……有名な【厄災】様ですね。体調とは……その……破壊衝動的な――」
「ちげェ!」
「ヒッ、申し訳ありません!」
あー、かわいそうに。
でも、僕も破壊衝動とかないから、そこはやめて。
危険人物扱いされてる気がするけど、この人は……無理だろうな。
ギルマスがいつ帰ってくるのかも、結局答えてくれてないし。
「今日一日だけ泊まったら出発しよう。食料はあるし、水はロウがいるから問題ないでしょ」
「セトは明日、ぜってェ熱だす」
「ロウの薬もあるし、フォルトの背で寝てるから大丈夫」
「セトくんがそう言うならいいんじゃない?俺は落とさないしぃ」
「……はぁ、仕方ねェな」
ロウの許可が下りたため、僕達はギルドを後にした。
宿は無事にとることができ、僕はぐっすり眠ることができたのだが、翌朝、泊まっていたはずの宿がなぜか半壊していた。
夜中に何かあったのだろうが、僕はロウの予想通り熱を出していたため、苦い薬を飲み、氷を額に当てられながら、ロウに抱えられている。




