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1.厄憑きの厄日



 開拓者協会。それは、冒険者ギルドと探索者ギルドを合わせた団体である。冒険者ギルドは様々な依頼を受ける戦力組織であり、探索者ギルドは主に迷宮に潜る非戦闘員の組織だ。それらに所属する者達はギルドに関係なく開拓者と呼ばれ、能力によっての階級があり、本日は年に一度行われる昇級試験である。



 そんな昇級試験前、仲間に引き摺られて文句を言っている小柄な人物がいた――





⌘⌘⌘



「くぅ……離せ!あー、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ」


「仕方ないだろ?セトリが昇級しないと、俺達も昇級できないんだ」



 セトリ……そう、僕の名前を呼ぶセナト・ロスティクス。僕、セトリ・ロスティクスの一つ上の兄である。白髪赤目の虚弱体質の僕とは違い、兄さんは黒髪赤目の健康体であり、何も知らない人からはイケメンだと騒がれる事が多い。その他にも、僕が探索者ギルド所属なのに対し、兄さんは冒険者ギルド所属。僕達兄弟は、血の繋がりを疑われるほど真逆なのだ。



「セナ、セトの首が絞まってンぞ」



 銀髪に金色の瞳を持つ狼獣人の男性、ロウ・フェルが口を開く。僕達兄弟の幼馴染だ。僕の首を心配しているが、助けるつもりはないらしい。



「クッ、離せー!そんなに昇級したいなら、兄さんとロウだけで昇級したらいいじゃないか!」


「それはできない!俺達が昇級したら、セトリはしないだろ?それに、リーダーが昇級してからするべきだ」


「じゃあ、兄さんかロウか……あ!カイルとフォルトがリーダーになったらいいじゃないか!あの二人は既に上級じゃん!僕達より上だよ」


「あの二人は、後から俺達のパーティに入ってきただろ。諦めろ、セト」



 ぐぬぅ……どうして僕がリーダーなんだ!僕は探索者ギルド所属だぞ。



 僕達のパーティ【厄災(やくさい)(しるべ)】は、僕を含めて五人のパーティであり、【リードディザスター】という僕の二つ名から取られている。短縮して【厄災】とも呼ばれている僕だが、僕は病弱なただの探索者だ。

 まったく、失礼な話である。



「リーダーはセト以外いねェだろ」


「そうだぜ、セトリ。【厄災】であるお前が必要なんだ。セトリは、いつも俺達を楽しませてくれる」



 兄さんの言葉に、ロウがうんうんと頷く。だが、僕からしてみれば失礼極まりない。僕はある日突然、厄憑きになった。元々厄日というものが多かった僕は、その日もただの厄日だと思っていた。しかし、その日はいつもと違った。


 

 とある迷宮の隠し部屋に、偶然入ってしまった僕は、偶然その部屋にある精霊の祠を壊してしまい、偶然その祠にいた精霊が悪霊になっていて、偶然が重なった結果憑かれてしまった。僕に憑いた悪霊は、悪霊とは思えないほど大人しい黒蛇だが、常に僕の首を狙うかのように、首に巻きついている。ただ、僕の厄日を更に強化してしまう事から、黒蛇が他人に見えずとも自然と僕は厄憑きと言われ、今では【厄災】となっているのだ。

 


 僕の厄を面白がってる兄さん達は、頭のネジが何本か落ちてるんじゃないのか?そのうち、本当に取り返しのつかないことになるぞ。僕は知らない!だから昇級もしない!今のままでもイレギュラーが発生して危険なんだ。昇級して、もっと上の依頼を受けたら、確実に僕は死ぬ!



「僕をリーダーにするなら、昇級はしない!中級ですら危険なんだ。上級なんて無理だ」



 階級は四段階あり、下級、中級、上級、特級がある。中級までは、それなりに依頼をこなせば問題なく上がれる。しかし、上級からはそう簡単には上がれない。それこそ、今から始まる昇級試験に受かる必要があり、上がれば上がるほど試験内容は厳しくなる。



「セトリは俺達を信じられないのか?」


「いや、信じる信じないじゃなくて、よく考えてよ、兄さん。昇級試験なんて無理!僕ひとりで上級なんて無理だから」



 というか、僕を殺す気か!中級でも奇跡なんだ。これ以上なんてありえない!兄さんが一番知ってるはずだろ!



 兄さんに引き摺られながら嘆いていると、ロウが僕の頭に手を乗せてくる。



「探索者ギルドの方は、いつもの依頼より安全だろ。大丈夫なんじゃねェの」



 その言葉に、ジト目になるのも無理はないだろう。ソロということは、いつもより危険なのだ。この幼馴染は本当に理解しているのかと言いたい。



「……ロウ、探索者ギルドでも、上級は逃げ足が大事だ。分かるでしょ。僕、すっごい転ぶんだ」


「魔具を使えば問題ねェよ」


「嫌だ。だって魔具は……」



 魔具は、僕の厄が発動するんだ。使おうものなら嫉妬するかのように、この蛇が……蛇が壊すんだ!というか、蛇がいなくても壊れるんだ!なんで!?僕、何かした!?何も悪いことなんてしてない!



「セトリは魔具を破壊するのが趣味だからな。魔具が嫌いなんだろ?」



 え、嫌いなわけないじゃん。何言ってるの?兄よ、今まで何を見てきたんだ。僕だって、魔具を使えるものなら使いたい!というか、僕達みたいな探索者ギルドの非戦闘員は、魔具を使うのが普通なんだ!



「セトは魔具なんか使う必要ねェよ。転んだだけで、殲滅すンだからな」



 うん、待ってね。ロウは何を言ってるのかな?いや、ロウも!何を言ってるのかな?おかしい。おかしいぞ。そもそも、僕は転びたくて転んでるわけじゃないんだ。



 そこで、僕に頬擦りしてくる黒蛇。自分のことを言われているとわかっているのだろう。引き摺られながらも、足と腕を組んでうんうん唸っていると、一番会いたくない人物が来てしまった。



「ここで何をしているんだい?セトリは、漸く昇級する気になったのかな」


「うげっ……ラヴァさん。やめて、僕に話しかけないで」


「ふふ、私は話したいことだらけだよ」



 不敵な笑みを浮かべるラヴァ・メイガス。探索者ギルドのマスターであり、僕が一番会いたくない人物だ。森人族という耳の長い種族で、種族特有の綺麗な顔立ちと若々しい男性。これでも二百歳という長命種だ。



「マスターラヴァ、セトリの昇級申請をしたい」


「ちょ、兄さん!勝手なこと言わないで!」


「ふむ……本来なら本人の承諾が必要だけれど、一部例外がある。それは、あまりにも階級に見合わない場合。それと、肉親が全責任を負うこと」


「ああ、問題はない!セトリは俺の可愛い弟だからな」


「いや、ある!兄さん黙って!僕を殺したいのか!」



 僕は自分の命が大切なだけなのに、なんで責任だの、階級に見合わないだの、そんな話になるんだ……ん?待てよ。階級に見合わないって僕のことじゃないか?降級……いいな!



「ではセトリ、ランクの――」


「降級申請をします!」


「……は?」



 ラヴァさんの驚く声が聞こえた気がしたが気にしない。僕は降級申請の為に兄さんから逃れ、受付に向かった。が、その時、僕は盛大に転けてしまい、僕が転んだと同時に黒蛇が大蛇となってギルド内をめちゃくちゃにしてしまった。



「あ……やってしまった」



 そう、黒蛇は悪霊でありながら僕を守るように大きくなってクッションになろうとするのだが、すり抜けてしまう僕を支える事ができず、大きくなっただけで周囲への被害が出てしまうのだ。黒蛇の姿は見えないため、これが【厄災】と言われる理由の一つでもある。だからこそ、小柄な僕は街中で誰かに運んでもらい、引き摺られようとも無理な抵抗はしなかったのだ。



「……セトリの昇級を許可。私の権限で試験は免除だ。いいね?セトリ、キミは今から上級だ。そしてたった今、【厄災の導】は開拓者協会直属のパーティとなり、クラン創設が可能になった。おめでとう、セトリ」



 あぁ、なんだ……今日も厄日か。



 僕はニッコニコの笑顔が素敵なラヴァさんから目を逸らし、周囲は僕に恐怖する。そして兄さんとロウは大喜び。ギルド内は大荒れ。カオスである。



 そうして、僕は強制的に上級となる特別処置……要は、ギルドが手に負えないと判断し、開拓者協会に丸投げされたのだ。その日のうちに、兄さんとロウも冒険者ギルドへ行き、無事に上級に昇級。翌日、僕達は開拓者協会へ挨拶に行くことになった。







はじめまして!まずは、読んでいただきありがとうございます。


あちこちでBLものを書いていますが、今回はファンタジーものです。

BLのように感じるかと思いますが、異性、同性の恋愛表現がないので、一応違います。

苦手な方はご注意ください。


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