表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬剤師は火刑台に立つ〜え、魔女の呪い…?いや、それ、病気です〜  作者: 大棗ナツメ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/22

15 血の伯爵夫人2

 

「馬車で二日……!?」

 遥香の声が響き渡った。



 脳裏に五時間で限界を迎えた尻の記憶が蘇る。

 さらに、道中は盗賊に遭う恐れまであるときた。


(…無理すぎる……。)

 錬金術師に会うことは諦めようかと悶々と考えていると、レオニスが助け舟を出した。


「馬だったら1日で境界の街まで行けるが…。」

「…え?」

「近頃、隣の領との境の街で、女性が失踪する事件が起きている。調査で向かう予定だ。」

「……一緒に、行ってもいいんですか?」

「ああ」

「……!」

 遥香は目を輝かせた。



 こうして、騎士団に同行させてもらうことが決まった。



 ******

 当日。


「……え?…」

 小屋の前に立つレオニスの隣には、馬が一頭。

「…あれ…?…馬が……」

 遥香が震える指で、黒い馬を指差す。

「ああ。私と一緒に乗る。」

 レオニスは後ろを振り返り馬を見て、淡々と言う。

「えええええっ!!」


(こ…こんなイケメンと、丸一日も密着して馬に乗るなど、心臓が持つだろうか………)


 どうやら、尻の痛みと、もう一つ我慢しなければならないことが増えたようだ。



 レオニスが手を貸してくれ、なんとか馬によじ登る。

「ゆっくりでいい。」

 そう言い支えてくれるレオニスの言葉通り、驚くほどゆっくり足を進める。


(……た、高い……っ!)

 馬の上は思った以上に高く、するっと滑りそうで怖かった。


「お、おお、落ちたら痛いですかね」

 当たり前のことを聞きながら、猫背で馬の手綱にギュッと掴まる。



(や、やっぱり、錬金術師に会うのは今度にしようかな……)

 遥香が涙目になり軟弱なことを考えていると、レオニスがひらりと遥香の後ろに乗った。

「では、行くぞ」

 レオニスは馬の手綱をぐっと引いた。

 馬はゆっくり進み出した。


(ああ…、もう後戻りは出来ない…)

 遥香の頭の上にはレオニスの美しい顔がある。

レオニスの息遣いが分かる程に近い。

振動でたまにレオニスと体が触れる。



(無理無理無理……近すぎる……!)

 これは尻の痛みより、心臓がもつかの方が心配だ。



 森道に入ると、馬の歩幅はさらに大きく揺れ出した。

 そのたびに、レオニスの腕が遥香の体を支える形になる。心臓が口から飛び出しそうだ。


「怖くないか?」

「こ、怖いです……いろいろと……!」

「色々?」

「なんでもないです!!」

 遥香は大きな声で、そう返した。

 全く、イケメンとは罪深いものである。



「おお、薬師殿も随行して下さるのか。」

 街の出口門の所で待機していた騎士団と合流する。

 レオニスが右手を軽く上げ、号令を出すと、一行は境界の町に向けて走り出した。



 草原を抜けると、道はゆるやかな丘陵へと移り変わった。

「このまま半日ほど走れば、境界の森だ」

レオニスは馬を走らせながら言う。

「は、半日……」

なんとまだ半日しか経っていないのか。


もう尻はどうでもいい、心臓の方が辛い。



 遥香が絶望していると、またひとつ大きな揺れが来た。遥香の体がふわりと浮き、座面から少し離れる。


「っ——!」

鞍から滑り落ちる恐怖が一瞬だけ脳裏をかすめる。

 その瞬間、レオニスの腕がしっかりと腰を抱きとめ、遥香の体は彼の胸元に引き寄せられた。


「大丈夫か。」

 低い声が、遥香の耳と首筋に同時に触れた。


(ちょ、ちょっと……近……!!)


「体を預けろ。無理に自分で支えようとすると逆に落ちる」

「い、いや、む、無理です!もう、許してくださいっ……!」

 誰に許しを乞うているのか分からないが、遥香はそう叫ぶ。

「……許す?」

「なんでもないですっ…!!」

 レオニスは小さく笑い、それ以上追及はしなかった。



 確信犯なのではないかと疑い、レオニスを睨んだ。



 ******


 やがて、遠くの地平線に山並みがうっすらと姿を現した。


そこが隣領との自然な境界――

そして、その手前に目的地である“境界の町”があるらしい。



「……ああ、やっと…」

 遥香の心臓は、もう一生分打ったのではないかと思うほどに暴れていた。

 主に、馬とレオニスのせいで。



 町並みがはっきりと見えてくると、馬はゆっくりと速度を落とす。

 城壁に囲まれた境界の町は、想像以上に活気に満ちていた。

 行き交う馬車、呼び込みの声、焚き火の匂い。

 旅人の町――そんな言葉がしっくりくる光景だ。



(……もうちょっとの、我慢……!)

 遥香は、ようやくレオニスの腕の拘束(※優しさ)から解放されるのかと思い、一度深く息を吐いた。

 するとレオニスが小さく声を掛ける。

「そろそろ、降りる準備を。」

「……あ、はい……」



 着く頃には遥香はへとへとに疲れていた。

(…絶対寿命縮んだ…)

 レオニスは先に軽やかに馬から降りると、手綱を持ったまま振り返る。

「失礼。」

 次の瞬間、膝下を支えられ、ふわりと体が浮いた。

「ひぇっ…」

 情けない声が出た。

「立てるか」

 レオニスが遥香を抱えたまま聞く。



(……もし、立てないと言ったら…、どうなるのだろう……。)

 慣れない馬に長時間乗った遥香の足は、ガクガクと震えていたが、遥香は慌てて言った。

「立てます!いや、絶対に立ちます!!」

 レオニスは一瞬だけ目を瞬かせ、それから――ほんのわずかに、笑みに似た表情を浮かべた。



(……反則……)

 その美しい表情だけで、また心臓が暴れ出す。

(……もうやだ……)



 一日ぶりに地上へ降り立ったはずなのに、まだ足元がふわふわする。

「……地面って、こんなに不安定でしたっけ……」

「疲労だな」

 即答だった。


 隣の領までは乗合馬車で三十分ほど。一本道で迷う心配もないらしい。

「で、では、私はこれにて失礼します。」

 遥香はそう言って、そそくさと歩き出そうとした。


「待て、遥香」

 即、止められた。

「……は、はい?」

 恐る恐る振り向く。

「クリスと共に行け。」

 そこには副団長付き副官クリスの姿があった。

「僕も同行しますよ」

「え、いや……申し訳ないので……」

 遥香がそう断ろうとするとーー


「気にしないでください。実はですね、この失踪事件、隣の領の貴族が関係してるんじゃないかって噂がありまして…」

 クリスはヒソヒソと口に手を当て言った。

「……貴族…」

「僕はその調査に行くついでなので、気にしないで下さい。」

 そう言い、クリスは軽くウィンクした。



(……なるほど…)

 目的地が同じなら、断る理由はない。


「……お願いします」



 こうして遥香は、何やらきな臭い事件の気配を背負いながら、クリスと共に隣の領へと向かうことになったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ