修羅場の下から真実を暴露する
僕はクルルト。
6歳。
この国の第四王子なんだ。
末っ子として、家族みんなが可愛がってくれる。
家族だけじゃない。
将来家族になる義姉上たちや義兄上たちも、僕のことを可愛いがってくれる。
そんな家族を、僕も大好きなんだ。
けれど最近、第一王子のクロード兄上とその婚約者のシャーロット義姉上の関係が、以前より悪くなっている気がする。
以前は、二人が並んだらふわふわな空気を出していたのに、最近はピリピリしている。
どうしたんだろう?
僕は、幸せそうな二人を見るのが好きなのに。
今の二人はを見ていると、何だか悲しい気分になる。
早く仲直りしてくれれば良いのにな。
「……て、……だ。」
「……も、……よ。」
僕がしょんぼりと廊下を歩いていると、少し先の方から、知った声が聞こえてきた。
でも興奮しているみたいで、声が大きい。
こんな貴族が多く通る場所で喧嘩してたら、すぐに噂が広まってしまうのに。
護衛に制止されたが、構わずその声の方向に向かった。
そこにいたのは、やっぱりクロード兄上とシャーロット義姉上だった。
少し離れて、周囲に貴族が集まっている。
なのにお構いなく、二人は興奮しながら話をしている。
僕はそっと二人に近寄った。
すぐ側に来た僕に気が付かず、二人は口論を続けている。
「私は知っているんだ。君が浮気をしているって。証言は上がっている!」
「そんなこと、していませんわ!浮気をしたのは、あなたの方ではありませんか!?他の女性と腕を組んで、買い物しているのを見ましたわ!言い逃れはできませんわよ!」
「君以外の女性なんかいない!」
「私だって、あなた以外の男性なんていませんわ!」
修羅場……?痴話喧嘩……?が、繰り広げられている。
周りの貴族たちは、娯楽のように楽しんでいるようだ。
僕は二人が、浮気なんてしないことを知っている。
何故そんな誤解が生まれたのだろう。
僕は一つの可能性が、頭をよぎった。
「クロード兄上!シャーロット義姉上!」
二人の注意を向けるために、強く名前を呼ぶ。
「クルルト。」
「クルルト様……」
僕の声が聞こえてよかった。
二人の意識がこちらに向いた。
「クロード兄上。シャーロット義姉上は、浮気していません。」
「だ、だが……いくつもの証言が……」
「誤解しています。シャーロット義姉上が、仲良くしているのは、男性ではありません。男装したシャーロット義姉上の母君、公爵夫人です!」
「は?」
「僕も、男装した公爵夫人に会ったことがあります。背の高い綺麗な白銀色の長髪に、翡翠色の目をした人でしょう?女性なのに男性にしか見えなくて、とっても格好いいと思いました。」
「特徴は……あっている。」
「あ、確かに男装した母とよく、買い物に行くことがありましたわ。まさかそんな誤解を与えていたなんて……申し訳ありません、クロード様。なんでしたら、今度男装の母を連れて来ましょうか?」
「い、いや……誤解なら良いんだ。すまない、私も焦ってしまって。今度、男装の公爵夫人に会ってみたい。」
「ええ、ぜひ!」
良かった。クロード兄上の誤解が解けて。
今度はシャーロット義姉上の誤解を解かないと。
「シャーロット義姉上。クロード兄上は浮気していません。クロード兄上と一緒に買い物に行ったのは、アルバス侯爵令息です。アルバス侯爵令息が女装していたんです。」
「え……」
『ノォォォォ!』
その場の空気が凍った。
一気に氷点下まで下がったみたいだ。
何処からか、アルバス侯爵の悲鳴が聞こえた気がするが、気のせいだろう。
アルバス侯爵令息の名誉より、クロード兄上とシャーロット義姉上の関係の方が重大だ。
アルバス侯爵家には、後で謝っておこう。
「クロード兄上は奥手です。シャーロット義姉上とのデートを成功させるために、女装したアルバス侯爵令息と買い物していたんです!」
「ま、まあ……」
クロード兄上の思いを知ったシャーロット義姉上は、頬を赤く染めた。
良かった。
これで二人の誤解は解けたみたい。
若干数名に被害がいったが、未来の国王夫妻のために、犠牲もやむなしだ。
「ロッティ。愛する君に、愛想を尽かされたのかと思った。私は頼りないが、君を誰にも渡したくないんだ。愛している、ロッティ。」
「私も、自分に自信がなくて疑ってしまったわ。ごめんなさい。今度からはちゃんと話し合いましょう。愛しているわ、クロード様。」
完全に二人の空間だ。
桃色の何かが飛んでいるような錯覚が見える。
第一王子とその婚約者の浮気騒動を楽しんで見ていた者たちは、煮詰めた砂糖を飲み込んだような表情で、退散して行った。
あの二人の間には、誰も入る隙がない。
僕も苦めの紅茶が飲みたくなって、自室に戻ったのだった。
まあ、ただの痴話喧嘩で良かったよ。
本当に。
後日、今回の騒動を見ていた一部の令嬢が、とある物語を書き上げた。
男装の女騎士とご令嬢の物語と、女装した貴族令息と王子の物語。
どちらの物語も、一部のご令嬢やご婦人から熱狂的な支持を受けた。
それを知ったとある侯爵令息は、第一王子に怒鳴り込みに行ったらしいが、それはまた別の話。
 




