表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

頼夢とお地蔵さま

作者: 折田高人

「あー、うー」

 カタカタとキーボードを叩く音。それに合わせて、三井寺頼夢の眉が上下する。

 ディスプレイの中で吊り上がっていく数字に焦りを感じつつ、少女の指先がキーの上を滑っていく。

「あっ、ああ、あ~……」

 失意の声と共に机に沈む頼夢の頭。「おのれミスカトニック……」という恨みがましい声が唇から紡がれる。

「一体どうしたというんだね?」

 背後から突如として掛けられた男の声に、振り返った頼夢は目を丸くした。

 そこにいたのは黒いローブを目深に被った怪人物。この世のものならぬ存在なのだろう、その姿は薄ぼんやりと透けている。

 頼夢が間借りしている小さなこの屋敷は、霊道が通っている。無数の亡霊が通り抜ける事で出来る獣道の様なもので、肉体を失った者達が行き来するのに都合がいい場所だ。故に、亡霊が話しかけてくる事自体は珍しくないのだが。

 この男は頼夢の知った顔であった。

「守護者、だっけ? あんた、たしかロビンの辱めによって死んだはずじゃ?」

「私は元から死んでいるよ。実態を保てぬくらいの精神攻撃は受けたがね」

 深い溜息をついたこの男。とある魔導書を守護していた亡霊なのだが、その魔導書の処遇について頼夢の雇い主であるロビンと争い敗北。魔導書を持ち去られたのであった。

 その魔導書『深淵たる究極最強の魔術』は亡霊が若気の至りで書き上げた、自画自賛やポエムが綴られた黒歴史そのものの書であったのだが、なまじ魔導書としては優秀であった事から魔力を帯び、亡霊の手では破棄できなくなっていたのであった。

「しかし、新しい道の散策で顔見知りに会えたのは幸いだ。鼠娘の頼夢くん、だったな。ここで再開したのも何かの縁、頼みたい事があるんだが……」

「無理」

「即答!」

「どうせロビンに頼んであの魔導書破棄してくれって言うんでしょ? 無理だよ無理無理。異常本愛者のロビンが折角手に入れたお宝を破棄する訳ないじゃん。それに……」

 ごそごそと机を漁って一冊の本を取り出す来夢。ひらひらとそれを守護者に見せる。

「この通り、おにーさんの本は再翻訳の末、絶賛増版中なんだ。車輪党内限定だけど、あーしもサンプルこの通りサンプルを貰ったし」

「やめてくれよ……」

「安心しなよ、おにーさん。痛々しいポエムとかは完全カットされたから。魔術の入門書としてはまたとない出来だって、車輪党の魔女達も絶賛しているそうだよ?」

「だったら、もう原本はいらないだろうに……とっととあの負の遺産を荼毘に付して欲しいんだが……」

 肩を落として絶望する守護者。頼夢はロビンという魔女について詳しいらしく、彼女に頼んでも見込みが無いならもはや自らの若気の至りを葬り去る機会は失われたと言ってもよかった。

「はあ……この件については横に置いとくとしようか。ところで、君は何をそんなに気を落しているんだ? ノートパソコンなんかと睨めっこして……まさか、君もネット上で黒歴史を公開してしまったりとか?」

「残念っした~。これだよこれ」

 画面を切り替えて、頼夢は横に移動する。

 自分のためのスペースを開けてくれた事を感謝しつつ守護者が画面を見てみると、そこにはこのような文面が並んでいた。


 件名:教主が暗黒のものに殺されて数十年が過ぎました


 カリスマ性あふれる教主を失い、これまで細々と活動を続けてきた我が教団ですが、現教団員の高齢化と新規の教団員の不足、そして資金難が重なった結果、解散する事となりました。

 それに先立ちまして、我々がこれまで収集してきた書物や骨董品等を倉庫に死蔵させておくのももったいないと思い、必要とする方のために競売を行う予定です。

 競売日や場所につきましては、このメールの末尾を御確認お願いします。また、インターネットでの参加も可能ですので、当日現場に来れない方もふるってご参加ください。

 以下、競売品の一部をご紹介させていただきます。


『水神クタアト』

 

 今回の競売の目玉商品です。噂されている通り、人皮装丁で降雨前に汗ばむ事を確認しています。貴重なラテン語版。紛れもない本物です。


『妖蛆の秘密』

 

 比較的新しい英訳版です。一部ページが切り取られておりますので美品を求める方は御注意を! 欠損ページ自体は揃っておりますので、発送時に同封させていただきます。


『アル・アジフ』

 

 かの『ネクロノミコン』の原本であるとされるアラビア語版です。原本は既に存在しないと噂されており、我々もこの書物が果たして本物の『アル・アジフ』なのかは解明できませんでした。本書が贋作であっても構わないという方のみ購入を御検討下さい。


『深海祭祀書』


 ドイツが誇るこの奇書は……(以下省略)


「……ふむ。裏世界のネットオークションか。それにしても錚々たる品揃えだな。成程、君は魔導書狙いか。何を狙っていたんだ? やはり『水神クタアト』か?」

「これ。狙ってたんだけどね……」

 そう言って指差された品を見て、守護者は眉を顰める。

「『アル・アジフ』かね? どう考えても贋作だろう? ここの教団も暗に真作じゃないと仄めかしているじゃないか」

「それは分かってるけどさ、もしもって場合もあるじゃない? それに、贋作は贋作でロビンも興味持ちそうだしさ。怪しい品物だから競争相手なんてそんなにいないって思ってたんだけど……」

「目を付けていた奴が他にもいたと」

「そ。よりにもよってミスカトニック大学の連中。こいつらが値段を釣り上げるもんだから、『ひょっとして本物かも』って考える奴が参戦して値段が増えるわ増えるわ……もうあーしが手を出せる金額じゃなくなっちゃったよ……ほら、たった今ミスカトニックが競り落とした」

「残念だったが、気を取り直したらどうだ? まだまだ貴重な魔導書は残っているんだろう?」

「どうせこの後も有名所はミスカトニックが掻っ攫っていくんだ。あーしは詳しいんだ」

 拗ねたような口調で頼夢が顔を顰める。事実、世界中の魔術師が垂涎する魔導書やアーティファクトは全てミスカトニックによって買い占められたのだった。


 ミスカトニック大学の圧倒的な資金力によって荒らされたオークション会場。件の嵐は貴重な魔導書の数々を悉く飲み込み去っていった。目玉となる商品がなくなったオークション。肩を落として立ち去る者が多く出た後の静寂の中、何とか良さそうな品は残ってないかと探し続けた頼夢だったが。

「結局、大した成果は得られなかったなあ」

 椅子の背もたれに身をあずけて失望を声に出す。

「何とか確保できたのはこれだけか……」

 画面に映っているのは表題の無い革表紙の本。暗号書のようだが、教団も解読は出来なかったと書いてあった。さして注目されていなかったこの本を、頼夢は必至になって競り落としたのだが。

「その本、何かあるのかね? そう貴重な物のようには見えんが……」

 頼夢は肩を竦める。

「さあね。どんな内容の本かはあーしもさっぱり。ただ、これを書いたヤツが重要でさ」

「誰かね?」

「タイタス・クロウって人」

「聞かぬ名だな。オカルティストなのかね?」

「さあ? オカルティストかどうかはあーしも良く分かんないけどさ。結構有名な怪奇小説作家なんだって。魔導書に興味を持ったのはこの人の小説を読んだからだってロビンが鼻息を荒くして言ってた。推しって奴なのかな。新しい本が出版される度に嬉々として買い漁ってるって聞いたよ」

「……おのれ……此奴が余計な小説を書かなければ、あの魔女が我が悪書に興味を持つ事など無かったというのに……」

 ほの暗い感情に支配されている守護者を頼夢は軽くスルーする。

 そこで感じる違和感。どうにも今日は静かだった。時計を確認する。普段ならそろそろ、この屋敷を借りている同居人が騒ぎ出す時間なのだが。

 この同居人、飯田史は『ヘレン・ファウスト』の名で執筆活動を続ける作家である。本人は民俗学者やオカルティストとして名を揚げたいようだったが、何の因果かライトノベル作家として有名になってしまった経歴の持ち主だ。

 彼女が寿命を持たない魔女でなかったなら、『黒騎士』シリーズの印税だけでも一生食べていけるだろうくらいに金を稼いでいた。しかし、本人の真に書きたい分野の本は鳴かず飛ばず。その事実に耐え切れず、時折ストレスを発散するかのように奇行に走る。

 頼夢の経験上、そろそろ奇声を上げるはずの彼女。しかし、同じ部屋でパソコンに向かって執筆活動をしている史は穏やかな表情である。

 珍しいこともあるものだ。ようやく自分の心を制御できるようになったのかと感心していると。

 穏やかな……酷く穏やかな表情で、史は頼夢と守護者に向き直った。

「ねえ、頼夢。人気作品の続編が大コケするのって、なんでか知っているかな?」

「え?」

「作る側が結果しか見ていないからだよ。前の作品が人気だったからって結果ありきで作品を作ろうとするからいけないんだ。真に目を向けるべきは過程なんだよ。何故その作品が人気になるに至ったのかを理解しない限り、同じタイトルを掲げても過去作同様の人気作には成ったりはしないんだ」

 それは『黒騎士』シリーズの事を言っているのだろうか。頼夢はそう思ったが、だとすると話がおかしい。

 制作陣を一新して挑まれた『黒騎士』シリーズの第四期アニメは、ファン達の不安と期待を良い意味で裏切った。原作を深く読みこんだ者でなければ作れない最高品質のアニメ。原作者の手に依らないオリジナルストーリーもまた絶賛される出来であったのだ。

 原作への限りない愛情と原作者への尊敬の念がヒシヒシと感じられる傑作アニメに仕上がったのだから、彼女の口にした過程をないがしろにした作品には当たらないはずである。

 史は穏やかな笑みを湛えていた。しかし、その眼鏡の奥の瞳は決して笑っていなかった。

「逆に言えば、よ。続編を台無しにして、忌々しい『黒騎士』シリーズに引導を渡すには、人気になった『過程』を滅ぼすべきだと私は悟ったわ」

 すっと椅子から立ち上がり、両の腕を水平になるように広げる。十字架のポーズ。

「わたしは必ず拳を殺す!」

「わーいご乱心だ~!」

 蘇りし救世主の如く力強い言葉で高らかに宣言する史を見て、変わらぬ日常に妙な安心感を覚える頼夢。

 史に殺害宣告を受けた拳……宿主拳は『黒騎士』シリーズのイラストレーターである。彼の耽美なイラストは確かに『黒騎士』シリーズの火付け役となったが、だからと言って今更になって彼を亡き者にしたところで何になるというのだろうか。

 宿主拳は火付け役に過ぎない。今の『黒騎士』シリーズの人気は紛れもなく史の文才によるものである。例え彼を魔女特有のふしぎなちからでサツガイしたとしても、史に依らないオリジナルストーリーまで展開するようになった『黒騎士』シリーズは決して止まらないだろう。

 恨むならばイラストレーターでなく、ライトノベル作家としての己が腕を恨むがいい。そんな事を頭の片隅に浮かべる頼夢の携帯が軽快なメロディを奏でた。

「メールかね?」

「ん……って黒船の店長さんから? どうしたんだろ?」

 頼夢が守護者と出会った古書店『黒船』。そこの店長である王飛龍からのメールだった。

「『手が空いているなら来て欲しい』ね。何があったんだろ? 魔導書関連かな?」

「行くのかね?」

「オークションも終わったしね~。ついでにロビンの気に入りそうな本でも探すかな」

「そうか。では、そろそろ私もお暇するとしよう。……ところで、彼女はどうする?」

 守護者の視線の先には微動だにしない史の姿。

「あ~……ベロ、ごめん。ご主人様頼める?」

 部屋の片隅で蹲っていた白い巨犬がこくりと頷く。史の使い魔であるベロニカだ。

 十字架のポーズをとったまま、とち狂った目で遠くを見つめる史を宥め始めたベロニカに同情しつつ、頼夢は古書店へと向かうのだった。


 気だるい午後の一時。古書店『黒船』の店主、王飛龍は紅茶をたしなみつつ新聞を眺めていた。

 客商売にあるまじきリラックスぶりであるが、今は社会人も学生も各々の分野に精を出している時間帯。やってくるのは精々、掘り出し物が無いかと鯖江道から来訪する顔見知りのオカルティスト位であり、飛龍の対応を非難する者は一人もいない。

 目を落した新聞には、「真昼の惨劇! 発見されたバラバラ死体の不可解な事実とは?」等という三流雑誌もかくやの見出しが躍っている。堅洲の閑静な住宅街にて、鋭利な刃物でバラバラになった数人分の遺体が発見されたとの事だった。

 現場となった屋内では盗難届けが出ていた物が無数に見つかったようである。大方、何かやばい物でも盗み出した盗人の末路と言ったところだろう。

「うむ。目立つ事件はこれ一つ。最近の堅洲は平和だな」

「バラバラ死体が平和ってどうなんよ」

 新聞から目を離すと、飛龍の前には呆れた様子の頼夢が立っていた。

「平和も平和だ。怪異が活性化した年はこれよりも酷い事件が十件単位で頻発するぞ?」

「魔境だねえ。ほんと、とんでもない所に来ちゃったかな……で、店長さん。あーしに用事って何?」

 飛龍は「うむ」と一言頷くと、数冊の本を取り出した。

「まあ、何時ものやつだ。厄介な本がまた幾つか見つかってな。ロビンの奴に取りに来るように連絡したんだが、何でも今忙しいらしい。代わりにお前に取りに来るように頼んでくれとの事だ」

 ここ『黒船』は真っ当な古書店だ。鯖江道のオカルティストが望むような品物は基本的に取り扱っていないのだが、魔術師だの何だのが大勢暮らしているその土地柄、どうしても魔導書等が紛れ込んで来る。買い取った覚えのない魔導書が何時の間にか本棚に鎮座しているなどといった事態も珍しくはなかった。

 それでも、印刷本ならばまだましであった。厄介なのは、魔術師自身によって認められた魔導書の写本である。書き手によって魔力が宿されたこれらは、適切に扱わないと魔術が暴発しかねない危険物である。

 よって、飛龍は定期的に本棚の見回りを行い、発見した写本をロビンに寄贈していたのである。

「一応確認していい? ネットで同じ魔導書を見つけた際に購入の優先度を下げられるからさ」

「ああ。頼む」

 一冊一冊を流し読みしていく頼夢。『隠秘哲学』の書き写しに『アルベール』大小の私的まとめ、西洋魔導書以外に疎い頼夢にとっては価値の分からない『仏説咒魅経』等々……。有名無名問わない魔導書写本のタイトルを、携帯電話のメモ機能によって書き写していく。

「あれ?」

 最後の一冊を手に取った頼夢が、困惑した声を上げた。写本ではなく印刷本。それも、魔導書とは異なるようだ。間違えて混入したのか。

「店長さん、これ魔導書じゃなくない?」

 その表紙を見て、飛龍は若干困ったような表情を浮かべた。

「ああ、それか。確かに魔導書じゃないんだがな。ウチの店で置いておくわけにもいかんのだよ。その『腹腹時計』は」

「どんな本なのさ」

「日本のテロ集団が出版した本でな。ゲリラ戦のやり方とか爆弾の作り方なんかの教科書だ。特に爆弾に関しては中学生レベルのおつむがあれば製造できる程に分かりやすく書いてある」

「ガチでヤバい本だった……」

「流石にガキにも悪用できそうな爆弾の教本なんぞ扱う訳にもいかん。かと言って廃棄するのも勿体ないからな。ロビンの奴に押し付けてやろうというわけだ。しかし、本当に何時の間に本棚に紛れ込んだのか見当もつかん。魔導書ではないから人の手によるものなんだろうが」

 成程、と頼夢は納得した。ロビンならばこの本の知識を悪用したりはしないだろう。そもそも、魔女というのは爆弾なんか作らなくとも爆発を起こせるわけだし、危険度はそう変わらない。

 確認が終了した書籍を頼夢が鞄に収めていると、学生服を着た一人の少女が店内に入ってきた。魔導書のチェックに時間を掛けている内に、学生達が授業から解放されたらしい。

 少女はプリプリといった風情で眉を吊り上げ、飛龍の前へとやってきた。

「店長! 見ました、アレ?」

「アレとは?」

「店に張られたアレですよ! 町長選挙のポスター! こっちに無断で貼り付けていくなんて、なんて非常識なのかしら!」

 静かな店内に響き渡る少女の声。彼女、二階堂悦子はこの店のアルバイトである。

 息を荒げる悦子に対し、飛龍はさして気にしてもいないような様子であった。

「まあ何だ。選挙では目立ったもの勝ちと考える奴らも多いからな。目くじら立てるようなものでもあるまい」

「店長、甘い、甘すぎます! そんな事をすれば奴らはつけあがるばかりですよ! 断固抗議するべきです! 全く! あの腹立たしいドヤ顔に落書きでもしてやりたい気分です!」

「止めておけ。折角の阿保面を真っ当にしてやる義理などあるまいよ」

「うー……」

 選挙ポスター。そんな物貼ってあったか。気になった頼夢が一度店を出て確認すると、確かに。自信に満ち溢れた……ある種傲慢そうな印象を受ける大男が写ったポスターが貼ってあった。男の名は宮本青三。ポスターには『堅洲革命』とでかでかと印字されている。

 店内に戻ると、悦子が未だ怒り心頭の様子であった。何をそんなに嫌う事があるのかと、頼夢が聞いてみると。

「パフォーマンスだか何だか知らないけれど、あんな罰当たりな真似をする奴に堅洲の長は務まらないわ!」

「罰当たりって?」

「ちょっと待ってて」

 悦子は携帯電話を取り出すと、とある動画を探し出す。ポスターに映っていた男、宮本の動画演説だ。六地蔵を前に非科学的だの時代遅れだのと声を張り上げているが、悦子はそんな戯言には興味が無いとばかりに動画を目的の場面まで飛ばしていく。

「ここだよここ!」

 演説は佳境に入っているようだ。「堅洲に必要なのは更なる近代化である! 外部からの悪評を覆す為に堅洲は古臭い伝統から脱却し、生まれ変わらねばならない」と宣言すると、後ろに並んだ地蔵に向かい「カビの生えた迷信などこうだ!」と吠えながらドロップキックをかましたのだ。吹き飛んだ地蔵の首がころころ転がり草むらへと姿を消す。

「うわあ……」

 ドン引きする頼夢。確かに、こんな奴には町の未来を委ねたくないだろう。炎上系のパフォーマンスで注目を集めようなんて考えの奴が自分達の代表だなんて、嫌すぎる。

 いい年齢の男の醜態に呆れる頼夢に対し、飛龍は相変わらず涼しい顔だった。

「店長さんは不安にならない? こんな奴が代表になるなんてさ」

「選挙なんてものは過度な期待をせずに妥協で選んだ方がいい。他人の生活を支える責任の重さを感じられるような真っ当な人間ならそもそも選挙に出たいなんて思わんよ。真面目に背負ったら自分が潰れるのが目に見えているからな。そんな重みをわざわざ引き受けようなんて奴は十中八九、責任の重さを軽視しているか、そもそも端から背負う気がないかのどちらかだ。とは言え、嫌がる連中に無理矢理責務を背負わせる訳にもいかんだろ。贅沢なんて言っていられんよ」

「わーいひねくれた考えだ~!」

「それに、だ」

 飛龍は意地悪気ににんまりと笑う。

「神仏をないがしろにする奴が町長をやっても任期の全うなんて出来やしない。怪異渦巻く堅洲町。その悪評を取り除こうと、今まで何人の『革新的』な町長が選ばれてきたと思う? 残念ながら、そいつらは一様に任期を全う出来なかった。失踪に発狂に逃走……その度に事なかれ主義の今の町長が引っ張り出されて続投するってのがお約束になっているのさ」

「ああ……テレビで見たよ。幸が頭頂部と同じくらい薄そうなあのおっちゃんね……」

「堅洲の長という責務からくる心労には同情するがな。仮にも一度は自ら町長に立候補したのだから、責任は果たしてもらわんとな」

 幸と髪が薄い町長に憐れみを感じる頼夢の隣で、悦子はそれでも納得いかないとばかりに不満げな顔をしている。

「まあ、そういう訳だ。ウチの商店街じゃ今度の町長がどれくらい持つかの賭けが一種の伝統になっているくらいだから、そんなに気張って考えるな。消えゆく蝋燭の最後の輝きくらい、大目に見てやれ」


 帰宅ついでの散策中。延々と続く塀が来夢の視線を釘づけにしていた。

 大きな屋敷を取り囲む長々とした塀に、『黒船』で見たのと同じポスターが均等な間隔でびっしりと貼り巡らされていた。

「これ流石に怒られない?」そんな感想を抱いて歩いていると、やがて門。

 この暴挙の犠牲となった屋敷の主が気になって、表札を調べてみるとそこにあるのは『宮本』の文字。

 宮本。ポスターの人物は宮本青三。まさかと思って門の外から覗いてみると、ポスターに映っている顔と瓜二つの男が立っていた。

 そしてその傍らには見慣れた金髪の美女。頼夢の雇い主である魔女、ロビン・リッケンバッカーだ。 

 こんな所で何をやっているのか。気になった頼夢が門から身を乗り出して眺めていると、警備員らしき男達に見つかった。

「おい、そこで何をしている! ここはガキが来る場所じゃない! 帰った帰った!」

 声を張り上げる威圧的な警備員に若干ムッとしつつも、確かに自分がここに居る理由はない。雇い主にも事情があるだろうから邪魔をする訳にもいかない。そう思った頼夢が踵を返そうとすると。

「あれ? ライム?」

 警備員の怒鳴り声に反応したのだろう、ロビンと目が合った。

「あっちゃ~。見つかっちゃったか……」

 ロビンはどことなく困ったような顔をしつつも、宮本と二三言葉を交わしてから頼夢の下へとやってくる。

「バレちゃったならしょうがないよねえ。今、そこに居るミヤモト氏に依頼を受けててさ。ライム、悪いけど手を貸してくんない?」

「別にいいけどさ。何の手伝いなのさ?」

「屋敷で話すよ。という訳で、警備員さん。この子通してあげて」

「あ、はい」

 警備員はすんなりと頼夢に道を譲る。

 ロビンの後を追い、従者らしき者達の案内を受けて頼夢は豪奢な屋敷へと足を踏み入れた。


 無数の絵画や高価そうな調度品。宮本家は大分栄えているらしい。

 チラリと同行する宮本を見てみると、獅子の様に勇猛そうな顔には何の感情も浮かんでいないように見えた。

 やがて一室に通されると、宮本氏は案内を買って出ていた従者達に視線で退出を促す。頼夢とロビン、そして宮本氏のみが残された。

 パチンとロビンが指を鳴らす。瞬間、部屋の中を満たす異質な力を頼夢は感じ取った。

「防音結界を張ったよ。これで外には声が漏れない」

 うむ、と言わんばかりに宮本氏は頷くと……。

「どうしようロビンさん! どうしよおおおおおおお!」

 それまでの威風堂々とした雰囲気を投げ捨てて、涙でぐしゃぐしゃになった顔をさらけ出したのだった。

 先程までの獅子を思わせる勇猛そうな顔の面影が感じ取れない程の変わりように、頼夢が口をポカンと開けて呆けていると。

 それに対して、ロビンは大男の醜態をこれっぽっちも気にしていないようだった。

「どうするも何も、やる事は一つだけでしょ」

 どことなく突き放すような物言いである。とてもじゃないが依頼主に対する態度とは思えない。

「ううう……俺、呪われて死ぬんだ……都の姐さんにも見捨てられたし、もう駄目だ……」

「ミャーコは見捨ててなんかないでしょ? 立場上手を貸せないだけで、こうやってロビンさんに依頼を聞くよう頭を下げてきたんだしさ。これがカナやミャービだったら自業自得と言い切ってバッサリ切り捨てていたよ。ほんと、ミャーコちゃんてば甘いんだから……」

「ねえロビン。あーしには話全然見えないんだけど、依頼って何なのさ?」

「護衛よ護衛。目的を達成するまでのね」

「何から守るのさ?」

「……まあ、一から話さないと分かんないよね。ショーゾー。泣いてないで説明して」

「あ、はい」

 これまで泣きじゃくっていたのが噓のように顔を引き締め、頼夢に向かって対峙する宮本氏。

 彼の話はこうだった。

 ここ数日、夢枕に地蔵の首が現れるのだと言う。金縛りにあった宮本氏を見下ろしながら、ブツブツと経文を唱えるのだと。

 所詮は夢。そう思っていたのだが、昨日になってそれが夢ではない事が分かったのだ。悪夢から目を覚ました宮本氏の枕元に、しかと地蔵の首が転がっていた。気味悪がった宮本氏が触れると、頭の中に鳴り響く夢の中の経文。

 肝を潰した彼はそれを窓から投げ捨てた。気を取り直して選挙活動を行おうと車に乗り込むと、何故か鎮座している地蔵の首。無論、先程これを投棄した場所と車との位置は離れている。

 一日中、彼の側から地蔵の首が離れる事が無く、これは先日蹴り飛ばした地蔵が報復しようとしているのだと判断。子供の頃に遊んでもらった縁のある武藤の末姫、都に助けを求めたのだと言う。

「あ~。自業自得ってそういう……。あーしもさっき動画で見たけどさ、正直あれはどうかと思うよ。大して信心深くないあーしでも、お地蔵さんを蹴っ飛ばすのは罰当たりだって思うし」

「うう……反論できない……」

 いつもは怪異に出会っても、過去の縁から都が助けてくれていたのだが、それは彼が被害者であったからに過ぎない。

 今回の彼は加害者だ。堅洲の治安を守り、タブーを破った者を罰するのが武藤家の役割である以上、いかに親交のある都と言えど、自業自得な目にあっている彼に手を貸す訳にはいかないのだろう。

 堅洲民はタブーを破る者に対して厳しい。怪異が共存する町で暮らす以上、神仏や魑魅魍魎に係わる話は迷信ではなく警告と判断しなければこの地で長く暮らす事はできないのだ。

 タブー破りは自己責任だが、違反者に一切助けの手が向けられないのかと言うと例外が無い訳ではない。だがそれは、堅洲のタブーを知らない町外からやってきた日の浅い移住者に対する忠告混じりの行為としてのみ行われるものだ。タブーを理解しているはずの純粋な堅洲民相手にはそんな慈悲など存在しないのである。

 宮本氏は大きなため息をつき、肩を落とす。

「あの時の自分はどうかしてたんだ。早朝からトラブルに巻き込まれて、ストレスを発散させるためについあんな馬鹿な真似を……」

「トラブル? 何があったのさ?」

「あの日は屋敷に盗人が入ってね。家宝の刀を奪われたんだ」

「そんなに価値があるものなの? マサムネとか?」

「俺にとっちゃムラマサだよ、ありゃ」

 太平の世に堅洲に移ってきた宮本家。その祖先は自分の一族の繁栄の為に随分とあくどい真似をしてきたそうだ。

 その恨み辛みが凶行を招いてきた家宝の名刀に宿ったらしい。家督を継いだ者が定期的に手入れを行わないと悲惨な目に会うとの事だった。

 この言い伝えを古い迷信と馬鹿にした者もいるにはいたが、手入れを怠った彼らの末路は凶刃によってバラバラに切り刻まれた肉片と言う形で示された。

 動画では迷信なんて信じないとアピールしていた宮本だったが、それは支持者に対して強い自分を演出するためのパフォーマンスに過ぎない。

 彼は骨の髄まで堅洲民である。怪異を信じる心は消え去るどころか、堅洲で日々を過ごす内にますます強くなっていた。

「期限までにこの手に刀が戻ってくる事を願っていたんだがね……昨日になってその希望も潰えたよ……どうなっちゃうんだろうなあ、俺……」

 どうやら地蔵への狼藉も、怪異なんて無いと自分に言い聞かせて心を落ち着ける為に行った衝動的なものだったようだ。

「でもさ、一日たっても呪いなんて襲ってこなかったんでしょ? もう刀の怨念は晴れているんじゃないの?」

「そうだといいなあ……だとすると、ますます馬鹿な事をした。消え去った呪いに怯えるあまり、新しい呪いを受けてたんじゃ元も子もない……」

 巨躯から絞り出される力無い声。堂々とした偉丈夫の様な容姿も、所詮は外面に過ぎないらしい。案外小心者である。

「で、ショーゾーがオジゾウさんに頭を下げるまでの間、危害に会わないようにするのがロビンさんのお仕事って訳。あんまり表立って行動したくない理由、分かったでしょ?」

「やらかした側に味方するんだもんね。タブーを破ったら自己責任だって堅洲の決まりを破る事になるんだから、そりゃ他の連中にバレたら気まずいか」

「言っとくけど、ロビンさん達の仕事はあくまでも君がオジゾウさんに謝りに行くまでの護衛だよ。謝罪の結果、君が許されるか否かは別問題だ。どんな結果になろうとロビンさん達はそこには関与しない。悪いのはオジゾウさんを蹴った君の方。正直、ミャーコが頭を下げて頼み込んでこなかったらロビンさんも依頼を受ける気にはなっていなかったからね」

「肝に銘じております……ああ、胃が痛い……」

 そう言って宮本は席を立つ。

 手に取ったのは小さな包み。確認するかのように包みを解くと、そこには件の地蔵の首があった。頼夢が耳を澄ますと、確かにブツブツと経文が聞こえてくる。

「……勝手にどこにもいってないな。よし、覚悟は決めた! ロビンさん、頼夢ちゃん、道すがらの護衛、お願いします!」


「どういうことなの……」

 例の動画の撮影場所。六体の地蔵が並ぶそこに赴いた宮本は唖然とした表情を見せた。

 宮本の蹴りを受けて首が落ちた地蔵。それはいい。そもそも、その地蔵に謝る為にやってきたのだから。

 問題なのは、他の五体。揃いも揃って首がない。動画に映っていた時は、しっかりと頭が存在していたというのにだ。

 包みを撫でてみる。紛れもなく一体分の重み。残りの首は今何処?

「どうなってんだろうね。動画の後もその場のテンションに任せて蹴りを入れたりしてないよね?」

「してないしてない! 俺が蹴ったのは一体だけ! 他の地蔵については無関係だ!」

「でもさ、ミヤモっさんの支持者がゲン担ぎとかリスペクトとか言って真似した可能性もあるでしょ? その場合は流石に無関係とは言えないんじゃない?」

「……ないと言いきれない自分が怖い」

 表向きには自信満々、威風堂々。迷信なんぞ信じないと言うエネルギッシュな人物として売り出している宮本だ。

 過激な発言や行動によるパフォーマンス。常識を大切にする者達には脅威に映るがその反面、型破りなパワーで政治的な閉塞感を打開してくれるのではないかと期待し心酔する者もまた多い。

 実際、宮本にも熱心な支持者……信者と言えるような存在が付いて回っていた。彼らの期待に応えようと、更なる大口と派手なパフォーマンスを繰り返す。根が小心者の彼にとっては胃痛の種に他ならなかった。

「そんなにストレスならばさ、政治なんて止めちゃったら? 自分を偽ってまで町長になりたいものなの?」

「多少でも名のある家柄に生まれるとな、自分がそれに相応しい生き方が出来ているか不安になっちまうものなんだ。子供時代に親の七光りでチヤホヤされていると、その反動で自分が家名ありきの人間だって評価に耐えられなくなる。確かに金のあるだけの一般人として生きる事はできたかもしれない。けどな。男って奴は鷹が鳶を生んだと陰口を叩かれるよりは、蛙の子は蛙って称賛されたいものなんだ」

「やっかいな性格しているねえ」

「そう思う。もっと飾らず自分に正直に生きたい反面、俺ももう習慣を嫁さんとする年齢だからな。三つ子の魂を曲げるには遅すぎる」

 見栄っ張りな自分の難儀さに溜息一つ。宮本が持ってきた地蔵の頭を包みから取り出そうとしたその時だった。

「……! 危ない!」

 突如飛び込んできた銀光から宮本を逃す為、頼夢が大男の身体を突き飛ばす。

 地に突き刺さったのは日本刀。その柄から、ゆっくりと煙が立ち上がる。

「ねえ、あれって。ミヤモっさんがさっき言ってた家宝の刀?」

 宮本は突然の襲撃に声が出ないようであったが、頼夢の言葉が間違っていないと首を上下に激しく揺らす。

 煙は徐々に人型を取り、やがて一人の男の姿を現した。開国以前の農民と思わしきそれの男。ボロボロになった服から覗く肌には、恨みがましい無数の顔が張り付いている。一様に血の涙を流す亡霊は、刀を引き抜いてゆっくりと宮本ににじり寄ってきた。

「ひ、ひいいいいいい!」

 亡霊から向けられる憎悪と殺気に宮本が悲鳴を上げる。これが代々の言いつけを破った者に対する答え。呪いは解けてなどいなかったのだ。

 凶刃を振り上げた亡霊。その前に、割って入る者が一人。ロビンだ。

「悪いけど、手は出させないよ。ショーゾーはまだオジゾウさんに頭を下げていないんだ。それに……」

 ロビンの顔から表情が消える。

「君は堅洲のタブーを犯しているからね。過去に何があったか知らないけど、復讐ってのは当事者同士の間で蹴りを付けるもの。当事者がもういないのに、血が繋がっているから、子孫だからなんて理由で無関係な相手に対して凶行を働くのは許される事じゃない。親の因果が子に報いだとか、子々孫々七代祟るとか、そんな理屈は堅洲じゃ通用しないんだよ、悪霊さん?」

 亡霊は知った事かとばかりに邪魔をするロビンに刃を向ける。空を切る銀閃。小さな動作で斬撃を躱したロビンは、懐から取り出したのであろう粉末を亡霊に叩き付ける。

 先程まで半透明だった亡霊の姿が、粉に塗れた瞬間くっきりと映し出された。そのまま流れるような動作で叩き込まれるロビンの蹴り。

 恨み骨髄だった顔に驚愕が浮かぶ。亡霊たる自分が、実態を持たぬはずの自分が、生者であるはずのロビンの蹴りを受け、衝撃で後退ったのだ。

 霊体が実体化している。先の粉末の効果だと理解した亡霊だったがやる事は変わらない。自分達の生活を奪った憎き男の血を引く者に引導を。それを邪魔する者は、斬り捨てるのみ。

 振り回される刀だが、ロビンには掠りもしない。この亡霊は見た目通りにただの農民だったらしい。闇雲に刀を振り回すだけで、余りにも隙だらけ。堅洲の怪異と戦ってきた事で鍛えられたロビンにとって敵ではない。その油断がまずかった。

 振り下ろされた刃が宙で止まる。横にずれて躱したロビンの目が驚愕に見開いた。

 目釘が地に落ちる。次の瞬間、柄から刀身が射出された。むき出しになった鋼が、一直線に宮本へ走る。

「人生終わった!」と目を閉じる宮本。瞼の裏に今までの人生が駆け巡る。

 火花が散った。何か硬いモノ同士がぶつかる音。宮本が恐る恐る瞼を開くと、そこには浮遊する地蔵の首があった。

 弾かれた妖刀と対峙する地蔵の首。再び宙に浮いた妖刀を、突如として取り囲むモノが現れる。

 それは地蔵の首、首、首……。行方知れずになっていた残り五体の地蔵の頭だった。

 円陣を組んで妖刀の動きを牽制しながら、浮遊する地蔵の頭達は経文を唱えだす。

 途端に苦しみだす亡霊。どうにも妖刀が本体らしい。経文によってどす黒い怨念が煙となって天に昇っていくのと共に、亡霊の姿が徐々に崩れていく。

 地蔵達の動きと共に経文が止まった。ガシャンと音を立てて、呪われた刀身が地に落ちる。もはやそこに禍々しさは感じられない。亡霊もまた、浄化されたかの如く消え失せていた。


「結局、オジゾウさまは君を恨んでいた訳じゃなかったんだね。自分に狼藉を働いた相手に対して、慈悲深いと言うか何と言うか」

 ロビンは買ってきていたペットボトルのお茶と団子を六地蔵に捧げながらこう言った。

 今、頼夢達の目に前にはちゃんと頭の付いた六地蔵の姿。妖刀に宿った怨霊を成仏させた後、独りでに元に戻ったのである。

 どうにもこの六地蔵は、演説動画を取りに来た宮本が刀に呪われているのを見て取って、彼を護る為に付き纏っていたらしい。恐らく、枕元での経文も睡眠中の無防備な彼に呪いが及ばないようにする為の行動だったのだろう。

 宮本は手にした刀をしげしげと見つめている。今まで手入れの際に手に取ってきたが、その時に感じた背筋も凍るような悍ましい感覚が沸き上がってこない。本当に浄化されたらしかった。

「ロビンさん。姿を騙せる魔術って、あるかな?」

「あるにはあるけど。どうしたの?」

「命を救われた。俺だけじゃない、今後生まれてくる子孫も呪いから解放されたんだ。それに恩を感じない程俺は腐ってはいないつもりだ。これから、暇があったらここに参拝したい。したいんだが、一度腐った部分はどうしても変えられなくってな」

「ああ。お地蔵さんに頭下げてるの見られると、それまでのイメージに関わるって訳ね。本当に面倒くさい性格してるねミヤモっさんは」

「自覚はあるんだけどな。困った事にこの見栄っ張りな部分はどうにも変えられん」

「まあ、君は体格が立派だし素人の変装程度じゃバレやすいだろうからね。いいよ、教えたげる」

「有難う、本当に有難う」

 かくして宮本家は呪いから免れた。

 頼夢達は慈悲深い小さな六地蔵に深々と礼をして、その場を立ち去るのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ