8話 糞喰らえで停滞的な日常、しかし変化は突然に
「起きろォッ!」
警備兵の掛け声が耳から入り、意識が生まれ、
目が覚める。
体のラインがくっきり見えるほど薄っぺらい
布団、
…いや、もはやただの布をひっぺがし
足に力を入れ、立ち上がる。
やや大きめの檻から外を覗くと、
数人の警備兵が飯を持ってくるのが見えた。
……奴隷になってから二週間が経った。
俺にここでの生活についてを色々と教えてくれた
ラークスさんは昨日、毛皮のコートを着てデカい宝石の指輪を嵌めまくったマダムと、立派な髭をたくわえた貴族風の男に、屋敷の召使として買われていった。
色々と親切にしてくれた、ラークスさんの今後の人生が幸せであることを祈りながら、俺はトレイに乗ったドロドロとした赤い物体をかっこんだ。
糞まずい。
一噛みもせずに胃に流し込むようにしているが、どうしても舌に触れてしまうし、後味もしっかりと残る。
飯の質に顔を顰め、このままじゃいけないと今後について考える。
まず脱走は無理だろう。
警備兵がうじゃうじゃいる上に、入り口近くにはデカいトカゲみたいな魔獣がおり、そいつが門番としてどっしりと構えている。
となると、残った選択肢は、誰かに買われるか、このまま死ぬまでここで暮らすか、だが……
消去法で誰かに買われるしかない………
詰んだわ…………
服が没収されたため剥き出しとなってしまった上半身は、鍛えてるとはいえ、他の奴隷達と比べるとどうしても見劣りしてしまう。
ここにいる男の奴隷の七割はムキムキマッチョメンなのだ。
…ちなみに女は五割だ
さらに、初日に気絶していた際に、髪を短めに整えられたらしく、前髪に隠れていた鋭い目つきがモロ出しとなり、犯罪者面がお目見えしていた。
まぁ、眉から上だけなら?ボサボサヘアーだった時よりも、爽やかな印象が得られるかもしれない気がする!
「眉から上だけなら」だけどな!!!
結果、体は周りに比べて貧相だが、顔は一丁前に犯罪者面という、口が裂けてもお買い得とは言えない奴隷が爆誕してしまった。
ね?詰んでるでしょ?
…とはいえ諦めてはいけない、このまま死ぬまでこんな所にいるなんて絶対にごめんだ。
理由として、暇でやることがないのも当然あるが、1番の理由はやはり、飯の不味さだ。
ここの飯は本当に不味い。今ではなんとか食べれているものの、最初口に入れた時はあまりの不味さに胃の中身ごと吐き出してしまった。
あの時、俺のことを心配して、優しく背中をさすってくれたラークスさん。
金髪ムキムキイケオジの思いやりを思い出し、
俺はあの人のさらなる幸せを願った。
話は戻るが、警備兵どうしの雑談によると、ここで出されるドロドロとした吐瀉物みたいな食感のメシは、とある商会が作り出した、一食で全ての栄養素を取り込むことができる「完全食」なのだそうだ。
しかし、そのあまりの不味さに各店で売れ残っているらしい。
まぁ、アレじゃ当然の結果だな。
そして、その売れずに、極限まで値下げされた物をこの奴隷販売店が目をつけ、奴隷達の食べ物として、買い漁ってるのだそうだ。
クソSDGsである。
おのれ名も知らぬ商会め……
自由の身になったらまずはお前から潰してやる…
「おーいお前ら!シャワーの時間だ!
飯食ってさっさと出てこい!!」
!?
シャワーだ!シャワーの時間だ!
警備兵が檻の鍵を開けるのをまだかまだかと待つ。
檻が開けられると、「急げ」と看守に背中を棒で突っつかれるのも気にせずにシャワー室へ向かった。
シャワー室前で服を脱ぐと、置いてあるカゴにいれ、いくつかあるドアの一つからシャワー室へと入る。
そこでは広い部屋の中に大量の奴隷がおり、
奴隷と奴隷の間には拳3個ぶんほどの隙間が空いていた。
俺もその列に加わり、隣と前の奴隷との距離を確かめて、位置につく。
そこから5分ほどした後、1人の警備兵が大きな声で全体に命令をし、水浴びが始まる………
ふぃー、やっぱシャワーは最高だなー
昨日1日と、夜寝てる間の汚れと汗を流せて満足だ。
この一日中クッソ暇な場所での唯一の癒しの時間でもあって、シャワーの時間はここの奴隷達が毎日楽しみにしているイベントと化している。
シャワーの余韻に浸っていると、今までぽつぽつと灯っていたランプのすべてに光が灯り、一気に約三倍ほど明るくなる。
店の開店の時間だ。
するとタイミングを見計らったかのように、10人くらいの客が入って来た。
客達は思い思いの場所に散らばると、奴隷達を観察しながら歩みを進めていく。
地元のペットショップを思い出させる光景だ。
「まぁこいつらにとっては俺たちなんて、所詮ペットに過ぎないんだろうな…」
ポツリと呟くと、なんだか悔しい気分になり、顔を俯かせ地面を睨む。
すると視界の端で、スタスタと歩いていた客が俺の檻の前で止まったのが見えた。
どんな奴なのか気になったので、フッと目の前の客に標準を合わせてみると…
電流が走った
いや、比喩とかじゃなく本当に電流が走った。
「うぎゃぁぁぁぁぁあッ!!!」
それを見てギョッとした警備兵が急いで棒を向け、警告の言葉を発する。
しかし、目の前の客はそんなことは耳に入っていないようで、
「魔法や塗料で黒くしているわけじゃないようですね?ということは、本物?
まさかこんなところで見つかるとは思いもしませんでしたね………」
などとボソボソと呟いているのが朦朧とする意識のなか聞こえた。
客はこちらに電流を放ったテレビのリモコンのような機械を懐に仕舞い、何かを理解し満足したようなスッキリとした顔でなおも警告を続ける警備兵に声をかけた。
「この子、買います」
はい、ヒロイン登場です。
あと奴隷販売店編完結です。