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5話 ガッカリ異世界転生

 

 気がついたら薄暗い場所にいた。

知らない天井だ…いや、天井なんてない、野外だ。

 上を見上げ、雲に隠れた空を睨む。


「初めて見る異世界の景色がこんなとこかよ…」

あの無礼な太眉天使を脳裏に浮かべ、愚痴を吐いた。

 

 どうやらここは、路地裏のような場所のようだ。

こんな危なそうな…しかも地球どころか日本にもありそうなとことっとと出て、エルフとか、ドワーフとか、

獣人とかが歩いてるのを見て、異世界を実感しよう。

 非日常的な体験がしたい。


 まずはそっからだ。


 俺はそう思い、路地裏のそこそこ広めな道をまっすぐ歩いた。


…それが聞こえたのは歩き始めてすぐのことだった。



 「キャーッ!!!」



 悲鳴だ…


 確かに日本じゃあまり聞かないけどもさぁ、

こんなので非日常感を感じたくなかったな……



「おい女ッ!でけぇ声出してんじゃねぇ!!」

「そうでゲスッ!衛兵でも呼ばれたらえらいこったっす!!!」

ガラの悪い、怒鳴りつけるような大きな声だ。


…ゲスて


 ほんとにいんだなぁ、その語尾使ってる人間。

何をどう思ってその語尾を使おうと思ったのだろうか、


彼の半生を知りたくなった。


 「ん、オイお前、そこで何してる?」


やべ、バレた。

 女を囲んで大声を浴びせる男達とは、まるでまとう

雰囲気が違うような男がこちらを見つけて、声をかけてきた。

 ぴっちりとした服を着て、薄い金髪をオールバックで

固めている。


 すると、男達の注意がこちらに向けられているうちに、囲まれていた女が、男達をすり抜け俺の後ろに隠れてきた。

 

 まんまと女に逃げられてしまった男チンピラ風の2人が指をポキポキと鳴らしてこちらに近づいてくる。


「オイオイ、そこの女庇うとはァ、大した度胸だなニィちゃん、それともアンタがその娘の借金肩代わりでもするってかァ?」

「痛い目にあいたくなかったらとっととそこの女をこっちによこすでゲス。怪我は負いたくないでざんしょ?」

 

 それを聞いた女がビクッと震えてこちらに寄り添ってくる。


 「た、助けてください…お願いしますっ…」


 よっぽど男達が恐ろしいのか、声まで震えさせてこちらに懇願してきた。


「そォいゥことならしょうがねェな、

………くたばりなッ!!!」


 すると、体が大きく筋肉の鎧をまとった男が、

こちらに拳を叩きつけようと走って来た。


 まじかよ…もう…


 今から始まる戦いに巻き込まれないように女を後ろに下げ、ファイティングポーズをとる。

 

 初エンカウントだ。


 「フゥゥゥゥンッ!!!!!」


 鼻息を荒くした男の拳が、唸りを上げこちらに迫ってくる。

 

 それを易々とかわすと、とても驚いた顔をしていた。

そのまま顎に向けて、二年前、夏休みの大半を費やして

習得した、渾身の右ストレートを放つ。

 

 天使の力によりそこそこ強者のパワーを得た俺の拳は、バゴッ!と上手い具合に顎に吸い込んでいき、

身長が俺の1.5倍はあるであろう男をノックアウトさせた。


 やっててよかったシャドーボクシング。


 崩れ落ちる男を眺める男達の驚きと、俺への警戒を

気持ちよく思いながら、正面の語尾ゲス男へと視線を合わせる。


 あきらかに狼狽えた様子のゲス男は、慌てながらも闘志は失っていない様子で、ベルトからナイフを引き抜いて構えた。


「チクショウッ!こんなに強いとは思わなかったでゲスっ!!だがしかしッ、おみゃーなんぞあっしのナイフ捌きでけっちょんけっちょんにしてやるでゲスよォッ!!!」

 ゲス男がそう喚き、ナイフの刃をベロリと舐めた。


 「チネィッ!!!」


なんと、こちらに飛びかかって来た。


…君はどこまで俺の期待を裏切らないのか……


 

 普通にかわし、

ナイフを持った手を掴む。

 そのままパンチを加え、腕を捻り、地面に倒したら、

頭の後ろの方に蹴りを入れてケーッオーフィニッッシュ!

 

 まぁ、想定通りの強さである。

いい意味で期待を裏切らないのは流石というところだ。


 

 さて、残るはパツキンオールバックのみだ。

しかし侮ってはいけない。先ほども述べた通り、直前に倒したあの2人とはまとうオーラが別物なのだ。

 

 あいつらがまさしくチンピラなら、

こいつはまるで本職のヤがつく怖い人である。


 いまにも懐からチャカチャカしたやつを抜き、こちらにぶっ放してきそうな雰囲気がある。

 ドスドスするやつでブッ刺してくる可能性もあるが…


 いやいや、冷静になれ、びーくーるだ。

ここは異世界、剣と魔法の世界。のハズだ。


 …そうだよな?

うん、なんだか不安になってきた。


 一応ゲス男のナイフを拾い、装備しておく、

柄まではぺろぺろしていなかったし、衛生的にも大丈夫

だろう。


「ククク」


 声が聞こえて前を見ると、パツキン男が下を向き震えていた。


 「クッハッハッハッハァーーッッ」


 笑ってる、高笑いしてる。

何がそんなに面白いのだろうか。

 天使だけではなく、異世界人の笑いのツボもおかしな所にあるのだろうか。


「いやはや、ここまで強いとは恐れ入ったぜ…」


 やけに余裕げに両手を上げた男がそう言った。


「…降伏でもしてくれんのか?そうならこっちとしてもありがたいんだが……」


「バカ言っちゃいけねぇよニイちゃん、こんなとこで負けたとあっちゃあ、上に怒られちまうぜ」

そう言うと男は上げていた手をバッと下げた。



 砂埃が大量に舞った。

いや、その前に何か大きなものが目の前で着地した。

いや、その前に横の屋根から何かがジャンプした


 要するに、何が起こったかというとだ…


俺と金髪男の間を遮るように、巨大な鎧が落ちて来た。

回想終わりです、次から現実に戻ります。

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