雨の中、二人で
「……カエデス……くん……?」
どうして、という表情でミシェルは見つめてくる。
「お前を探したんだ……何て顔だよ、泣いてんじゃねえか」
この雨のせいで頬に流れるソレだけを見ると何かは分からないが、瞳は赤く涙を流したのが表れている。
「あ、いや……気にしないでください。何でもありませんから」
そう言って手を振りほどき距離を取った。身体に触れてほしくないかのように。
「……どうしたんですか?わたしに何か用があるんですか?」
「それはお前が一番解ってるんじゃないのか?」
ミシェルの肩がビクッと震え、あり得ないとばかりに大きく目を見開いた。
「もしかして……しって……」
「正直、お前がどんなことしてるのかは知らない。ただ、それでもよくないことだってのは分かる」
「………」
自分の罪を知られた時のような絶望した顔で、ミシェルは俺を見る。
「ミシェル?」
何も喋らない彼女に声を掛け近づく。
だが。
「……や」
「え?」
「……嫌……来ないで……」
何かに怯えるように、ミシェルの表情が変わっていく。
「来ないで……何で……?どうして?何で、私……また?嫌なのに……嫌なのに、バレてほしくないのに……わ、わたしは?何で?おかしいよ、おかしいよ?……どうして、どうしてどうして、どうしてどうしてどうしてどうして?」
身体を抱きかかえて、目の焦点を合わせずブツブツとしゃべりだす。
あまりに錯乱しているその様子に、俺は駆け出す。
「おい!落ち着けミシェル!」
錯乱しているミシェルの肩を掴んだが、その瞬間に顔を上げた。
「ッ!!嫌アアアア!!触らないでぇぇ!!」
肩を掴んだ俺の腕を払い除けようと、叫びながら身をもがく。
「いやあああああ!やめて!!!やだあああああ!!」
「っ……!くそ、ミシェル!!!」
俺の腕を爪で引っ搔きながら逃げ出そうとする。
あの日出会った時のように急に暴れだすミシェル。
取っ組み合いの中、ミシェルの右腕が白く光だした。
「――!!!」
まずい、と直感する。
何の魔法を使うかは分からないが、この距離で直撃でもすればその余波でミシェルも怪我をする可能性がある。
ミシェルの手のひらから魔法が具現化しだすと、俺は彼女の右手を掴み上げ、自身の右手をミシェルの後頭部に回し――
「ッ!!!!アァッ!!!」
後頭部に回し、そのままミシェルを胸に抱き寄せた。
掴み上げたミシェルの手から放たれた魔法は、ベリっと音を立ててたがそのまま上空へと消えた。雷系統の魔法だったのか、掠った左手に痺れと肉が焼ける感覚が痛みと共に伝わる。
「あ……」
いきなり抱きしめられ、魔法を発動したことで冷静になったのか、動きが少し弱まる。
「大丈夫だ……落ち着け」
痛みに耐えながら耳元に声をかける。
ジンジンと痛みを感じる左手を無視して、抱きしめている右手に力を込める。
「あ……や……」
さっきと比べて力はないが、それでも抵抗しようともがく。
「大丈夫、傷つけない。絶対に、ミシェルを傷つけない」
「……うそ……」
「本当だ。誓って、お前を危害を加えない……お前を助けたいんだ」
ミシェルの動きが止まる。
「助ける……?」
「あぁ、そうだ。お前が何をしてるのかは知らないけど、その様子じゃあやっぱりロクでもないことになってんだろ。それから助けるんだよ……それと、兄からも」
さっきと同じ、いや、それよりももっとミシェルが強くの震えた。
「どうして、兄さんのことを……?」
「色々あってな。それも含めて話したいから、まずは落ち着いてくれ。できるか……?」
ミシェルはすぐには動かなかったが、しばらくして頷いた。
「よし、じゃあここだとアレだから移動しよう。少し歩くけど大丈夫か?」
「……はい。私は、大丈夫ですけど。でも、どこに?」
「俺のバイト先というか、何というか。少なくとも俺の家よりはマシなところだ……多分」
鞄から護符を取り出し、連絡をかける。
グレイ・ベルの報告もあるし、ミシェルの話も兼ねてアイツの所に行くの良いだろう。
「マグス……なるほどね、君とグレイ・ベルの過去の苗字か」
セーレは椅子に座りながら、興味深そうな顔をしながら腕を組んでいる。
現在、午後七時半。
俺はミシェルと共に家に行っていいかセーレに連絡した。
六時には帰れと言われていたので、正直言って許可されるかは不安だったが、意外とあっさりオッケーしてくれた。
ずぶ濡れのミシェルをシャワーに入れた後、お互いの事情をセーレに伝えていた……ちなみにミシェルの服は、シャワーを浴びる最中にいつの間にか洗濯され乾いていたのを着ている。
俺はこの後も出かけるため、タオルで軽く拭くだけだった。
「村の件は確かにグレイ・ベルが怪しいね。学生達に貴女を強姦することを頼んだのが本当に彼なら、毒盛ったりしても不思議じゃない」
セーレは俺とミシェルの話を聞き、グレイ・ベルが村の事件の犯人だと答えた。それは俺と同じだ……けど、それ以上に。
「……兄さんがそんなことを、本当に……?」
「まあ、同姓同名で似た過去を持つ赤の他人かもしれないけど、あなたの兄で確定だろうね」
ミシェルが口元に手を当て絶句している。兄が自分を強姦するよう連中に頼み込んで、その上村の人々を毒殺してるとなれば当然だろう。
けど、俺は毒殺以上にミシェルの話に衝撃を受けていた。
まさかミシェルがそんな目にあっているなんて思わなかった。
「ミシェル……お前」
ミシェルは俺の視線など気づかないほどショックを受けていて、その眼には涙が浮かんでいる。
「いやー、まさかミシェル家の依頼とグレイ・ベル依頼が繋がってたとはね。世の中、何があるか分からないもんだね」
「何楽しげに言ってるんだセーレ。今は最悪なことが起きてんだぞ」
「楽しげって言うのも失礼じゃないか、わたしは真剣だよ?ただ、やっぱり血の繋がりは凄いねと思ってね。いや、この場合は魂の繋がりなのかな?」
「魂の繋がり?」
「魔法世界、というか異能世界において兄弟姉妹にはちょっとした意味があって……やっぱり長くなるから、学校でその内習うからそこで聞いて」
たまにしてくる説明放棄だが、今はそれどころじゃないので突っ込まないことにした。
「……でも、どうしてグレイは実の妹にこんなことをしたんだ?」
「へ?分からないのかい?」
口から出た疑問に、セーレは意外そうな顔をする。
「分かるんですか……?」
黙っていたミシェルが反応する。自分でも兄の動機が分からなかったのだろう。
それに対して、セーレはあっけらんと答えた。
「単純に、彼はあなたに嫉妬したんだよ」
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