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旧名

「と、言うことなんですけど」


『……そう言われても、なんですけど』


 現在午後六時。


 俺は机の上に置かれている緑に光る石に話しかけていた。もちろん独り言などではなく、ここから遠く離れているセーレ・グレモリーにである。


 これは通信用の魔法具で、遠く離れている相手とも魔法具を通して話ができる。今使っているのは声だけだが、高いのだと顔も映せるらしい。


 ここに来る前にセーレから渡されていた。


「いや、つまりだよキミ。この村にいるはずのグレイ・ベルは実はいなくて、そもそも地図に書いてあった彼の家は五年前からなかったんだ。ていうかお前、この地図何年前のだよ。今と全然違うじゃないか」


 セーレからもらったこの資料、実は数年前のもので現在と全く合っていなかった。


 村の人に見せたら『古いねぇ五年前の地図だよソレ』と笑われた。


『それに関しては君が悪いよ。言ったでしょ、君が魔力を暴走させて書類が何枚もなくなったって。多分その中に新しい書類があったんだと思う』


「だからって何で古いの取ってあるんだよ。新しいのが来たら捨てるだろ普通」


『む、押し付けはよくないと思うよ。新しい書類に古い書類の情報が載ってるとも限らないでしょう。古いからこそ見えるものもあるってよく言うじゃないか。だから決して書類整理をしてないからというわけではないんだよ言わなくていい』


 色々言っていたが最後言葉が早口になっている気が……というかそんなこと言ってねえし。


『じゃあ結局のところグレイ・ベルはいなかったんだね?』


「……グレイ・ベルはいなかった。けど、そいつの手がかりみたいなものはあった。ここからが重要な話なんだ」


『重要な話?』


「あぁ、グレイ・ベルじゃなくてベル家の事なんだけど」


 あの後も色々な人に聞き込みを行いグレイ・ベルについて聞いたが、彼のことは知らないというのだった。


 だが、その中でベル家についておかしな話があった。


「ベル家の人達自体は四人家族の、どこにでもいる普通の家族だったんだってさ。皆人柄が良くて優しい人達で、村人からの評判も良かったんだとさ」


『ふーん』


「だけど、そこにグレイなんて名前の奴は聞いたことないらしいんだ」


 村の人達にベル家人達の名前を聞いたが、その中にグレイなんていなかった。


 皆首を傾げて、そんな奴知らないと言うのだった。


『村人達が噓をついてる……何てことは無いか。ベル家の家族はどこいったんだい?』


「実はベル家の人達なんだけど、村に起きたある事件で全員亡くなってるんだ」


『ある事件?』


「ここの村、五年前まで井戸使っていたんけど、ある日誰かが井戸の中に毒を盛ったんだ」


『……』


「もう分かるかもだけど、その水を飲んだせいで何人か死んでしまって、ベル家の人達もその中に含まれてる」


 あの小井戸、壊れていたら『使用不可』と書かれるはずだが、あそこには『使用禁止』と書いてあった。あれはこの事件のことが理由で書かれていたのだろう。


「で、聞きたいんだけど。この資料に載ってるグレイ・ベルの情報、間違ってるんじゃないか?」


『……いや、情報は正しいはずだよ。となると無くなった資料に詳しいことが書かれているかもしれないね。ところで何でその家族の家がなくなったのかな』


「まだこの事件続きがあって、毒水を飲んだ人があまりに多いから、近くの街の病院に連れて行ったみたいなんだ。その時村人がほとんど出払ってたんだけど、その間にとんでもないことが起きたんだ」


『とんでもないこと?』


「いや、何故か家が()になってたそうなんだ。放火されて灰になったんじゃなくて、灰だけがあった。ほとんどの家は一部だけだったけど、ベル家は丸ごとやられたらしい」


 村の家の一部分が他部分と比べて新しくなってたり、ベル家があった場所に新築が建てられたのは、それが原因だという。


「状況的に井戸に毒を入れた奴と同じだって言われてるんだけど、どっちも犯人がまだ見つかってない」


『……何か面倒な話になってきたね』


「俺もそんな感じする。ま、分かったことと言えばこんぐらいかな。グレイ・ベルが村にいないから明日になったら帰るぜ」


 色々話を聞いたりしたから疲れたし、もう暗くなってきたのでここで泊まることにした。


「腹も減ってきたし、そろそろ切る」


『あぁ、わざわざ行ってもらってありがとね』


 セーレがそう言うと魔法具から光りが消えた。


 ……ちくしょう、お礼が浅い。もっと労わってほしかったぜ。仕事のお礼にボーナスするよとか、いいものあげるとか、わたしの身体を……なに考えてんだ俺。


 椅子から立ち上がり、ベットに横になる。


 人探しだったが、調べてみると結構大ごとだった。


 井戸に毒入れるとか、家が灰になるとか、グレイ・ベルなんていなかったとか、想像以上に物騒だった。何でアイツはこんなこと仕事にしてんだか。


 そもそもアイツ何の仕事してんだ?今じゃありえない魔術師だっていうのに。それにこの書類もそうだが、一体どこから持ってきたのやら。


「……やめよう、考えるのが怖くなってきた」


 魔術師であんな家に住んでいてこんな仕事しているなんて、絶対普通じゃない気がする。深く考えない方がいいだろう。


 腹も減ったため、飯を食うために食堂に行った。


 この宿の二階には食堂あり、行ってみると結構広く、メニューも豊富だった。


 席について注文をし、少し待っていると食事が来た。


 頼んだのはカレー。


 何故か知らないが、宿とかにあるカレーは無性に食いたくなる。


 見た目普通のカレーライスだったが一口食べるとスパイスが聞いたルーで、家で食うような味とどこか違くて美味かった……あまり家でカレーは作らないが。


 そうしてパクパクとスプーンを進めて完食し、部屋に戻ろうと席を立ったところで水筒の水が無くなったのを思い出した。


 売店がある一階のロビーまで降りて、水入りの瓶を買ったとき、


「オイ、アンタ」


 後ろから声をかけられた。


 振り向くと少しやんちゃな顔立ちの、十四歳ぐらいの子供がいた。


「君は?」


「ちょっと聞きたいことがあって。外に出てくれるか」


 そう言って子供は出口に向かって歩き出した。


「……こういうヤツは苦手なんだよなぁ」


 聞こえないように小声で呟きながらもついて行った。


 外に出て裏の方まで行くと、子供は宿の壁を背にして腕を組んだ。


「アンタ、探偵かなんか?」


「……は?」


 急に何を言ってるんだろうかこの子。


「村で一日中ベルさん達のこと聞いてたから、あの事件調べてんだと思って」


「あぁ、そういう。いや、別に探偵ってわけじゃないんだけど……まて、でも人に頼まれて調べてるから探偵に似てるのか?」


 セーレが一体何の仕事してるのか分からないので言葉に迷う。


 子供は怪訝な顔をする。


「……探偵じゃねぇのか。ま、探偵にしては眉に切り傷ついてて怖い顔してるから目立つか。だがまあ、調べてることには変わりはねぇか」


 この生意気な()()はそう結論付けたのか、うんうんと頷いている。


「――で、なに?」


「アンタ、グレイ・ベルついて調べてるんだろ?あの時はアンタがどんなヤツか分からなくて話しかけられなかったけど、オレそいつのこと知ってる」


「……知ってるのか、彼を?」


「グレイ・ベルって名前かどうかは知らないけど、多分そいつだと思う」


 真剣な顔をするガキの話を聞き入る。


「オレ、あの家の娘と顔馴染みでよく遊んでたんだよ。優しい人でさ、オレのことを弟のように可愛がってくれたんだ。オレは嫌がってたんだけど、実はまんざらでもなかったんだよ」


「………」


 そう語るガキは懐かしそうで、切なそうな顔をしている。


 もしかしらその子に特別な思いを抱いてたかも知れない。


「だからあの時の話はよく覚えてる。あの人、新しい弟が出来たって嬉しそうに言ったんだよ」


「弟?」


「あぁ。でも産まれたんじゃなくて、養子で引き取ったらしい」


「養子?でも誰もそんなこと言ってなかったけど?」


 村人達は全員ベル家は四人家族と言っていて、五人目については誰も知ってる様子はなかった。


「養子にしたことは秘密にしてたみたいで、オレにだけ特別に教えてくれたんだ」


「……何で秘密にしてたんだろ」


「あの人が言うには、ソイツちょっと心閉ざしてるとかで自分の存在を知ってほしくなかったんだとよ。村の奴らが知らないのは無理ねぇよ、だって部屋に引きこもって外に出なかったんだから」


 自分のことを知ってほしくない。引きこもりをするぐらいだから、心が病んでもいたのだろうか。


 だがそれよりも、最後に()()の口調が強くなったのが気になる。


「……じゃあ、その養子の子がグレイ・ベル?」


「さあな……でも、オレは井戸に毒を入れて、村を灰にしたのはソイツだと思ってる」


「?どうして?」


「そうとしか考えられねぇからだよ。オレは事件の夜、あの家の人達を病院まで運んでた。オレの家族は無事だったからな。当時の村には魔法具の荷台なんて無かったしそういった魔法を誰も使えなかった。だからただの荷台に人を入れてそれごと駅まで行って転送するしかなかった」


 話によればこの事件によって緊急時に対応するだけの設備がないことが見直され、国から村に医療用の魔法具が送られたり、警備隊が配置されたり等の支援があったという。


「オレはあの人を運ぶために家の中に入った。でも家の中には話に出てきた養子なんていなかった………だけど一つ、家の中に異様な部屋があったんだ。ドアが少ししか開いてなかったから、一瞬しか中を見れなかったけど、部屋の壁が写真で埋め尽くされてたのが見えた」


「写真?」


「何のだったかは知らない。村に戻ったら確認しようと思ってたんだ。でも、戻って来た時は、知ってるだろ?灰になってたからな。だから確認もなかったんだよ」


「……何で君は、その養子が犯人だと?」


「さっきも言ったがそれしか考えられないからだ。あの人は噓をつかない。つくとしても、養子を引き取った何て噓は言わない。本当にいたんだよソイツはな。なのにあの夜いなかった。家から出ない奴がだぞ。そんな奴が事件の時だけ外に出たなんて信じられねぇ」


 少年の口調が段々と強くなる。


「動機は簡単だ。引きこもりの精神異常者はどんなことするか分かったもんじゃねえ。自分が異常なんて事も分からずに気分次第で周りに迷惑をかける。毒盛った理由は深い意味はないんだよ。でも自分は悪くないって考えるから痕跡は消そうとする。魔法使いだったのか知らないが家を灰にしたのはそういう理由だ」


「…………」


「村の住民名簿が村長宅にある。でもあの事件の後その中のベル家には四人の記述しかなかった。ソイツが改ざんしたに決まってる……オレは何度も警備隊に言ったよ。でも聞き入れてもらえなかった。だからまだソイツは捕まってない……ベル姉さんや弟さんにその両親。村長や村の人をぶっ殺してんのに、のうのうと生きてるのがソイツがオレは許せねえんだよ!!」


 ひときわ強く声を荒げた。


 ()の中ではもうその養子が犯人だと思い込んでいる。


「……その養子がどこ行ったのか知らないか?」


「知らないし、知ってたらオレがもう行ってる」


「……そうだよな」


「でも、アンタに話すことはまだある。養子のことを教えてもらった時、ソイツの前苗字も言ってたんだ」


「え、そうなの!?」


「ああ、でも裏覚えだから正確じゃないけどな。それと、事件の次の日に見つけたんだが、家の近くの木に一枚だけ写真が挟まってた。多分灰にする前に飛んでったんだと思う」


 彼はポッケの中をから写真を一枚取り出した。


「写真に写ってるのは女の子だからソイツじゃないんだろうけど、何かの手がかりになると思う。警備隊の奴らはオレの話を聞こうともしなかったけど、アンタはそうじゃないかったからな」


 ドクンと心臓が高ぶった。


 まさか、こんな早く展開が進むなんて思いもしなかった。


「教えてくれ、なんて苗字だった?」


 彼の口が開くと同時に写真を見る。


 そこには――


「苗字は――」






 


 




 


『どうしたの?こんなに早くそっちから連絡してくるなんて』


 彼の話を聞いて、俺は急いで部屋に戻りセーレ連絡を取った。


「分かったことがあって。でこっちも聞きたいんだけどさ。お前他にも資料あったじゃん、そこにミシェル家のやつあるか?」


『ミシェル家……?あぁあの名家の。でもなんで急に?なにか関係でもあるの――』


「いいから早くしろ!!!」


 声を荒げた。セーレは黙り込んで魔法具からはゴソゴソと音が聞こえてくる。


 心臓の鼓動がうるさい。


 関係ないはずだ、関係ないはずだ、ただの偶然で何も関係ないはずだ。


 あ。とセーレが声を出した。


『ちょうどあったよ、しかも最近届いたやつだ』


「そこのどっかに娘と父親の旧姓書いてないか?」


 心臓がうるさい。


 偶然で何も関係ない。こんなのこじつけレベルの話なはずだ。


『旧名?んーどうだろう……あ、うん、書いてあったよ』


「……なん、て名前?」


 声が震える。


 おかしい。だってこんなの、あまりに出来すぎてるんだから。


 確信も証拠も根拠もない、ただの俺の予想、憶測、嫌な予感。


 ――だけど。


 記憶が戻る。


 あの雨の日に出会った、新しい友達。


『親が離婚したんです。昔は――』


 ――なんて名前だったか?


 いるはずが無いのにゲリュオンにいたミシェル。


 凄くボロボロで大きく、怯えていて。


 昔の家族について話す時に、辛そうな顔していて。


 そして、あの写真に写っていたのは。


 さっきの話を思い出す。


『苗字は――』


 セーレの言葉が聞こえる。


 彼の言葉が脳裏に浮かぶ。


『マグスって言うらしいよ』

『マグスと言ってたんだ』


 ――写真には、ミシェルの面影がある少女が写っていた。

お読みいただき、本当にありがとうございます。

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