その場所には
「……意外と長いんだなぁ」
透明な丸いガラスのような物の中で、辺り一面が水色な世界を眺めながらそう呟いた。
現在、俺は駅の転送魔法によって別空間の中にいた。
セーレに言われた初仕事の為に、ある村まで移動しているのだった。
まあ、初の仕事と言ったが話相手が仕事だったので初と言えるかは微妙なのだが。
肩にかけた鞄から水筒を取り出し、蓋を開けて水を飲む。
意外とこのガラスの中は蒸し暑くのどが渇く。早く出たいと思うのだが、この空間に入り十分程経ったが未だ開く気配がない。
実はこの魔法、転送先によって転送時間は変わるのだが、実際の距離はさほど関係ないのだ。対象を別の空間に飛ばして、転送先の魔法陣がある空間へ繋げるの仕組らしいが、その別空間は自分達がいる空間とは合っていないらしく、空間内で距離が変わる。
歩くと一時間はかかる距離を魔法を使えば十秒で着く場合もあれば、歩いて十分で着く距離で魔法を使うと十時間かかる場合もあるそうだ。
駅を多く作らないのはこれが理由で、土地の魔力と別空間内での距離を調べて調整しなくてはならないという。
そのため転送魔法と呼ばれているが厳密には空間魔法に分類されるらしい。
とはいっても駅の魔法は洗練されているので、どんなに時間がかかっても二十分で着くように設定されている。なので今回は十分以上かかっているのが割と珍しかった。
「……それにしても、グレイ・ベルねぇ」
今回言われたのはこの男を探すことらしい。
言っちゃ悪いが、こんな覇気のない男を見つけてどうするんだろうか。
それも見つけて尾行とかするのかと思えば確認だけだという。
なんだかよく分からないが、セーレについては分からないなど今更な気がする。
そんなことを考えていると空間内が光りだし、気づけば魔法陣の上に立っていた。
駅の外に出て歩き出す。
転送中は暑かったが今は二月。まだまだ寒さが残っていて外に出ると身体が冷える。
今日は夕方から雨か雪が降るかもと新聞に書いてあったが、どちらが降るにせよ更に冷えるのには変わらない。出来ればさっさと帰りたい。
林から出て鞄の中からセーレからもらった資料を取り出し、そこに描かれている地図を見ながら村に向かう。
歩いていると遠くで工事の音が聞こえたり魔力の流れを感じる。恐らく切断用の魔法具や斬撃魔法でも使っているのだろう。
『テュフォン王国』の土地は広く、ゲリュオンも含めた街や複数の村があってもまだまだ自然豊かで、そのため都市開拓という理由で森の伐採や川の埋め立てなどをやっている。
が、村の中には森の中で生きるエルフや水中で暮らす人魚などがいるので、環境破壊や自然破壊が結構問題になっている。
だからなのか知らんが、人間と一部の種族が仲が悪かったりする。
学校でも亜人系の生徒(人間というカテゴリーに属してはいるが身体の一部が違ったりする者達)がいじめられて問題になったことがある……俺が問題を大きくしたのもあるが。
とはいえ『種族』で仲悪いだけで『個人』としては大丈夫だと思いたい。
駅から十五分ぐらい歩き、ようやく村に到着した。
村は今どきの村な感じの、どちらかと言えば街に近い雰囲気が漂っていた。
村の中の大多数は人間達で、たまに猫耳が生えた亜人がいるぐらいだった。
村の奥へと進んで行くと意外なものを見つけた。
「あ、古井戸だ。珍しい」
最近の井戸は魔法具で簡単に水を出すのが多く、こうやって自分の手で汲んで使っているのは珍しい。
というか今時は家の中で蛇口捻れば水が出るので、井戸自体が珍しいのかもしれない。
だが、俺もたまに古井戸を使っている身としては、同じ田舎っぽさが残っているこの村には親近感が湧く。
「あ。ねね、お父さん。あんなところに古井戸があるよ!エルフたちの村とおんなじで古井戸使っている人達もいるんだね!」
暖かい目で井戸を眺めていると、近くの屋台でクレープを食べていた狐耳の少女が、井戸を指差し父親に話しかけていた。
「ん~?ああ、あれはもう使われてないやつだよ、ボロボロだし。ほら、書いてあるじゃないか『使用禁止』って。まだ形は残ってるけど、もう壊れてるんじゃないかな?」
「えー。じゃあ何で取り壊さないの?」
「多分思い出のために置いてあるんだよ。昔こんなのがあったって覚えておくためにね」
「そっか、そうだよね。それによく考えたら今時のエルフでも魔法具の井戸だし、古井戸なんて使わないよね!」
キャッキャッと楽しそうに父親と話す少女。
「……………………」
………………………………
「……………………………………いやぁ~最近の村は進化してるんだな古井戸なんて使ってないんだもんな全くそうだよ今時は魔法だよもう何考えいるんでしょうね俺はハハハハハ!!」
そうして悲しくなってひとり笑っている俺を、通行人達は引いた目で見ていた。
悲しげに笑ったあと、俺は地図に書いてある家へと向かった。
この村……というか最近の村は広いのだが、街ほどではないので数分で着く。
ただ辺りを見渡しながら歩いていると、何か違和感を感じる。
「それにしてもなんか、少し地図と違うような……」
紙には田んぼがあったり牧場があったり小さな警備隊があったりと、村って感じだった。
だけど実際には、凄く変わったというわけではないが、色んな屋台がずらりと並んでいたり、ちょっとデカい宿屋なんかもあって、想像していた村と違っている。
警備隊の人たちも多いし、なんだかもう村というか一昔前の街に近いような……
そんな村の風景を見ていると俺の町が脳裏に浮かび、思わず愚痴を吐く。
「……村でもこんな進化を遂げているというのに、どうして俺の町はああなんだか」
一体全体、ゲリュオンは何で開拓資金がでないんだろうか。土地の魔力がうんたらかんたら言っていたが、別に土地関係ないんじゃないだろうか。
あそこに住み始めて何十回目かの同じ文句をたれてると、目的の家に到着した。
「……あれ、なんかここだけ新しい?」
周りの家はドアや壁の一部などは最近の物になっているのだが、それでも家を少し改装しただけ。昔から村にあるような家と言われればそんな感じはするのだが、この家は全体的に新しいように見える。
ちょっと疑問に思いながらもドアをノックすると、ノック音がピンポンという風に扉の奥で鳴った。
「この家……最新式のだ」
ファブニールやバジリスクで最近話題になっている魔法があり、なんとドアのノック音がこんな感じの音に変化する魔法だ。ノック音がうるさくて怖いという理由から柔らかな音にしたというのだが、そんな機能を付け足したせいで従来のより安全性が下がったのだという。
何のための魔法作ってんだよと嘲笑されていたのだが、実際に使っている人がいたとは……
ノックをしてしばらく待っていたら、中から身なりのいい妙齢の女の人が出てきた。
女の人は俺を見るなり表情がこわばる。
俺はよく怖い顔してると言われていて、初対面の人を怖がらせることがある。それが割とへこむ。
「……はい、何でしょうか?」
「あ、すみません、ここベルさんのお宅で間違えないですか?」
警戒を解こうと、できるだけ優しさ声で喋りかけたが、女の人は首を傾げてた。
「いえ、違いますけど?」
「へ?」
まさかの違う家だった。
「すみません間違えました」
そう言って地図を見直すが、ベル家の家の位置はここで合っていた。
「……あれ、でも合ってるな?」
俺が思わず呟いた言葉に、女の人は何かを思い出したような顔して話しかけてきた。
「あ、待ってください。多分、前ここにあった家の人じゃないですか?私最近引っ越してきたばかりで、ここに家を建てたんですよ」
ん、前の家?前の持ち主ではなく前の家?
「それはどういう?それに前の家って?」
「私引っ越す為にここの土地を買って、そこから家を建てたんです。よくは知りませんけど、一年前までここは何も建てられていなかったらしいんですよ」
「へ?じゃあ……?」
「そうですね。少なくとも去年まで、ここには何もなかったんです」
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