初めての仕事
あれから一週間が経った。
その七日間一度もセーレのところには寄っていなかった。
別に会うのが嫌になったとか風邪ひいたとかではない。
というのも純粋にめんどくさかった。
金に困ってやり始めたバイトだったが、この前の前借り三十万ゼニー。あれを手に入れたことで心に余裕というのが出てきたのである。
そうなってしまうと、まだ日にちに時間があるから大丈夫、となってしまい外に出るのが億劫になってしまったのだった。
じゃあその間何しているのかというと、勉強をしている……なんてことはなく、ベットで寝てたり漫画や小説を読んだりと、もうやりたい放題。
言ってしまえば、自堕落な生活を送っていた。
「……でも、まぁ。そろそろ行かなきゃな~」
ひとりでに呟く。
一応バイトなのでこっちも何か仕事をしなければいけない。
とはいえセーレのしゃべり相手になるだけなので、仕事と呼べるかは怪しいのだが。
丁度体調も良くなったので、家を出る準備に取り掛かる。
しばらく会いに行っていなかったが、特に怒られることはないだろう。
楽観的にそう考えながら、家の扉を開けた。
「遅い」
そう考えていたのだが、どうやら違ったらしい。
家に来て第一声がこれだ。
セーレは毛布をかけて椅子に座っており、綺麗な眉を寄せ明らかに不機嫌な顔をしている。
「ど、どうした。なにをそんな怒ってるんだよ?」
セーレの方に歩きながら、戸惑い気味に声を掛ける。
が、セーレはさらに顔をしかめてしまった。
「分からないのかい?どうして怒ってるのかが?君一体何日来なかったと思ってるんだ」
「え。いや、だって毎日来なくてもいい言うたのあなたやないですか」
「ああそうだよ。そうだけど、わたしの仕事を手伝ってもらうとも言ったじゃないか。それなのに君はまったく来ない、もう全っ然来ない!危うく君の分の仕事をわたしがするところだったじゃないか!」
……いや、そうだけど。人においそれと見せられないんじゃないのか、お前の仕事。それに危うくなの?
「大体君はこの前の………………?」
近くまで来たところで、勢い良く喋っていたセーレが急に黙った。
「どうした?」
「………」
黙り続けたままジッと顔を見てくる。
そうして数分間見つめられ続け、堪えかねて何か言おうとした時、セーレの口が開いた。
「…………吐いた?」
そして、その言葉に、俺の思考は一瞬停止した。
「何だか辛そうに見えるというか……休むかい?」
怪訝な顔で見つめてくるが、俺は心を落ち着かせて答える。
「――いや、大丈夫だ。昔からの習慣みたいなもんで、すぐに良くなる」
「吐くのが習慣なの?」
「まぁそんなもん」
言葉を濁したが、実際には違う。別に吐くことが習慣というわけではない。
単に、あの悪夢を見ることが習慣で、その結果吐いているだけだ。
――でも、他人に分かるほど辛さが顔に出てるということは、俺にとってあの夢は本当に見ていられないものなんだろう。
「本当に大丈夫?辛いならベットで横になってもいいけど」
「大丈夫だって、心配すんな。それより、俺に何か仕事があるんじゃないのか?正確にはお前の仕事の手伝いらしいけど」
逃げるように無理矢理話題を変える。
セーレは何も言わずに見つめてくるが、諦めたようにため息をついた。
「ま、君が良いならいいんだけどね。じゃあ仕事の話をしよう」
そう言って(元に戻っている)書類の山に手を突っ込み、ごそごそと何か探している。不思議なことに数枚の紙がひらひらと床に落ちるだけで、山の大部分は形を保っている。
整理しろよ、と思いながら俺はもう一つの椅子に腰掛けた。
「あったあった。これだ」
山の中から引っ張り出したのは一枚の紙、それを俺に渡してくる。
紙にはとある村の地図と名前、その行き方。そしてその裏に……
「……誰だコイツ……グレイ・ベル?」
何だが顔に覇気がない男の写真と名前が書いており、隣には『関連性・微』と書いてあった。
「あぁ、わたしの代わりに彼を探してほしい」
「俺が?何で?」
「手伝いだよ、わたしの仕事の手伝いがこれ。もっとも、本当だったらわたしが行くんだけどね。そこの村まで行って彼のこと探してみて。いたらそのまま帰ってきて、いなかったら張り込みね」
「張り込み!?」
初めてコイツの仕事の手伝いをすることになったら、まさかの探偵みたいなことだった。
「……なあ、これがお前が任せるって言った調べもの?」
「いいや?さっきも言ったけど本当だったらわたしがやるべきことなんだけど、君に任せることにしたの。なんでだと思う?」
少し考えたが、分からないので首を横に振る。
「実は彼の資料、この町に来た時には他にもあったの。でも、今はそれしかなくてね。なんでだと思う?」
……分からないので首を横に振る。
「実は他の書類はどこかの誰かのせいでなくなったの。誰かが魔力制御できないせいで。どうしてだと思う?」
……分かりたくないので首を横に振る。
「だからその誰かにね、罰も含めて仕事を出そうと思ったんだ。だって大変だったんだよ、片付けるの。重要な書類や魔法具か焼かれたり壊れたりしてねぇ。どうして魔力を出すなって言ったのに出すんだろうか、それも大事なものに向けて放つなんて。だからこれは罰でもあるんだ。それにわたしが魔力についてせっかく教えたんだ。お礼もかねて、この仕事を断るなんてしないよね。分からないから首を横に振るなんてことしないよね。ん?」
「…………はい」
意外に根に持っていたセーレの言葉に押されて、俺はここに来て初めて、ちゃんとした仕事をすることになった。
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