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異能力と仕事

「ところでお前、どうしたその格好」


 いつもはイスに座って何か読んでいるか、ベットにいるとしても寝っ転がっているかだが、今はベットの上で毛布に包まり座り込んでいた。


「今日は寒くてね、ここからあまり出たくはないんだよ」


「今日はって……確かに寒いけど、二週間ぐらい前のほうが寒かったんじゃね?雨?雪?かなんか降ってたし」


「そうなんだけどね。私は家全体に()()をかけ続けているから、日によって体調が変わるんだよ」


 そうだった。恐らくだが、コイツは世界で最後の()()()の生き残りだった。


 急な説明で申し訳ないが、この世界は様々な()()()というものが存在する。


 その中でもっとも強く、そして一番使われているのが()()であり、()()を使っている人間は()()使()()と呼ばれている。


 様々とは言ったが大昔、この世界には魔法しかなかった。五千年以上前は誰もが魔法を使い、今よりも魔法使いは強く数も多かったらしい。


 しかし、何故かは分からないが魔法使いは数を減らしていった。魔法を使える人間は減少し、使えたとしても魔法の質は落ちていくばかり。ついには五千年前に完全に魔法使いはいなくなった。


 だが、その頃には人間は新しい力を身につけていた。


 それが()()と呼ばれる力だった。


 魔術は魔法の劣化したものであり、魔法と比べるとあまりに弱いそれを、人々は魔法の代わりに使っていた。


 呼び方も()()使()()から()()()へと変化し、魔術から派生して()()()()()といった別の力が誕生。世界に新しい力が増えてきたことで()()()という言葉が作られた。


 そうして魔法から魔術へと変えて二千年の時が経ち、人々は魔術が当たり前になり、()()が魔法を使う日は訪れないと思われていた。


 しかし大きな出来事が起こった、魔法の復活だ。


 二千年以上の時を生きていた()()()()()()()使()()が、老衰する直前にある魔法を世界に使ったのである。


 その魔法は世界中の人々の身体に影響を与え、なんと魔法が使えるようになったのだ。その影響は強く、魔法の復活は魔術世界の常識を易々と凌駕するほどの力を与え、末端の魔術師が当時の魔術の王に匹敵する力を得るほどだった。


 こうして魔法は復活を遂げ、異能力の中でもっとも強く、そしてそれを使う魔法使いは頂点に君臨した。


 魔法が復活してから現在まで三千年の年月が経ち、この三千年の歴史が続く今を革新歴と呼び、魔術世界の二千年間は神消歴(しんしょうれき)、それ以前の時代を神代(しんだい)と呼ばれている。


 しかし魔法が復活した反面、逆に消滅した物もある。魔術がなくなったのだ。


 魔術は元々魔法が使えなくなった人間達が魔法を再現しようとした異能力だが、復活の原因となった魔法は、人体の構造を変化させるものだった。神消歴の人間の体を、魔術を使う構造から魔法を使う構造に作り替える。完全に別の力に変わっていた魔術以外の異能力は問題なかったが、魔術を使う方法が魔法を使う方法へと変わったことで、人間は魔術を使えなくなった。


 当時の人々は動揺していたが、特に体に害もなく魔法による恩恵が大きかったこともあり、魔術の消滅をあっさりと受け入れた。


 そうして現在では魔術が無くなり、魔術師はいなくなった。


「いやー。寒いねホント」


「…………」


 毛布に包まり、芋虫みたいになっているコイツを除けば。








   






「今日はカエデスに仕事を出そうと思っているんだ」


 あの後色々だべり、昼飯のスパゲッティを食べて一息ついていると、いきなりそんなことを言ってきた。


「今回の仕事は人探し……みたいな感じだね」


「人探しって、また探偵みたいなことをするのか。()()もそうだけどここは探偵事務所なのかよ?」


「まさか。前回はたまたま仕事として選んだだし、別に探偵っていうほどのことやってないでしょ。それともなに?不満なの?私の仕事を手伝ったらお金もらえてついでに魔法を教えてあげてるっていうのに、一体何が不満なんだい?()()()()()()()()()()()()()()()()、二回も教えてあげたじゃないか」


「金がもらえるのは感謝してるけど……え、二回目ってあれ教えなの?助言とかじゃなくて?」


 当たり前でしょ、と言いながら布団に包まるセーレ。


 俺がコイツのところで働いているには理由がある。


 俺はこことは別の町の魔法学校に通っているのだが成績が悪く先月の頭、春休みに入った直後に怖い先生から脅されてしまった。そして俺が自由に使える金も無くなりはじめるという二重の危機に陥り焦っていた。何とか金だけはどうにかしなければと思っていたところに、とあるバイトポスターを見つけた。


 ちょっと手伝いをすれば、高額給料がでる。なんて完全に詐欺の文章だったが、俺はそれに食いついてしまった。


 それがこの場所で、話し相手になるだけと言われて楽だと思ったし、色々あって魔法について教えてもらうことになったのだが、コイツの仕事を手伝うことになったらなんか闇深いし、給料はいいけどちゃんと魔法を教えてもらったのは一回しかない。正直失敗したと思ってる今日この頃。


「でもこの前の仕事死にかけたんだけど」


「あれは結果的にそうなっただけで最初からそういう仕事じゃなかった。君が変に首を突っ込んだから死にかけたんだよ。自業自得、そうでしょ?」


「ぐっ、そう言われればそうだけど……分かったよ、すればいいんだろすれば。今回はどんな仕事なんだ」


「解ればよろしい。今回の仕事はさっきも言ったけど人探しみたいなもの。前の仕事の後始末だね」


「後始末?」


「うん。警備隊から聞いたんだけど、この前()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?あの場には来てなかったけどもう一人いたらしいんだ。今逃げ出しているらしくてね、それの発見と確保だね。できれば無傷の確保だけど、難しいなら多少傷つけてもいいよ」


 おいおいおい、すげぇ物騒じゃないか。なんで平然とした顔でそんなこと言うのコイツ?


「お前が行かないの?絶対お前の方が早いじゃん」


「前言ったけど私はこの町の()()の調査で忙しいの。それがこの町に来た理由だしね」


 コイツは昔からこの町にいるわけではなく、数ヶ月前から仕事かなんかで来ている。


『この町に嫌な変化が起きている予感がする』


 そんなこと言ってきた時はヤバい奴だと思った。しかも超曖昧だし。


「まあ、確保は難しいかもだけど探すだけならなんとか」


「あぁ、最悪それでいいよ。見つけたら教えて、()()()()()()()()()


 微笑みながら言うコイツはやっぱりカワイイけど怖い。


「その人の特徴は書いてあるから、帰りに持っていってね」


 机の上で山になっている大量の書類に目を向けると何枚かが青く光った。どうやらそれが関係書類らしい。


 ……というか、あの中からよくわかるな。








   






 外に出ると日が落ちていた。


 なんだかんだで今日も魔法を教えてもらえなかったが、まぁしょうがないか。


 森を出て晩飯を買うため道を歩きながら、アイツについて考えていた。


 セーレ・グレモリー。この世界最後の魔術師。


 お前は一体何者だ、なぜ魔術を使えるのか。と聞こうと思えば聞けるがそんなことはしない。絶対にロクでもなさそうだからだ。前の仕事と一昨日の()()()を経て確信した、コイツはヤバい奴だと。過去とか知ったら俺が消される気がしてならない。


(……でもまあ、ああして接している分には害はないし魔法の知識も豊富で教え方もうまい、金もくれるし地雷を踏まなければ大丈夫だと信じていこう)


 そんなことを考えているうちに、目的の場所である古びたパン売り場についた。


 この店は商店街に比べると品こそ少ないが、価格はこちらの方が安く量も多い。味は特別美味しいわけではない普通の味だが、それで十分満足できる。何よりも町の隅っこの方にあるため人も少なく、俺からすれば結構いい穴場なのである。


 売り場に入ってパンを選んでいると、奥のほうから老齢だが元気のある声をした、この店の店主が出てきた。


「お、今日も来たのかカエデスの兄ちゃん」


「よう、おっちゃん。相変わらず人いないね」


「いいんだよ元々趣味でやってることだし、兄ちゃんみたいな奴が来てくれるだけでこっちは充分だよ」


「それはいいけど気を付けてよ、ここは防衛用の()()()もないんだら襲われてもしたら危ないぜ」


「それこそ心配無用だよ。こんなところに襲ってくる奴なんていないし、いたとしても金かパンくれてやればいいんだよ。まあ金はアレだが、パンなら兄ちゃん以外来る奴いないから有り余ってるし。それにオレは若い頃は結構やんちゃしてたんだぜ、喧嘩には慣れてる」


 自信満々に語るおっちゃんに苦笑しながら、俺はいつものたまごサンド手に取る。


「おっちゃん。これくれ」


「あいよ。ところで知ってるか、最近の噂」


「噂?」


「ああ、なんでもここ最近強盗が出てるんだとよ」


 ご近所付き合いは皆無なので初めて聞く話だった。


「強盗?家には魔法のロックが掛かっているだろ。この町時代遅れだけど、何百年前の家なんか流石にないだろ」


「それが魔法をくぐり抜けて家に入っているらしいんだよ。相当の手練れらしくてな、魔法の感知にも引っ掛からないでうまく食いもん持っていくらしい」


 大体の家は侵入者防止の魔法陣がどこかに描かれていて、そのため魔法に登録していない部外者が家にこっそり入ることは困難である。バレずに侵入するのは相当の手練れか、魔法陣そのものが機能していないかだが、今回は前者らしい。


「魔法にも引っ掛からないのは凄いな。なんで強盗なんかしてんだか」


「それは知らんが、警備隊は結構本気で捜索しようとするみたいだな。夜の巡回の人数を増やしてるらしい」


 会計が終わり、おっちゃんは俺に袋を渡してきた。中は俺が買ったたまごサンドのほかに色々入っていた。


「おっちゃん、コレ」


「さっきは喧嘩に自信があるとは言ったが流石に今回のはやばそうでな。しばらく店を開くのやめようと思ってるんだ。それはその詫びでな。すまねぇが明日から別のところで買ってくれ」


 流石に今回のは危険と思っているのか、おっちゃんは申し訳なさそうにそう言った。


「ま、最近は物騒だからなぁ。この前だって中心部で若者が暴れたっていうし、遅くまで外にいるのは危ねぇ気がするからな」


(中心部……)


「ありがとうおっちゃん。その方がいいよ。強盗犯が捕まったならまた開いてくれ、今度はこれの礼をするからさ」


「いらねぇよ。さっきも言ったけど趣味だからよ。うちの女房はいい加減やめろって言ってくるけどな。それじゃあな、兄ちゃんも気をつけろよ」


 そう言っておっちゃんは店の奥に行ってしまった。おっちゃんに心の中でもう一度感謝し俺も帰路に着く。


(それにしても、手練れの強盗犯か……)


 さっさと捕まってくれと願うばかりだが、さっきの話しを聞いて嫌な考えが頭に浮かんでしまった。


「……待てよ。もしかしたらその強盗犯って、俺が見つけなきゃいけない奴じゃね?」

お読みいただき、本当にありがとうございます。

面白い、続きが気になると思っていただけた方は、⇩の☆☆☆☆☆(面白かったかつまらなかったか、正直な気持ちで大丈夫です)、感想、評価、ブックマーク等、応援よろしくお願いいたします。

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