その正体は
約五秒間、そうイメージして魔力を採り続けた。
ゆっくりと目を開ける。
そこには五秒前と何も変わらない水晶が握られていた。
……いや、ほんの少し、よく見れば水晶玉の中に薄青いものが漂っている。これは……
「……想像以上に駄目だね。最低限しか供給できてない」
眉をひそめながらセーレが言う。
学校でもこんな感じに測るのだが、この水に入れた青色の絵の具のようなものが魔力だ。
この青色が濃ければ魔力の質がよく、水晶の中を満たしていれば魔力の量が多いことを表している。
上手い奴ほど全体を濃く染め上げることができ、シャロム先生なんて真っ青すぎてもう砲弾というレベルだった。
だが、俺のように下手くそだと、こんな海の中を漂うクラゲの足みたいなになる。
「これが限界なんだ。どうしても上手くいかない」
「確かにこれは酷いな。魔法使いじゃない一般人でも、多少練習すればこれよりはマシなのに」
中々辛辣な言葉にガックリと肩を落とす……そんなん俺だって分かってますよ。
「さっきイメージがよく解らないって言ってたけど、どんな風に解らないんだい?」
セーレは水晶玉を見つめながら質問してきた。
「いや、理屈は分かるんだけど、実感が湧かないっていうか……どうやっても少量にしかならないのに、どうして魔力を多く採れるのかっていうか……」
何度か魔力供給の効率がいい人にどうイメージしているのか聞いたことがある。そしたら……
「『掬う時に湖の水全部掬ってるんだよ』って……何言ってンスかと思ったね。それも皆似たようなこと言うんだ」
「……あぁそうか。実際には有り得ないから、そこから発展しないんだ」
そう、言ってる意味は分かる。実際はそんなこと有り得ないけど、大体そういうイメージをすれば上手くいくっていうことは。
ただ……実感が湧かない。
湖の水をすべて救い上げるなんて有り得ない、という先入観が邪魔をする。
その為、どうしても水の量が両手で掬う程度のイメージになってしまう。
「何回も練習するんだけど、どうしてもこうなる。頭空っぽにして勢いに任せてすると何も起こらなくなる」
「ふーむ。イメージを変えたらどうだい?他にもあったでしょう」
「それも駄目なんだ、というか先生に『現実の常識に囚われてる時点で異能力者として向いてない』って言われる始末だ」
魔法使いに限らず他の異能力も、割とイメージというか想像力は大事らしく、それが出来ないなら異能力者として大成しないという。
(まあ、別に魔法使いとして力なんて無くても――)
「じゃあいくつかわたしが言ったものでイメージしてみて」
不意に言われて思考が戻った。
「イメージしてって……教科書のやり方全部試したし、教科書以外のやり方って他にあるんの?」
「いいからいいから。はい、水晶玉持ってイメージしてね」
少し怪訝な顔になりながら、目を閉じてセーレの言葉に耳を傾ける。
「よし、じゃあ言うよ。海の中に飛び込んで」
「は?」
思わず声が出てしまった。
「ダメダメ集中しなきゃ。目を閉じて、一度それを想像してみるんだ」
目を開けそうになったがセーレの言葉によって遮られたので、仕方なくイメージしてみる。
「続きを言うよ。海に飛び込んだらそのまま潜っていくんだ。深く深く、息が続く限り、出来るだけ海の底の底を目指すようにして」
――海の中、息が続く限り。
「その海には君一人だ。他にいるべき存在はなく、聴こえるべき音もない、静かで孤独な海の中」
――何もいない、海の中。
「下に潜っていけばいくほど、周りはだんだん暗くなる。だってそうだろう?海の底は光が当たらない、真っ暗闇な世界へと変わっていくんだから」
――真っ暗闇な世界。誰もいない場所に、一人で……
――それは、寂しい。だって誰もいなくて、何も聴こえなくて、何も見えないのだから――
どこか。
――違う。寂しいんじゃない、誰もいなくて何も聴こえなくて目を開ければ――
何かと。
――真っ暗な世界は――
何かと繋がって。
「そこで怖いと感じたのなら、振り返って上を見上げればいい」
振り返ると底とは違う、見上げれば色のついた世界があって、水面には日の光が……
「そこでこう思うんだ――――あぁ、ずいぶん潜ったんだな、と」
「――ああ――!!」
何かの。いや違う、魔力の温度を感じ取って五秒間、その温度に触れた。
ゆっくりと目を開けて、手に持っていた水晶玉を見た。
さっきではよく見ないと分からなかったが、今ではそんなことしなくてもはっきりと見える。
水晶玉を染めている、青色の――
「いや少ないね」
……だが、そんな感動を平気でぶち壊す言葉を言い放ちやがった、セーレ・グレモリーであった。
「なぁ、今喜ぶ流れだったじゃん。なにしてんの?」
「へ……?いや、だって少ないから。もっと多く採れるものだと思ったのに、想像してたほど……」
「言うなよ!!空気読んで下さいよ!!ここは感動シーンなんだから!!!」
あんまりなセーレに声を大にして抗議する。
確かに水晶玉はさっきよりかは魔力は集まってる、それも色がわかるほど付いている。
しかし、それはさっきよりかはマシという程度だった。
学校の測定での評価でも最低値には変わらないというか……
二点だった今までのテストが二十点に上がった、みたいな……
「ちゃんと想像した?それとも想像しただけで魔力供給の準備してなかったんじゃない?」
「したわ!イメージしながら魔力供給の準備してたよ!最後の方に魔力とイメージ繋がったし!」
納得がいかないのか、俺がヘマしたと思ってやがる。
「だったらしっかりイメージしなかったんじゃない?イメージのどの部分が魔力としてか解る?」
「それも解ったよ。アレだろ、どこまで潜ったか感じたヤツ。振り返って、潜った量の海水を魔力だと思えばいいんだろ」
振り返った時に浅くまでしか潜らなかったと感じれば、その時の海水の量は少ない。深く潜ったと感じたならば、その時の海水の量は多い。
要は限界まで潜った時の海水の量を、供給できる魔力だと思えばいいのだ。
「君は魔法使いだけど常識に囚われてるんだ。だから水を掬うなんて現実的なことが土台だとそれを逸脱する行為は理解できない。けど、アレなら単に深くまで潜って振り返るだけ。あとは見上げた量の海水を自分が得られる海水だと思うだけだからね。少なくとも今までは、魔力を別のナニかに見立てるのは出来てたでしょ」
……まあ、確かに一度に湖の水全部掬うってのが解らなかっただけで、水を魔力に例えるのは出来ていた。
セーレの言った通り、イメージの土台が現実的か非現実的かでイメージしやすくなるのだろうか?
「まぁ普通は土台がどちらであれ、皆イメージはできるんだけどね。異能力は想像力が大事って君の学校の先生も言ってたでしょ。それに魔法を使用する度にこんなのいちいちイメージするもんじゃないし、基本的には無意識で行うことだしね」
「……そうだけど。でもやり方変えたら進歩したから嬉しいんじゃないか」
「進歩……かなぁ?わたしはあまり納得できてないんだけど。これだけしか出来ないのならホントに魔法使い向いてないのかな?」
お、今の物言いにカチンときてしまったよ俺。
「そんなに言うなら、お手本というを見せて下さいよ」
そう言って俺に渡した時のように、セーレにヒョイと水晶玉を投げた。
セーレはなんて事のないように片手でキャッチし、水晶玉を一瞥しただけだった。
「ごめんだけど、わたしは出来ないんだ」
「なんだよ言い訳か?俺に散々言ってたのに自分も出来ないのかよ」
セーレは、いいやと首を振った。
「わたし、魔法は使えないんだ」
「……へ?」
まさかまさかな意外な事実。魔力に関してあれだけ詳しそうだったに魔法使いではなかったとは。
「他の異能力使いなのか?あ、だから魔力供給が出来ないのか。いや、でも他の異能力者でも魔力を得るって……」
しかしセーレはもう一度首を振る。
「違うんだ。そもそもわたしは大気からの魔力を得ることが出来ないんだよ」
「――え?」
魔力を、外得ることが出来ない?それって非能力者じゃ……
「一応言っておくけど、非能力者でもない」
考えていたことが先回りされた。そして自信満々に胸を張って、セーレはこう答えたのだ。
「わたしは異能の力、特に魔法に関してはかなりの知識を持つ、偉大なる魔術師なんだよ」
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