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笑顔の裏に

 次の日、俺はグレモリーさんの家へやってきた。


 仕事内容と出勤日を聞いてなかったので、もう一度彼女の家に行くことを決めたのである。


 当たり前のように何故か目的地までの道を覚えていたが、家がぼやけて見えるなんてことはなかった。


 一体何をするのか考えただけでも恐ろしいが、覚悟を決めて扉を開けた。


 昨日と同じで家に合っていない広さに恐怖を覚えるが、部屋の奥へと進む。


 この家の主人は椅子に座って何かの書類を読んでいた。


 ……相変わらず綺麗な人だ。


 昨日のはあまりにおかしくなっていたが、その姿に見惚れるなんてことも普通にあり得ると思ってしまう。


 何より机に乗ってるたわわな胸がよくない感情が湧き上がってくる。


「……ん?やあ、おはようメタスタシス君」


 俺が来たのを今気づいたのか、彼女は手をこちらに振って挨拶してくる。


「おはようございますグレモリーさん。あ、すみませんノックもせずに入ってしまって」


「いや、構わないよ。君が来ることは知っていたから、いつでも家に入れるようにしていたし」


「……あの、なんで今日俺が来ること知ってたんですか?」


「この家にかけてある術式に君のことを登録したからだよ。君がこの家行くと思ったなら、その思考に反応して知らせてくれるんだ」


「……つまり、俺の頭の中覗いてるってことですか」


「そこまでじゃないさ。この家に来ようとする意思に限定しているだけで、考えている事を読むなんて高度な領域じゃあない」


 ……あまりの事に言葉が出ない。


 魔法のことなんてよく分かっていない俺でも、遠距離からのに思考に反応するというのがどれだけのことかは理解できる。


 なんせシャロム先生がよく、『おまえが授業中何考えてるのか知りたくてしょうがない』と本気で言ってくる(脅してくる)のだから。


 あのシャロム先生ですら出来ないことを、この人はできるというのだろうか?


「それで、何か用があるんじゃないの?」


 そんなことを知ってか知らずか、声をかけてくるグレモリーさん。


 さっきの内容を深掘りするのは後回しにして、俺は今日来たことを伝えることにした。


「……えっと、仕事内容とか詳しいことを聞きに来たんです。昨日はすぐに帰ってしまって」


「あ、そういえばそうだったね。ごめんね、人が来るなんて思ってもみなかったから、こっちが仕事のこと忘れてたよ」


 え、そんなに誰か来るなんて思ってなかったの?確かにポスター(あれ)怪しいかったけど……もしかして俺すげぇ馬鹿?


「仕事の内容だけど、基本的にはわたしの話し相手になってもらうだけでいいよ。給料はあの紙に書いてある通りでその月最後の日に手渡し。出勤日はいつでも。だけど月の出勤数が十日未満だったらよっぽどの理由でもない限りクビね。来る時間は何時でもいいけど夕方六時までには帰ってね」


 ペラペラと細かいことを言ってくる。というか、いつでも来ていいのに給料は変わらないってすごくね?


「家から何か持って来てもいいよ。食べ物とか飲み物とか、本とかなんでも。流石に分かってるかも知れないけど、家を荒らすようなのはダメだよ。あ、入っちゃいけない部屋とかは無い。玄関から見て右がキッチンで左がトイレとお風呂。どれも自由に使っていいよ。このぐらいかな、何か質問ある?」


「――いや、まだ特には」


 うん、なんとなく分かった。曖昧だけど。


 この後何か聞くかも知れないが、今のところ説明で気になることは……あ。


「俺がやる仕事はわかりましたけど、手伝いってなんですか?」


 ポスターには仕事の手伝いと書いてあったが、話相手が俺の仕事ならグレモリーさんの仕事の手伝いはどういうことなんだろう。


 すると彼女は数度瞬きして、あぁと零した。


「確かにそんなことも書いたね。うん、それは何も考えてなかった」


「えぇ……」


 さっきから募集するだけしてあまり考えてなくない?大丈夫かこの人?


 腕組んでうーんと唸っている。そうしている姿は綺麗というより可愛いく感じる。


「じゃあ、わたしの気が向いたらってことで」


「えぇ……(二度目)」


 すげぇ適当、いいのかそれで。


「ごめんだけど、わたしの仕事はおいそれと他人に教えることは出来ないんだ。でも仕事に深く関わらない調べ物とか、簡単なことは君に任せるかも」


 人に言えない仕事なんてやってるのかこの人。場所も相まってますますここに居ていいか不安になる。


 しかしここよりもいいバイト場所なんて俺は知らない。最低でも十日ちょっと来れば三十万貰えるんだ。


 金の魅力で心の中の不安を打ち消して、彼女の方に手を差し出した。


「じゃあ、これからよろしくお願いします。グレモリーさん」


「うん。よろしく」


 ニコリと彼女は微笑みながらそう言って握手を……してくれなかった。

 

 こうして彼女の下での仕事が始まった。仕事と言っても話し相手になるだけだからこれが労働に値するのか微妙な気がする。


 朝での挨拶のあと、彼女は机の上に散乱してる大量の書類に目を通しながら俺に話しかけてきた。


 好きな食べ物とか休日の過ごし方だとか、犬派か猫派か鳥派とかなんとか。向こうの質問にこっちが答えるのを繰り返して、今度は俺が質問する側に回ったりとただ話すだけだった。


「夏は暑くて困るんだよね。寒いときは服を着こめばいいんだけど、暑いと脱いだところでどうにもならないのが嫌なんだよ」

「それ、分かります。俺も夏より冬派ですよ。でも夏に海とかプールに行くのは結構好きですね。キャンプとか行ってバーベキューとかするのも楽しいですし。そういえば夏の方がイベントとかが多いと感じるのは気のせいですかね?」

「うーん。どうだろう?わたしはそんなにイベント(そういうの)に興味持ってないからなぁ。あ、でもそうか。君にとっては夏の方がいいことあるもんね」

「なんでですか?」

「だって暑いと露出の高い服着た女性がいっぱい増えるじゃないか」

「……俺、そんなに歩いてて、見ず知らずの女性をジロジロ見てませんよ」

「え……?噓?君ぐらいの年頃の子って夏にそれが一番楽しみじゃないの?」

「違いますよ!!いや、でも完全には否定できないというか……!」


 しかしグレモリーさんは俺の話に頷いたり笑ったり、時々冗談を交えながら喋ってくれて、俺も気楽に会話することができた。


 ふと時間を気にして確認すると思わず、こんな時間だと呟いてしまった。

 

 夕方五時。


 六時までには帰れと言われていたのを思い出し、俺は椅子から立ち上がった


「すみません、もうこんな時間なので帰ります」


「あぁ、いいよ。お疲れ様です。気を付けてね」


 彼女は俺に手を振りながら、明日も来てねと言う。


 その言葉に思わず笑顔になってしまい、外に出て帰路に着く。


 正直初日でかなり打ち解けあったと思う。こんなに楽しかったと感じるのは久々かもしれない。


 最初はどうなることかと思ったが、これが続くのなら問題はない。


 グレモリーさんは毎日は来なくてもいいと言っていたが、むしろ毎日行きたいぐらいだ。


 春休み、勉強や金銭不足に絶望していたが、大きな楽しみも出来た。どうせ暇だし明日もあそこに行こうかな。


 そう思うと自然と口元が緩んでしまい、少しの時間で随分気に入ったんだなと我ながら呆れてしまった。




 







 その人物は外に出る彼を見送ると、椅子の背もたれに寄りかかり大きく息を吐いた。


「……警戒していたけど、あの様子だと害はないかな」


 目を閉じながらそう呟いたセーレ・グレモリーは、先ほどのまでの楽しげに会話していた顔ではなく、なんの表情もない無機質な顔だった。


 おもむろに左手を天井に伸ばすと一瞬腕が光る。すると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 現れた武器達はさっきまでカエデス・メタスタシスが座っていた椅子を貫通し、床に深く突き刺さった。


 数にして十本。


「あぁ……威力を落とすのを忘れてた。やっぱり疲れが溜まってるのかな~」


 伸ばした左腕に右腕を寄せると指を絡め、そのまま大きく背伸びをする。


 グッグッと腕を伸ばし、息を吐いて腕を下げると右手でパチンと指を鳴らした。


 すると突き刺さっていた武器が持ち手の部分から光だし、そのまま消えていった。


()()()()()的に怪しかったけど、あの様子だと()()()()()()とは関係ないのかな?」


 セーレは()()()()()でこの町に来ており、自分の下に訪れたカエデスの事を怪しんで警戒していた。


 しかし、その警戒も時間が経つにつれて彼がその理由と無関係だと感じ薄まっていった。元々そこまで本気でもなかった。セーレが本気で警戒していたのなら、武器(こんなの)は生易しいというものですらない。


「でも、彼でもないなら一体なんだろう?原因の人物はわたしに対してまだ行動を何も起こしてない。気付いていないのか……もしかしてホントに対策なんてしてないのかな?」


 誰に聞かせるわけもなくそう呟いたが、まだ解らないかと判断して椅子に大きく寄りかかる。


 そしてもう一度彼が座っていた椅子を眺める。


(それにしても、彼は彼で変わった人だね。楽しそうに喋っていたけどわたしをいつでも()()()()()()()()()()()()()。多分、最初出会った時の経験からかな)


 微笑みながら椅子を見つめてると、ベキべキと音を立てて傷ついた床と椅子の空間が歪みだす。


(面白いのがそれが無意識ってこと。彼自身は気付いてないだけで、心の底では人を傷つけることに躊躇いを持ってない)


 セーレはカエデスとの会話中にしていた笑顔……よりも更に蠱惑的に笑い……


「あまり気が進まなかったけど、愉快な人を見つけたなぁ」


 これ以上ない冷たい声で呟くと、椅子から立ち上がり、シャワーを浴びようと浴槽に向かった。


 部屋は、傷ついた物など最初からなかったかのように元に戻っていた。

お読みいただき、本当にありがとうございます。

面白い、続きが気になると思っていただけた方は、⇩の☆☆☆☆☆(面白かったかつまらなかったか、正直な気持ちで大丈夫です)、感想、評価、ブックマーク等、応援よろしくお願いいたします。

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