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バイト

 この魔法の転送方法は対象を別の空間に飛ばし、設定した魔法陣が書かれている現実空間に繋げ、対象をその場所に持ってくるというものらしい。転送の時間は場所によって差があり、俺の町から学校の街までだと十秒ちょっとで着く。


 転送中は透明な丸いガラスのような中にいて、辺り一面は水色の何もない空間。綺麗な海の中にいるように感じる。


 最初の頃はえらく感動したものだが、もう慣れてしまった為か今は何も感じない。


 しばらくしていると周りが光りだし始め、気づいた時には指定した駅の魔法陣に突っ立っていた。いきなり目の前の景色が変わるのはある意味ホラーだ。


 駅の外に出ると見渡す限り田んぼしかない。


 ここが俺が住んでる町、『ゲリュオン』だ。


 神代という五千年以上前の時代にいた龍の名から取られているらしいが、名前の由来はどうでもいい。


 かなりの先進国であるはずの我が国だが、他の街と比べてここは特に何もない。強いて言えば、町の北側にある霊園と中心にある商店街ぐらいだろう。


 良く言えば地方都市、悪く言えば辺境の町、そんな場所だった。


 町と言ったが、規模的には村とそう変わらない気もするが、領主が町だと言うのだから町なんだろう。


 都市部はテーマパークや大型ショッピングモールとかあるのに、なんて差だ。初めて『ファブニール』に来た時は驚いたものだ、なんか俺のところと違くね?と。


「……でも、向こうは向こうで色々と住みにくいらしいな」


 学校でよくシャロム先生と雑談をしながら昼食をとっているのだが、その時に先生はこんなことを言っていた。


 曰く、


『多く人が集まるから、色々な意味で暑苦しい。観光スポット周辺は歩くのも困難だ。それにとにかく建物を建てるから外にいても狭く感じるし、建築のために環境破壊しまくってるせいで自然保護団体からのデモが日夜町中で行われてる。やるのはいいが過激なんだよあの連中。民家の窓ガラス割ったりするとか意味が分からない。というか、全体的に見ればまだまだ森だらけだろうが!それとデモと言えば人権団体だな。最近は()()()()()()()()()()()()だのの差別をやめろなんてのを()()の前でやってやがる。それは一部の人間だけだろう……!しかも警備隊や()()()での男女格差が………』


 ……思い返すと雑談というより愚痴聞いてるだけだな。


 でも、確かに学校方面は人が大勢いる。それに裏路地で喧嘩してる人をたまに見かけるし、ヘルフェンの話もある。


 まあ、とにかく都会だから良い、なんてことではないんだろう。それにしてもこっちもなんとかして欲しいが。


 駅から十五分ぐらい歩いていると自宅が見えた。


 中は狭くてトイレとシャワーが外に出ないと使えない、かれこれ五年は住んでいる我が家だ。


 もっといい家に住んでいたかったが文句を言ってもしょうがない。


 鍵をドアノブに差し込み、ドアが薄青く光ったのを見て鍵を回しドアを開ける。


「ただいまー」


 当然、返事は返ってこない。


 靴を脱いでそのまま居間へ行き、鞄を床に投げ捨てベットに倒れ込む。


 たかが半日の授業なのに、どうしてこうも疲れるんだろうか。


 ……いや、原因はシャロム先生との会話だな。あの人に変なこと言うと殺されるんじゃないかってぐらい睨まれる。かと言って顔色伺って話すと、それはそれでぶち殺されるんじゃないかってぐらい睨まれる。どうすりゃいいんだ。


 しばらくベット上でうつ伏せになっていたが、行動に出ようと体を起こす。


 俺にはやらなければならないことがあるのだ。


 それは勉強だ。


 シャロム先生とも話したが、正直実技は諦めているが筆記の方はどうにかしなきゃいけない。


 鞄の中から参考書とノートを取り出して机に置く。


「まずは歴史だ。現代経済とか政治とかよく分からないし、数学は論外だし、体の仕組みとか意味不明だ。一月半もあるんだ、マシなやつを先にやろう」


 自分にそう言い聞かせながらペンを持つ。


 大きく深呼吸をし参考書を勢いよく開いた。


 これから俺と勉強との戦いが、今まさに、始まろうとしていた。




 


 


 


 


 

 

 

 




「……………………ん?」


 気づいた時、俺はベットの上でうつ伏せになっていた。


「へ?あ?……え?」


 戸惑いながら時間を確認すると現在夜の八時。


(な、なんだ?なんでそんなに経っている?というか、なぜベットにいるんだ俺は?)


 ベットから降りて机に広がっているノートを見ると、参考書の内容が書いてあった。


 三行ぐらい。


 ……三行?え、三行!?


 バカな、なぜそれだけしか書いていない!?しかも最後の方明らかに文章が途中だし。


 まるでタイムスリップでもしたかのようだが、頭を回転させて数時間前何があったか思い出す。


「……そうだ、急になんか狭いなと思ったから周りの物片づけて、それやったら眠くなってきたからベットでちょっと仮眠しようとして……」


 それで五時間ぐらい経った。


「…………」


 いや、明らかに勉強やりたく無くなっただけだよね。部屋の掃除なんて普段やらないし。


 そういえば毎回勉強しようと思っても、実際一時間もやったことなかったな。


 それに、ああそれに、部屋見て一番に思ったんだが。


「片づけたって?こんなんただ物詰め込んだだけじゃねえか!!!」


 本だの服だのがぐちゃぐちゃに入っている棚を見ながら、過去の自分を呪うように一人叫んだ。


 ……結局、勉強との戦いは数分も経たずに、俺が惨敗したらしい。こんなんだからシャロム先生が家に来るなんてこと言うんだ。


 しばらくベットの上でのたうち回っていたが、ぐう~と腹から音が出た。自分の駄目さ加減に呆れていたが、こんな時でも腹は減る。


「……夕飯、食べるか」


 ダラダラと立ち上がって台所に行き、食料が入っている魔法具の箱を開ける。


 中身は食パン二枚。


 ……二枚?え、二枚だけ?


 噓だろ……もっと入ってるもんだと思っていた。


 仕方ない、こうなったらなにか買いに行くか。おっちゃんの店はもう閉まってるから、商店街の方にでも久しぶりに行こう。


 居間に戻り部屋の奥に置かれている金庫を手に取る。ここに俺の数少ない貯金が入っている。


 金庫に付いてる数字から、四桁の番号を打つと、カチっと音が鳴って金庫が開いた。


 銀色のコインが、一枚だけ。


 ……このコインは一枚で五百ゼニ―する五百コインだ。


 つまり、俺の貯金は、五百ゼニーだけ。


 …………うん。なんか、そんな気はしてた。


 してたけど……さぁ。


「……………………」


 その後、節約のため買いに行くのは止めて、シャワーを浴びて眠りについた。


 空腹に耐えながら寝に入るには、中々苦労した。













 劇場があった。


 中心には演奏者達のための演奏台があり、それを取り囲むように観客席が置かれている、広々とした音楽劇場だった。


 かつてはここで盛大に楽器を鳴らし、音を奏で、観る者を魅了する演奏があったのだろうが、それも今は見る影もない。


 もう随分と使われていないのか、座席は埃かぶっていて、いくつかはボロボロに廃れていて座ることすら出来なくなっていた。


 誰にも忘れられた劇場。


 だがその演奏台に、二人の男がいた。


「……おい、約束したはずだよな、オマエ?」


 一人は見た目二十代の年若い男で、髪は手入れなど全くしていないのがわかるほどボサボサになっていて、古くなったヨレヨレのシャツを着ていた。顔の造形はそこまで悪いというわけではないがどこか荒んでいて、奴隷市場から出てきたようなみすぼらしい風貌だった。


 青年はもう一人の男に詰め寄っていた、その顔には焦りと苛立ちにより怒気が表れていたが、相手の男は気にも止めない。


 もう一人は、着物を羽織っている男だった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、一般的な男性の長さだったが、前髪だけは目元を隠すほど長かった。


 そしてガタイが良い。背は高く、袖から出ている手を見れば、男がいかに筋肉質かは一目瞭然だった。


 ()()()()()()()、外見だけを見れば若者と年寄りの中間に位置するであろう年齢。


 しかし、この男はまるで何百年も生きたかのような雰囲気を纏っていた。


 対面すれば相手に威圧感を感じさせるほどの男は、人によっては、それこそ伝説上の仙人と呼ばれる者達と間違えるだろう。


 男は口を開く。


「そうだ。()()()()()()()()()は、貴様と確約した。貴様の言った通りのことを、言った通りにした。だというのに何故(いか)る?」


「言った通りにした?は?は?は?………何言ってんだ………何言ってんだよテメェ!!!一度も、い、ち、ど、も!!あんなことしろなんて言ってねぇだろ、バカか!?」


 青年は怒り狂って男に掴みかかる。


 男の不気味な威圧感にひるまないのは、青年がそんなもの感じるほど心がの機微がなく、そこまでのことを感じる余裕がないからだ。


「内容に相違はない。貴様は()()と言っただけだ、その結果が()()だっただけだ。それに気が早い。()()()()()()()()()


「違うチガウちがう!!!ボクは、ボォクはぁぁあああ!あ、あんな、あんなゴミ箱にいるような連中の手によるものじゃない!!!!もっと、もっとねぇぇえええ!!相応しい罰を()()()に与えるべきだったんだよ!?」


 青年は男の胸ぐらを掴みながら絶叫するが、男の表情に変化はない。判決を言い渡す裁判官のように淡々と自分のしたことを説明している。


「その条件は存在しなかった。貴様が思い描いたことを実現させたかったのなら、細部にまで言及するべきだったな。この個体である自分は貴様のやることに興味はない。何をしたいかすら自分でも定まっていない者の思考などに、配慮などするはずもないだろう」


 無感情にそう言い放つ男に、青年は我慢の限界とばかりに手に力を込める。


 青年の両腕が赤く光だす。そして何かを言おうと口を開いた瞬間、男が言葉を続けた。


「だが、理想と違うからと放棄するには早すぎる」


 青年の動きが止まる。


「………………あ?」


「諦めるべきではないと言っている。確かにあの者達によって()は狂うだろう。しかし人間は狂うだけで簡単に壊れはしない。それならば、あの者達に貴様の限界まであの娘を蹂躙させ、頃合いを見て貴様が最後の止めを刺せばいい」


 男の言葉に、青年は時が止まったように動かなかった。


「そうすれば、罰とやらにもなる。尊厳も何もかも無くしたあの女にすべてをさらけ出し、貴様の絶望とやらを叩きつければ、娘を貴様の手で壊すことができる。あの者達に関しては簡単だ。奴らや貴様にも、この個体である自分の力の影響があるが、貴様の方がより殺人に特化しているだろう。殺すことなど造作もない」


 青年は瞬きすらしないまま男の話を聴き終えると、乱雑に手を放し、ふらつく足取りで出口へ歩き出した。


「そ、そうだよね、そうだよな?ボクが殺せばいいんだよ。その後であいつをボクのものにすればいいんだ。ア、アハハハハ!そうだったんだよ!最初からボクがやったんじゃあいつもつまらないだろうしぃ!?辛抱だ、もう少しの辛抱だ。え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そしたら……オハ!!そしたらボクが()()させて……」


 ブツブツと呟きながら青年が闇に消える。


 男はそれを確認すると、まだ廃れてない座席に座り込み、目をつぶった。


「約束と違う、か。やはり壊れた人間ほど、適当に言いくるめられるのだな」


 そして、その髪の奥にある瞼を開く。


「……どの道変わらない、貴様が条件を付け足していたところで。この個体である自分のやり方は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 演奏台の中央に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そう呟いた。

 







 


 

 

「まずいぞ、ホントにこれはまずい」


 春休みに突入して三日が経ったが、こんなにも早くピンチになるなんて思ってもみなかった。


 現在、ピンチは二つある。


 一つは勉強である。


 三日前のあれから勉強なんてのは何一つやっていない。やろうとはしたのだが、本読んだり寝てたりでペンすら手に持っていなかった。


 あんなに頑張るなんて言ってたのに、これじゃあ話にもならない。


 どんなにポンコツな成績を取っても二年生には上がれる一年の頃とは違い、二年になれば完全に進級の危機に陥る。もしも留年や停学、退学なんてことになれば、シャロム先生にマジで殺される。


 そして二つ目は金銭不足だった。


 いやホントに金がない。節約だなんだ言ってたのに、銅色の百コインが二枚しかない。このままだと飢え死にしてしまう。


 叔母からの援助は今月末な為、この二枚で三週間以上生きていくのは無理だ。前借りなんてできないだろうし、言っても高笑いと暴言が飛んでくるだけだ。


「クソ!完全に詰んでやがる、どうすればいいんだ……」


 ……こうなったら他の街の、金を貸してくれる金融機関へ行しかない。


 正直、人としてどうかと自分でも思うが、人間追い詰められたら何でもやるの精神で誤魔化そう。


 そう自分に言い聞かせながら、着替えを終えて玄関に向かう。


「だがいくら借りよう?流石に多すぎると俺が返せないし、かと言って少なすぎると今度は………………」


 ブツブツ言いながら外に出て鍵を閉めようとすると、扉の前に何かが落ちていた。


「なんだこれ、ポスターか何かか?」


 街で見かける政治家の顔写真が写っているポスター並みのサイズの紙だった。


 特に何も思わず紙を拾い上げ、特に何も考えず一瞥する。


 本来ならそのまますぐに捨てるはずだったが、俺はそこに書かれた内容を見て固まった。


 そこには……


『初心者大募集!!!すこ~し仕事を手伝うだけで月給三十万!し・か・も!!何の資格ナシでも大歓迎!!!!是非!裏の場所マデ!!!』


 と、そんな文字がデカデカと書いてあり、裏には『西側の森マデ』。


 俺は、これを見て啞然とした。


 当然だろう?だってこれは。これは!というか……


「これだああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 ……久しぶり大声を出した気がする。

 

 

お読みいただき、本当にありがとうございます。

面白い、続きが気になると思っていただけた方は、⇩の☆☆☆☆☆(面白かったかつまらなかったか、正直な気持ちで大丈夫です)、感想、評価、ブックマーク等、応援よろしくお願いいたします。

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