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明け星学園  作者: 秋野凛花
1-11「セイレーンの歌声が朽ちる時」
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舞い降りた赤い悪魔

 ──


 しばらく聖は、1人で歩いた。ぺた、ぺた。平坦な音が響く。やがて人気の少ないエリアまでやってくる。ここらでは、異能力検査をしている教室がない。つまり、ここに近寄る生徒はいないのだ。

 やがて聖は足を止め、辺りをきょろきょろ見渡す。まるで、誰かを探しているようだった。──そんな聖を嘲笑うかのように舞い降りた人間が、1人。



「──やぁ、聖さん。瀬尾せおさんでも探しているのかな?」



 その声の正体は、この明け星学園の生徒会長……小鳥遊たかなし言葉ことはだった。サイズの大きなパーカーを翻し、不敵に微笑んでいる。

 突如目の前に降りてきた彼女の姿に、聖は大きく目を見開いた。悲鳴を飲み込むように、薄い唇を小さく震わせる。……しかし。


 すぐにその瞳はキリッとし、唇の線もすぐに、真っ直ぐに結ばれた。

 そんな予想外の聖の様子を見て、言葉は一瞬気圧されたような表情を浮かべる。しかし、すぐにどういうことなのか悟った。


「……いや、違うか。……僕が付けていることに気づいて、僕が出てくるのを、待っていたんだね」

「……」


 言葉の冷静な指摘に、聖はゆっくりと頷く。……そう、聖は気が付いていたのだ。灯子と話していた時から、ずっと。……あの氷のような、冷酷な彼女の視線に。

 はあ、と言葉はため息を吐き、後頭部を乱暴に搔きむしる。お陰でダークブラウンにピンク色のメッシュの入った彼女の豊かな髪は、あっという間にぐしゃぐしゃだ。


「他の人の思惑通りになるなんて、癪だなぁ。……まあいいや。瀬尾さんを介さないことを君が選んだのなら、都合がいい」


 言葉が前へと足を踏み出す。そんな彼女の様子に、聖は分かりやすく身構えた。小鳥遊言葉が、この生徒会長が何をするのか、聖には測りかねていた。……少なくとも、良く思われていないことは確かである。何故なら聖は、彼女の大切な後輩に、手を出したのだから。……体育祭の時、その怒りを、一身に受けた。

 聖は無意識に、自分の喉に意識を向ける。……いざとなれば、この異能を使うしかない。異能力を使ってはいけない──その規制を破ってでも。


 大切なものを。

 守らなければいけないから。



「ねぇ」



 しかし、そんな戦意も決意も、一瞬で押し流される。



 小鳥遊言葉が、聖の喉に、その指を添えていた。



「……!」

()()()()()()()()?」


 ゾッ!! と、聖の背筋が震える。言葉の声が、鼓膜を揺らす。そしてそのまま、聖の体の自由を奪っていく。

 動かせない。指1本すら。……それどころか、呼吸すらままならない。ドッ、ドッ、と、心臓の音が耳元で響き渡り、頬に冷や汗が流れたところで。


「……」


 言葉が聖の喉から、添えていた指をそっと外した。


 瞬間、聖は軽く咳込んで、その場に崩れ落ちる。そして、呼吸が苦しくなったことにより生じた涙を浮かべながら、聖は言葉を見上げる。……言葉は冷ややかな瞳で、聖を見下ろしていた。


「……弱いねぇ」


 強すぎる。


 聖は、反射的にそう思う。姿が、見えなかった。自分が、少しだけ異能力を使おうと思った。……その瞬間にはもう、言葉の姿は、聖の前から消えていた。次の瞬間には、いつでも聖の(異能力)を奪える立場にいた。


 これが、生徒会長。


「……僕は、戦いに来たんじゃないんだよ。前まではそのつもりだったんだけどね。……怒られるのは、面倒だから……」


 か細い声で告げ、言葉は静かに目を逸らす。その発言に聖が首を傾げると同時、言葉の視線が聖の方に戻った。


「君に、聞きたいことがある。それを聞きに来た」

「……」

瀬尾せお風澄かすみについて」

「……!」


 飛び出してきた幼馴染の名に、聖は目を見開いた。……そんな聖の反応を見ながら、言葉は心中、冷静に分析をする。

 今までは聞きたいことと言うと、聖偲歌のことだった。しかし今回は、瀬尾風澄のこと。この変化に対し、聖はどのような反応をするか……。

 無言で聖の表情を窺っていた言葉は。


 今まで見た中で一番悲しそうな、そんな表情を浮かべた聖を見て、瞠目する。


(……? これは、どういう表情……)


 考え始めたところで、聖がゆらりと動く。立ち上がったのだ。聖は言葉より背が高いため、こう至近距離だと、見下ろされる形になる。()()()()()()()()()()()()()()、言葉は反射的に舌打ちをした。一歩身を引き、聖からもう異能力を使う気がないことを、機微に感じ取る。そのまま踵を返し、ゆっくり歩き出した。


「……ついて来て。場所を変えよう」


 言葉はそれだけを言うと、もう聖の方を見ない。聖はしばらく彼女の背中を見つめ……やがて、その姿を追って、歩き出した。

 ()()()()()()()()()()()()()、大好きな幼馴染の笑みを、脳裏に浮かべながら。


 ──

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