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明け星学園  作者: 秋野凛花
1-11「セイレーンの歌声が朽ちる時」
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不思議な人

 しばらく見つめ合う。その聖先輩の瞳は、揺れていた。静かに。……ここで私をどうするか、決めあぐねているらしい。この人の平穏を脅かすかもしれない私を、生かすか、否か。


 ……だから私から、その見つめ合いを止めた。目を伏せ、次に開いた時、努めて微笑む。きっと、不自然なものだろうけど。


「……安心してください。今日どうこうしようというつもりはありません。……休暇を貰っているんです。なので今日は、事件のためには動きません」


 私のその発言に、露骨に聖先輩の体から力が抜け、楽になった。そうさせることが出来たことに、安堵する。緊張されたり警戒されると、何と言うか、少し……困る。


「……テストはどうでしたか?」


 世間話も兼ねて聞くと、聖先輩は指で何かを作った。丸だった。……ばっちり、ということなのだろうか。


「……聖先輩って、頭いいんですか?」


 その問いかけには、聖先輩は少し停止し、首を横に振る。……そうなのか、意外だ。でも今回はばっちり……となると……。


「……勉強、頑張ったんですね」


 その時、ぱぁっ!! と、露骨に聖先輩の表情が輝いた。そして勢い良く、ブンブンと頷く。激しい肯定だ。なるほど……ものすごく頑張ったし、それを認めてもらえて嬉しい、といったところか。

 そこまで考えたところで、手を差し出された。首を傾げ、しばらく考える。この状況で、握手、ということは無いだろう。私に向けて、差し出された手……。


「……私のテストの所感を、尋ねてます……?」

「……!」


 またもや激しく頷かれた。あっていたようでホッとする。そうですね、と呟き、考えてから、私は口を開いた。


「……補修は絶対避けたかったので、頑張りました。1年生ですから、大して難しくもなかったと思いますし……。上位に食い込む点数は、しっかり取れているかと」


 ここで元無能力者だからと言って、勉強が出来ませんは通用しない。異能力に関するペーパーテストも、きちんと対策をして臨んだ。「異能力基礎Ⅰ」は、恐らく満点に近い点数が取れているのだろう。というかこれは予想に過ぎないのだが、あれは誰でも満点に近い点数を取れるものだ。なのに何故持木くんは単位を取り損ねたのだろう……。


 そんな思考に意識を飛ばしていたところ、ふと、私の頭に手が乗せられた。顔を上げると、聖先輩が優しい表情で……私の頭を、ゆっくりと撫でる。

 ……褒めてくれて……いるのだろうか。


「……ありがとうございます」


 自然と口から、お礼が飛び出る。不思議とこの人といる時間は、落ち着く。まあ大方、うるさくないからだろう。それに、この人は何だか、話したい、と思わせる魅力のようなものがある。……聖先輩は、不思議な人だ。

 聖先輩は微笑み、ただ小さく、頷いた。そして私の頭から手を離すと、もう一度、微笑む。……同じ微笑みでも、違いというのは出せるものなのだな、と感じた。


 先程は、こちらに安心感を与えてくれる笑み。今は……少し寂しそうな、笑み。

 恐らく、もう行かなければいけないのだろう。


「……夏休み、ゆっくり過ごしてくださいね」

「……」


 君もね。


 声も出ていないし、口も全く動いていない。だが、そう言われているのが分かった。聖先輩は私に手を振る。対して私は、軽く頭を下げた。

 そしてそのまま、聖先輩は去って行く。顔を上げた私は、その背中を……黙ってジッと、見つめる。


「……帰ろう」


 誰に言うまでもなく私は、踵を返して歩き出す。誰かと話した後は、何だか少しだけ、胸に隙間風が通っているみたいな……そんな気持ちに、なる。

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