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明け星学園  作者: 秋野凛花
1-11「セイレーンの歌声が朽ちる時」
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真っ直ぐには、真っ直ぐを

 さて、私は測定も終わったことだし帰ってしまおう。いつもなら何だかんだ学校に残ってしまって、事件の調査をするところだが、今日は言葉ちゃんからきちんと「帰ってもいいよぉ」と言われている。いつも事件調査に協力してくれている分、夏休み前なんだしゆっくりしな、とのことだった。普通、夏休み前だからこそ馬車馬のように働かせる、というのが正解なのだと思うのだが。そこは、言葉ちゃんらしい。

 そんなことを考えながら歩き出そうとし、ふと顔を上げると、私の行く先には……。


「──」


 思わず私は、息を呑む。


 私の行く先では、あの先輩が……ひじり偲歌さいか先輩が……微笑み、立っていた。


「……」


 歩くこともないまま、私は聖先輩を見続けてしまった。そして聖先輩も、私を見つめている。不思議な時間が、私と聖先輩の間を流れていく。ゆっくり、しっかりと。


 やがて私は、いつまでもそうしているのが不自然だと気が付いた。だから私は、一度目を伏せ、そのまま聖先輩から目を逸らし、歩き出す。聖先輩は、動かなかった。


 ──聖先輩に会うのは、体育祭の時以来だ。

 あの時、私が聖先輩の異能力にやられ、眠らされて以来。


 歩き続ければ、先に進む。聖先輩の隣までやって来てしまう。当たり前のことだ。隣で足を止め、私は……聖先輩を見ずに、口を開いた。



「久しぶりです。お元気でしたか」



 私のその発言に、聖先輩が驚いたように私を見たのが、視界の片隅に見えた。だから私も、聖先輩の方を見上げる。私の瞳に映るのは、驚いたように目を見開く、聖先輩で。

 私は黙り、聖先輩からのリアクションを待つ。やがて聖先輩も、私の問いかけを思い出したのだろう。両手をガッツポーズでもするみたいに握りしめ、勢いよく何度も頷いた。……元気だということを、アピールしてくれているらしい。それを見て、私は思わず小さく、笑ってしまった。


「……なら、良かったです」


 安心しました。そう言うと、聖先輩の眉がひそめられる。相手の言いたいことが、何故だか分かった気がした。だから私も、同じようにガッツポーズを作る。右手は記録用紙で塞がっているから、左手でしか出来ないけれど。


「……私も、元気です。この通り」


 それでも依然として、聖先輩は心配をするように眉をひそめていた。もう一度、大丈夫です。と念を押すと、ようやく安心してくれたようだ。その表情が、柔らかくなる。

 ……気にしていたのだろう。私に、異能力を使ってしまったことを。

 ……問題は、私がそれを全然気にしていないところだと思うが。

 本来なら、言葉ちゃんのように怒るのが正解なのだろう。だが私には、そのような怒りが全くと言っていいほど沸き上がることは無かった。


「……私は、気にしていません。安心してください」


 そんなことを言うと、この人の性格的に、もっと気にしてしまうのではないか。そうは思いつつも、どうしても伝えておかないわけにはいかなかった。その事実を、私はきちんと言葉にしないといけない。

 まず言葉にしないと、伝わらないから。


 案の定聖先輩は、小さく首を横に振った。君は怒るべきだ。そう言っているのだろう。でも私は、首を横に振った。私は……。



 大切な人を、ボクに守らせてください。



 眠る直前に聞こえたあの言葉が、聖先輩の全てだと、思っている。

 私は、聖先輩の大切なものを大切にしたい……何故だか、そう思ったから。


「……貴方には、大切なものがあるのでしょう。それを守るために私たちを攻撃するのは、当然の反応です」

「……」

「……でも私にも、やるべきことがあります」


 この人の大切なものを、大切にしたい。それはそうだ。

 でも。


「貴方の大切なものを守るためにも、私は、事件の解決を優先します。だから……私と聖先輩は、対立すると思います」

「……」

「次は、負けません」


 そのために私が出来ることは、聖先輩と対立するに他、無い。

 嫌われるかもしれない。もう二度と、こんな風に、友好的に近づいてもらえないかもしれない。でも、それでいい。

 真っ直ぐなこの人の前では、私も真っ直ぐでいたいと思った。

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