初テストの所感
「伊勢美灯子。点数、4.2」
全く感情の籠っていない声を聞き、私はふぅ、と息を吐き出した。そして測定をしてくれた先生に対し、ありがとうございました、と丁寧に頭を下げる。そこで先生は初めて、いえいえ、と言って笑った。
記録用紙を受け取り、私はその場から移動する。ここは次、別の生徒の異能の測定に用いるのだろう。私がいつまでもいるのは邪魔だ。
──7月。夏休み直前。
異能力者のために作られたこの高校、明け星学園では、前期末テストが行われていた。
私は異能力の測定をしてもらった。ここの生徒は4月時点で1度、同じような測定を受けている。その結果と3ヵ月経った今を比べ、どれほど異能力が成長しているかを調べるのだ。
だが私は5月に転校してきた身。実質今回が初めての測定となる。
異能力の測定で行ったことは、主に2つ。物を消す。そして生み出す。以上。
当たり前だ。私の異能力は2つある。1つは消滅。「A→Z」……手で触れた物を消す能力。もう1つは生成。「Z→A」……手から物を生み出す能力。この力がどれほどのものか。それを今回測定した。
まずは小さなもの、それを消しては元通りに出現させる。そしてどんどん大きさを上げていき、どの大きさまで出来るか、どれほど連続で使用できるか……そんなことを記録していく。
結論から言うと、消滅と生成を行って1、とカウントすると、回数にして52。私が最後に消したのは分厚い広辞苑。そして、ページの半分しか出すことが出来なかった。それ以上は疲労が激しく、何より気分が悪かった。52回というか、半分しか出せていないから、この場合は51.5回と言うべきか。
無理矢理続けることも出来たが、そうする前に先生からのストップがかかった。……テストの前に、何やらリストバンドのようなものを貰ったが、それがそこで役に立ったらしい。それでは脈拍や心拍数など、そのようなものがリアルタイムで測定されるのだと。もしその数値に異常があれば、即座に報告されるシステムだ。
異能力には、代償が付く。異能力が強ければ強いほど、その代償は大きくなる。……その代償というのは、大体が体調不良だ。眩暈や吐き気、気絶や感覚喪失、などなど。時には命に関わるものも多い。……こうして代償すら管理をすることで、生徒たちが命の危険に晒されるリスクを、あらかじめ避けている、ということだ。
私の異能力の代償は……確か、使いすぎたり大きなものに使いすぎると、私自身も消えてしまう、だったか。私の異能の研究者がそんなことを言っていた気がするが、詳しくは忘れてしまった。大して興味もない。
もちろん私は、こんなところでムキになる必要もないため、やめろと言われた時点でやめた。特に成績にも判定されないのだし。ちなみに半分だけになってしまった広辞苑は、私が少し休んでから完全な状態に戻した。
この時の点数は、5が平均だ。平均というか、他の生徒の場合は前回の測定結果のラインで、私の場合は期待値。そこからどれだけ低いか高いかで、成長過程を見るらしい。
私は4.2だったか。……もう少し頑張りましょう、ということだろう。
「灯子ちゃん!」
後ろから声が飛んでくる。振り返ると、そこには私の友人であるココちゃん──持木心音ちゃんが立っていた。その手には、私と同じ記録用紙が握られている。
「初測定、どうだった?」
「そうですね……何度も同じ作業をするので、疲れました」
「あはは、だよねぇ……」
ココちゃんは苦笑いを浮かべた。何気なくココちゃんの記録用紙を見る。それはまだ何の記録も記されておらず、真っ白だった。
「……ココちゃんは、これからですか?」
「うん。一度にどれだけの人の心を読んで、正しく情報を処理出来るか……そういったことを測定するんだ」
「……聖徳太子みたいですね……」
「うん……あたしもそう思わなくもない……」
正直な感想を言うと、ココちゃんからも同意が返ってくる。考えていることは大体一緒らしい。
「ところで……持木くんはどうですか?」
「あー、帆紫? ……一応ペーパーテストは、上手くいったと思うってさ」
「……なら、良かったですね」
「まあ分かんないけどね」
採点されないと、と続けるココちゃん。1、2日目がペーパーテストで、今日が異能力測定日だ。ペーパーテストは昨日で終了した。その採点結果は、1週間後。……そこで赤点となると、夏休みの半分を返上して補修に行かなければならない。誰しも避けたいところだろう。
……私は赤点は絶対取っていないと、胸を張って言える自信はある。夏休みくらい家でゆっくり静かに過ごしたい。学園になんて行こうものなら、あの私のストーカー生徒会長の言葉ちゃんに絡まれ……。
……いや、でも、あの人、すごく頭が良いんだったか……。なら、補修とは無縁だ。でも、無くても来ている気がする。勘だが。あの人は、何と言うべきか……社畜気質があるから。
「ココちゃんはどうでしたか?」
「あたしは……地理が自信ないなぁ……特に最後の……」
「ああ、あれは先生の性根が腐っていると思います。マイナーな名産を突いてきましたからね……」
「腐ってるは言い過ぎだと思うけど、だよね!? あの先生のテスト、難しかった~……」
他にも、数学の計算問題はほとんどワークから出ていただとか、英語単語の意味がどうしても思い出せなかっただとか、そんなペーパーテストの感想を廊下の真ん中で話し連ねる。結構話しているな、なんて思い始めたまさにその時、ピンポンパンポン、と、軽やかな音が校内に響いた。
『──1年の、持木心音さん。持木心音さん。測定予定時間が迫っています。至急、所定位置に移動してください。繰り返します。1年の、持木心音さん──』
「わっ、やっば」
大音量で名前を呼ばれたココちゃんは、大きく肩を震わす。その拍子に手の中の紙がくしゃりと音を立てた。
「ごめん、話しすぎちゃったみたい!! あたし行ってくるね!!」
「いえ、頑張ってください……私の方こそ……」
話に夢中になって、引き留めて、すみません。そう言い終わる前に、彼女は素早く駆けていってしまっていた。……早い……。
まあ、待たせているというなら、私の返答など待たずに行ってしまった方が賢明だろう。謝罪は、また会った時にでもすればいい。どうせ、その機会はいくらでもある。




