純白
一方、心身共にボロボロな瀬尾風澄は、人気のないところを選んで歩いていた。保健室には、向かわない。……それは、今の自分に、そのような施しは不要だと考えたからだ。
今、風紀委員会委員長としてふさわしい行いが出来なかった自分に、そのような施しは、分不相応だ。
……どちらにせよ、今保健室に行っていたら、再び小鳥遊言葉と衝突する可能性があったため、正しい判断ではあるのだが。
しばらく歩いて、彼女はふと足を止める。それは、目の前に人がいる気配を感じ取ってのことだった。その雰囲気は、自分がよく知ったものであり、顔を上げ、それを確信に変える。
「偲歌……」
「……」
目の前の幼馴染は、綺麗で美しい、そんな微笑みを、静かに浮かべるだけだった。その何も語らない笑みに、瀬尾は安堵すると同時に、ほんの少しの不安も覚える。
こんなにも共に過ごしているのに、この幼馴染が今何を思っているか、それを自分は、知らない。
彼女は、聖があの2人──小鳥遊言葉と伊勢美灯子を迷惑に思っていると思い、行動している。聖を守るために、行動している。でも聖は、やたらと伊勢美灯子に接触したがる。どうやら体育祭の時も、接触したらしい。……自分がしていることは、自分勝手なことなのだろうか。いや、そんなはずはない。瀬尾は自分に言い聞かせる。
──偲歌は、生徒会長と接触した際は、私の後ろに隠れるもの。
瀬尾風澄は、聖偲歌を、守らなければならない。
……本当に?
考えれば考えるほど、分からなくなる。今までこんなことなどなかった。1回も、だ。
何故、変わってしまったのだろう。
脳裏に浮かぶのは、転校生の姿。こちらを見つめている。興味がなさそうに、冷めた瞳で。
──そうだ。あの転校生が来てから、少しずつ何かが変わって……。
「!」
そこまで考えたところで、瀬尾の身体を温かさが包んだ。一体何だと、尋ねるまでもない。瀬尾は、抱きしめられていた。そしてその温もりを与えられるのは、今、瀬尾の目の前にいる、聖にしか不可能だ。
思考が現実に戻ってくる。そんな感覚がする。瀬尾は少しだけ惚けてから、再び自省をする。転校生のせいで何かが変わっているなど、そんな不確実な、根拠の欠片もないことを、よくも考えられたものだ。助けてもらったというのに、悪いことをしてしまった。
例えそれが、自分の思考で完結することだとしても。
「……偲歌。私、疲れているみたい」
その背に手を回し、瀬尾は小さく呟く。「風紀委員会委員長である瀬尾風澄」ばかり知る者がこの光景を見れば、三度見は避けられないだろう。
それほど今の瀬尾は、聖に身を預けっぱなしだった。
「今の立場を溝に捨てるような……そんな残忍酷薄なことを、してしまったわ。……いいえ、貴方のためなら、そんなことであったってしてみせる。……でも今回は、やりすぎてしまったわ。こちらが悪い」
瀬尾の独白のような、そんな言葉にも、聖は言葉を返さなかった。ただ、少し悲しそうな表情をしているだけだった。もっともその表情は、瀬尾からは見えないのだが。
その沈黙が、瀬尾には心地の良いものであるようだ。聖の服を掴む手の力を強め、泣き笑いのような表情で、告げる。
「……偲歌、私……間違ってないわよね……?」
本当に至近距離にいないと、聞こえないような、その声に。
聖は目を見開いた。
そしてやはり、何も返さない。声を出すことも、ジェスチャーで返すことも。
貴方らしいわね、と瀬尾は笑った。そしてそれがやはり、心地の良いもので。
……2人はしばらくそのまま、ずっと、抱き合っていた。
お互いしか知らない、潔白のまま。
【第10話 終】
こんにちは、もしくはこんばんは。秋野凛花です。
第10話だ!! 2桁だ!! (無邪気)
──
今回は前回の続き、ということで、案の定バチバチな言葉と風澄のバトルからお送りしました。これ、異能力メインの話なのに、異能力バトル全然なくない……? なんて思っていたので、ここで出せてよかったなんて思ったり……笑
帆紫と閃の名誉挽回だったり、灯子の活躍など、色々ありましたが……何より1番は、言葉の異能力の代償が判明したことですね。
私、弱ってる女の子大好きぃ!! ……ではなく、その弱さを自力で乗り越えている強い女の子。それが言葉です。普段はそうなる前に勝負を終わらせたりするのですが、今回は怒りで我を忘れて、そう出来なかったみたいです。灯子に庇われて、事なきを得ましたが。
──
次の更新は、「キャラクター紹介②補足事項&四字熟語解説」です。言葉の代償の話と、四字熟語の解説です!!
第11話では、テスト編が開始します。テストが行われる明け星学園。その傍ら、事件にも進展が……?
同時に、事件解決編にもなります。遂にだ!! 第1部が終わる!! その後は、第2部、第3部と続くのですが……笑
それではまた、11話でお会いしましょう!!




