生徒会長より怖いもの
「怖がってる気がした」
いつもの調子に戻ってから、言葉ちゃんがふと唐突に、そんなことを言った。何の話か分からず、首を傾げたし、実際に「何の話ですか」とも聞いた。
「瀬尾さんが」
「戦っている時、ってことですか? ……そりゃ、大抵の人間なら、貴方と対峙するだけで恐ろしいと思いますが……」
「ええ、ひっどいなぁ。……まあそうかもしれないけど、そうじゃなくて」
最終的には認めるのか、とは思いつつ、話の先を黙って聞く。言葉ちゃんは神妙な面付きで告げた。
「……僕じゃなくて、もっと先……んん、なんて言えばいいんだろう……。僕じゃない、『何か』を怖がってる……そんな感じがした」
「……」
目の前にいる言葉ちゃんより、もっと「怖いもの」を見据える、瀬尾先輩。
……イメージがしづらい。
「具体的に、何を怖がってるかは」
「分かるわけないでしょ~!? 分かんないからこう、アバウトに言うしかないんだもん!!」
「じゃあ貴方に分からないことが私に分かるわけないでしょう……」
あくまで情報交換、ということか。まあ確かに、情報を共有させておくに越したことは無い。
「……瀬尾さんは、『何か』が怖くて、僕たちと聖さんを接触させようとしない……」
「え?」
「……辻褄が合わなくは、ない。頑なに接触させない理由も、それで出来そうだ。……でもそうなると……」
ブツブツ、言葉ちゃんは何かを呟いている。言わんとすることが分かったため、私はその言葉の先を続けた。
「……その、明け星学園最強と言われている生徒会長、言葉ちゃんよりも『怖い何か』とは、一体何なのか」
「そう。自分で言うのもなんだけど、あの時の僕、すげぇ怖かったと思うよ?」
「……本当に、自分で言わないでくださいよ……」
というか、そんな自分のことを客観的に見る余裕と、自覚があったのなら、とっとと戦闘を止めてほしかった。止めなければいけないこちらの身にもなってほしい。
「そうなると……正面から聞き出すんじゃなくて……アプローチを変えていく必要があるな……」
言葉ちゃんは言葉ちゃんで、1人で何かを呟いている。どうやら調子はすっかり戻ったらしく、1人での思考モードに入ってしまったようだ。その集中力を削いでしまうと、恐らく利益になるということはなさそうだし、加えて話しかける理由もない。だから私は、彼女の思考が終わるまで気長に待つことにした。
カーテンを開けて、窓の外に目をやる。楽しそうに笑う生徒たちが、明け星学園の敷地内を行き交っていて。時に喧嘩もしている。衝突だってしている。しかし最後には笑い合って、互いを健闘して。……。
世界が、遠い、と思った。
恐らく今起きている一連の事件は、この平穏を脅かすものになるかもしれなくて……いや、もうなっているのだろう。2回生じた異能力の暴走、生徒会長と風紀委員長の喧嘩、何か調査に乗り出す私たち……。流石に、何かが起きていると、分かられ始めているのではないか。
そんなことを、思ってしまう。
「ダージリンティーよ」
すると真横から、そんな声が聞こえる。見ると、そこには保健室の先生の姿が。その顔から少しばかり視線を下げると、その白い手の中にはお洒落なティーカップが。差し出されていると分かると、私はおそるおそる、それを受け取った。
「焦らず、ゆっくりと。大丈夫よ」
そしてそれだけを告げ、保健室の先生は同じ色の紅茶をすする。なるほど、今のは紅茶の効力を教えてくれたのか、と思い、私も紅茶を一口、頂いた。……香りも良くて、確かに、落ち着く。
……大丈夫、なのか。
小さく息を吸って、吐く。新鮮な空気を取り込んで、そう言い聞かせた。納得も出来た。
生徒会長の思考タイムが終わったら、3人で女子トークしましょうか、なんて先生が笑ったため、私は、ぜひ、なんて、柄にも無く返してしまった。きっとこの落ち着く紅茶のせいだ。




