酷い顔をしている
……かと思えば、言葉ちゃんはその場から一歩踏み出す。そして……見物していた生徒の前で、ゆっくりと、頭を下げた。
「……ごめんなさい。軽率な行動でした」
小さく、しかし不思議と響く声で、そう、謝った。
誰も何も、言わなかった。許す、とも、許さない、とも、言わなかった。というか、別に誰も怒ってないし……とでもいった空気、だろうか。
変な空気になってしまったことを悟った私はため息を吐き、少しためらいつつも口を開く。
「……本人もこう言ってることですし、とりあえず、このお2人の勝敗はつかず、終わりってことでいいでしょう。……はい、解散」
適当な切り方だったと思う。でも、それで周りの生徒たちは、何となく空気を読んで、散り散りになっていった。……残されたのは、頭を下げたままの言葉ちゃんと、立ち尽くす瀬尾先輩と、私、持木くん、ココちゃん、墓前先輩、雷電先輩。
「……ご迷惑をかけて、申し訳ありません」
するとそこで、瀬尾先輩がようやく声を出した。それは私に向けられたもので、顔は向いていなかったものの、声はこちらに飛んできていた。
「確かに……軽率な行動でした。反省しています」
「……」
言葉ちゃんと同じような謝罪を、私にする。……正直、私に謝られても……という感じだが……。
「加えて……ありがとうございます。私の異能から、生徒を守ってくださり……」
「……いえ、それをしたのは、私ではありません」
「ですが、指示をしたのは貴方でしょう」
見抜かれていたらしい。もちろん持木くんと雷電先輩にもお礼を言う瀬尾先輩を見つめながら、私はそう思った。
「……僕は……」
その声に、私は振り返る。そこでは、言葉ちゃんが顔を上げていた。
その表情は、相変わらず、能面の様で。……いつも笑顔な彼女にしては珍しく無表情で。
「……君が初めから、僕の話を大人しく聞いてくれれば良かった。そして、情報提供してくれたら良かった。……それでもまだ、話さないっていうの?」
「……貴方は」
無表情のまま、しかし、その声色に怒りを滲ませながら言葉を紡ぐ言葉ちゃんに、思わず私は、口を挟む。
「この期に及んでまだ、そんなことを言ってるんですか?」
「……瀬尾さんと聖さんは、絶対事件に関わってる。それなのに話そうとしない。でも一刻も早く、事件の真相を明るみにしないとなんだ。この学園の生徒のために」
「そのためなら、瀬尾先輩を半殺しにしてもいいっていうんですか?」
話していくうちに、段々語気が強くなっていく。私の最後の発言に、言葉ちゃんは黙った。そして。
「……」
何も返さず、踵を返して、歩き出そうとする。……だから私は、反射的にその手を掴んだ。ここで行かせたら、いけない。そんな予感がしたから。
しかし。
パンッ!!
私の手は、勢いよく、振り払われた。
「あ」
私が驚くよりも先に、振り払った本人が……言葉ちゃんが、驚いたような声を、上げた。
そして能面の様だった言葉ちゃんの顔に、感情が入り込み始める。これは、何だろう。怒り? 悲しみ? 苦しさ? ……分からない。ただ、とても……酷い顔をしていた。
「あ、う、っ……ごめ、な、さ……」
私の手を振り払った手を抑え、言葉ちゃんが呟く。先程と同じ、謝罪。でも、その声はとてもか細い。意識しないと取りこぼしてしまいそうなくらい、弱々しい、声。
何かが、おかしい。
「……会長? どうかし……」
そこで言葉ちゃんの様子がおかしいことを心配した雷電先輩が、彼女に声を掛ける。そして言葉ちゃんは……大きく、肩を震わせた。それは、過剰なほどに。
まるで、怖がってるみたいに。
……まさか……。
「──ゃ」
「っ!!」
言葉ちゃんが、何かを言う前に。
私は今度こそ、言葉ちゃんの手を取った。
そして振り払われる前にと、その手を強く握る。言葉ちゃんは、自分に一体何が起こっているのか……分かっていないみたいだった。ただ茫然と、私を見つめている。
私はそれを見つめ返して……そのまま、一気に駆け出した。
私と一緒に動いてくれた、その全員を、置き去りにして。
後ろから、そして何より彼女自身から、動揺している気配が伝わる。それでも私はただ無心で、走り続けた。




