嫌な予感ほど的中する
私、伊勢美灯子は、必死に、ただ必死に、明け星学園の校内を駆け抜けていた。廊下を歩いている生徒を、半ば突き飛ばすように走ってしまうのは申し訳ない。だが、一刻も早く私は、突如鳴り響いた、この学園の校舎を大きく揺さぶるほどの轟音の元へ。向かわなければならなかった。
息が上がる。汗を拭うことすら面倒なので、私の異能力……「A→Z」の方で、消した。気になるものが1つ減って、お陰で気分的に少し、走りやすくなる。
は、と、荒い息を吐き出しながら、冷静に周りの状況を見た。騒ぎの中心に近づくほど、人の姿が増えているように感じる。当たり前だ。ここの生徒は全体的に、騒ぎや戦闘を好み、野次馬をする傾向にある。もちろん、例外もあるが。
だが事件が起こっている時と比べ、悲鳴が聞こえることや、逃げる人がいる様子はなかった。恐らくそういった類……異能力者が暴走している、といったことではなく、普通の戦闘なのだろう。……だが、校舎全体がビリビリと震えているのは変わらなかった。
普通、ではない。
すごい威力だ……一体誰と誰が戦っているのか……いや、何となく予感は出来てしまっているのだが……出来ているからこそ、それが違うということを確認して安心したいのだが……。
……もし、本当に予感が当たってしまっていたら、どうしよう……。
そうは思いつつも、足は止めない。最初は転びそうになったが、もうこの揺れの中で走るのにも慣れた。……やがて、音と振動の発生源に辿り着いて。
……思わず私は、額を抑えた。
「生徒会長!! 今日こそ貴方の罪悪滔天の行いのケリを……つける!!」
「瀬尾さん……この明け星学園の生徒会長である僕に敵うとでも……本気で思ってんのかよ?」
「……あの、馬鹿……!!」
私は思わずそう小さく叫ぶ。嫌な予感が、当たってしまった。
そこで戦っていたのは、生徒会長の小鳥遊言葉。そしてその相手は、風紀委員会委員長の、瀬尾風澄。
2人はもう、戦闘を始めていた。言葉ちゃんの操る文字と、瀬尾先輩の操る風が、交差し、ぶつかり、その度に激しい衝撃が生じ、この学園を大きく揺らす。……ダイナミックな戦いだった。が、思わず見とれている場合でも、そんな悠長なことを言っている場合でもないだろう。
この学園で戦闘をする場合、生命に関わる異能力の使い方をしてはいけない。誰もが分かっていることだ。……分かっている、はずだ。
でもこの2人は……間違いなく、相手の息の根を止めることを、目的としている。首を、頭を、心臓を。……確実に、人間の急所を、狙っている。
そこは流石の実力者2人と言うべきか、そう易々と命を取らせることをしないが……それにしても、かなり危ない戦い方をしている。あの様子だと、お互い周りが見えていないのだろう。2人の戦闘を物珍しそうに見物する人が多すぎることにも、恐らく気づいていない。……考えたくないが、もし2人の攻撃が、少しでも見物する生徒に向かったら……。
……生徒会長と、風紀委員長の戦闘。注目を集めるのも当然だ。この生徒の集まり様がそれをありありと証明している。そしてそれは、この数を動かすことの困難さも、示している。
思わず、拳を握りしめた。強く。皮膚に、爪が食い込むほど。
……自分の機嫌は、自分で取れ。特に、瀬尾先輩と聖先輩の前では……そう、言ったのに。
そしてゆっくりと息を吐き、手を解く。視線は、言葉ちゃんと瀬尾先輩へ。しっかり、目標を定めて。
面倒だが……止めないと。
傲慢だと、思われるかもしれないが。
恐らく、あの2人ほどの実力者を真っ向から止められる異能力者は……私しか、いない。
でも、どうする。どう止める。そう、考えていると。
「灯子ちゃん! ……! 会長と、瀬尾先輩……!?」
「溌剌伊勢美、お前も来たのか」
両脇から、声を掛けられる。一方は私を追って来た持木兄妹。もう一方は、被服室に行っていたはずの墓前先輩と雷電先輩だった。持木兄妹は私を追って、先輩二人は、騒ぎを聞きつけて……といったところなのだろう。
そこで私は、反射的にピンと来る。
……この人たちと、息を合わせて、上手くいけば……。
「……持木くん、雷電先輩」
「え、俺?」
「どうしたの? 灯子ちゃん」
私が2人の名を呼ぶと、2人は私の方に視線を寄越す。それに視線を返しながら、私は。
「名誉挽回も兼ねて、少し協力してください」




