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明け星学園  作者: 秋野凛花
1-1「事件の火種」
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異能力と二人の「持木」

「……あ、灯子ちゃん。会長の用、終わったの?」

「……持木さん」


 しばらくお弁当を食べ進め、しっかり食べ終わったところで、私は顔を上げた。そこには持木さんの姿が。


「心音でいいよ。呼びづらかったら、ココ、とでも呼んで」

「……ココさん」

「んー、親しいとはまだちょっと遠いのか~。……ま、いっか。隣いい?」

「……どうぞ」


 私が許可を出すと、持木さん、もといココさんは、ゆっくり私の隣に腰かけた。……わざわざ私の隣に座るということは、何か私に用があるのだろう。そう思うと、弁当を食べ終わったにも関わらず、立ち去りづらかった。

 ……ああ、いや、この人は用が無くても話しかけるんだっけ……。


「会長の用って、何だったの?」

「……学園生活には慣れたかって、聞かれたくらいです」

「ふぅん、そうなんだ……。やっぱり会長は、心優しいなぁ」


 そう言いつつ、ココさんは小さく伸びをする。その口調は、初めての時と比べ、とても柔らかいものになっていた。……そういう感じで普段から話せば、比較的親しみやすくなるのでは……と思ったけど、私が口を出す筋合いもないため、結局何も言わずに黙る。


「灯子ちゃんって、もうすっかり有名人だからね」

「……有名になんて、なりたくなかったです」

「あはは、まあ、仕方ないよ。普通の学校に比べたら人少ないから、噂とか回るの早いんだ」

「……異能力者だけの学園だから、ですか?」

「そう。この学園、あたしたちからしたら長いけど、歴史としては浅いし。まだ世界に、異能力者()()っていう学校は、ここしかないから」


 ……異能力者の存在は、周知されるようになった。彼ら専用の教育が必要だということもわかった。しかしその体制は、中々整わない。

 教員も少ない。教育データが無い。前例が無い。……そんな様々な「無い」を乗り越えて、ここの初代学園長は、この学園を建てた。どこぞのお偉い政治家や、一般市民の批判、周りの反対も、全て押し切って。

 それはやはり、彼自身も異能力者だったから。

 だからこそ……「異能力者だけの学校」の必要性を、分かっていたのだろう。誰よりも。


「灯子ちゃん、よく知ってるね」

「一応、簡単な学園の情報は知っておかないとと思って……え?」


 バカ正直に反応をしてしまった私は、勢い良く顔を上げた。一方ココさんは、やってしまった、とでも言うように極まりの悪そうな顔をしていた。そして。



『あ、やっば、無意識に異能使っちゃった……』



 頭の中に、ココさんの声が、流れ込んできた。


「……異能……?」


『あー、そうなの。あたしの異能は、「人の心の声が読める」っていうものなの』

「あー、そうなの。あたしの異能は、『人の心の声が読める』っていうものなの」


『その代わり、読んだ声の分だけ、あたしの心の声が、読んだ相手にも伝わっちゃうんだ。それがこの異能の代償。しばらくうるさいかもしれないけど、許して』

「その代わり、読んだ声の分だけ、あたしの心の声が、読んだ相手にも伝わっちゃうんだ。それがこの異能の代償。しばらくうるさいかもしれないけど、許して」


「……あの、実際の声と心の声が……すごい……輪唱みたいに聞こえて気持ち悪いので、実際の声、少し黙ってもらっていいですか?」

『……この子、すごくはっきり言う子だな……』

「聞こえてますよ」


 どうやらココさんは結構な量の私の心の声を聞き取ってしまったらしく、しばらくココさんの心の声が途切れず聞こえてきた。……やはり人って、心の中で考えていることは支離滅裂になりがちなんだなぁ、と最後の方は感心してしまった。正直もう体験したくないけど。

 ……というか、私……変なこと、考えて無かった……よな。……この人の前で考え事は、なるべくしないことにしよう。


「……あ、聞こえなくなりました……」

「ほんと? ……迷惑かけちゃってごめんね」

「いえ。別に害があるわけじゃありませんし」

「……本当に優しいんだね。灯子ちゃんは」


 それは、1時間ほど前に聞いたセリフと、同じだった。「優しいね」。

 ……一体何を言っているのだろう。この人は。


「……さっきの話の続きになるけど、あたしが捨てられた理由、8割はこの異能のせいなんだ。……昔は異能を制御出来なくて……色んな人の心を読んできた。でもあたしの声も向こうに聞こえちゃうから……やっぱり気味悪がられちゃって」

「……」

「昔は、『この異能力があるせいで』って……異能力を恨んだ。人の心を読みすぎて……人の汚い部分も沢山知った。お陰で、持木家に入っても、誰にも心を開けなくて。……でもあいつが言ってくれたの」

「……持木くんのことですか?」

「うん、帆紫のこと」


 私が口をはさむと、ココさんは頬を少しだけ赤く染めながら頷いた。……これは……。


「『俺には心を読まれて困ることなんて無い。そのままのお前でいてくれていい』って。……実際、あいつの心の声に、あたしが読んで嫌なことなんて1つもなかった。……だからあたしは、ここまで明るくなれた」


 感謝してるの。

 ココさんは、そう言って笑った。その表情は、やはり……。


「……持木くんのことが、好きなんですね」

「……え?」

「……あ」

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