友達だから
──
人混みを掻き分け、私は騒ぎの中心に向かう。途中で実行委員か何かの人に止められたりもしたけれど、それも全て振り払って。
相変わらず頭上では雷鳴が轟いている。自然の脅威に足が竦むが、そうしている暇も無い。無理矢理にでも何でも、足を動かす。
だが前に進んでいる間に、見知った顔を見つけた。いや、正確に言うと、見慣れたのは今日なのだが。そんな話はどうでも良くて。
「墓前先輩」
「……ああ、溌剌伊勢美か」
私を振り返る、その表情に、覇気がない。私が話しかけるまで、呆然としていた。……そのことに、やっぱり、と、思う。
「……墓前先輩……」
「……」
「……あの雷は、雷電先輩のものですよね……?」
私の質問に、墓前先輩は、答えなかった。代わりに、再び雷の方に目を戻して。
「……正直信じられない。さっきまで普通に話していたんだ。でも……突然、異能力を……」
そう話す墓前先輩の頬を、冷や汗が伝う。……暴走した、まさにその瞬間を、この人は、間近で見たんだ。……しかも、唯一無二の、友人の。
「……あれが噂の事件の、暴走ってやつか」
「……恐らく」
「……伊勢美、1つ、頼んでいいか」
「……何ですか」
墓前先輩の視線が、こちらに戻る。そして、真顔で。
「俺の友達を、助けてくれ」
「……」
「あいつ、暴走しきる直前に言ったんだ。……逃げろって。馬鹿だよな。……でも、馬鹿でも、俺の友達なんだ」
「……」
「俺の力じゃ、助けられないから」
「……」
「頼む」
その真っ直ぐな視線に、私も出来る限り、真っ直ぐな視線を返す。そうして、誠意が見せられるように。
「……分かりました」
「……ありがとう」
その時、そう言って笑う墓前先輩の顔が、セーラー服を着て笑っていた墓前先輩の顔と……重なる。
……ああ、やっぱり、この人は墓前先輩なのだな、と、なんとなくそう思った。
「でも、期待しないでください」
「……ああ」
「それでもって、逃げてください。無事な場所まで」
「……分かった」
私の言葉に素直に頷き、去って行く墓前先輩を見送り、私はまた前に進む。
雷の出所、そこまで行けば、雷電先輩に会えるだろう。……でも、どう止める? 前回は言葉ちゃんが持木くんを気絶させてくれたから、場が治まった。……私にそんなことは出来ないし、そもそもどうすれば暴走が止まるのかも不明だし……。
……いや、ごちゃごちゃ言っていても仕方がない。もうすぐ辿り着くだろうから、その場その場、アドリブでこなしていくしか……。
遂に人混みを抜け、出所に出た。そして目の前の光景に……私は目を見開く。
「ココさん……!?」
「……!? 灯子ちゃん!?」
私の声に、何故か雷電先輩と対峙していたココさんは、振り返った。そしてその隙に、雷電先輩──その表情に、先程までの笑顔がない──が、ココさんに向け、手を振り下ろす。マズいっ……!!
私は地面を蹴る。そして、空気抵抗の消去。任意の地点に到達したら、摩擦係数を最高値に……!!
「うっ」
「……!! 灯子ちゃん……!!」
私と雷がココさんに到達したのは、ほぼ同時だった。私の体を、電流が駆け巡る。しびれてしまった、が、体内で何とか電気を分解する。そのため、一応致命傷は免れた。……若干ダメージが残るのも、事実だが。
「……っ、ココさん……大丈夫、ですか……」
「灯子ちゃん……何で……」
「……? 何で、とは……」
「だって、あたしっ……!!」
何故か涙目で震えるココさんの背後。また雷電先輩が手を振り上げる。だから私は再び、ココさんの前に立った。そして手を挙げる。
……すると、小学生でも分かること。より高いところに、雷は落ちる。
私のもとに雷が落ちて、けれど私はそれを全て消去する。それだけではなく、同じものを生成すると、雷電先輩にそのままお返しして。
命中したかは分からないが、ドンッ!! と盛大な音がし、煙幕が上がった。
「……だって、何ですか」
「……!! ……だって、だって、あたしは……灯子ちゃんに、酷い態度を……取って……」
「……覚えがありませんね。そんなことをされたように、私は認識していません」
「……でもあたしは……っ、今日一日、灯子ちゃんを避けてた!! 灯子ちゃんに……っ、嫌な感情ばかり、感じてた!! ……なのに、どうして、そんなあたしを、庇ったりなんか……!!」
涙を流しているのだろう。ココさんのその声が、震えている。でも私は、その表情を見られなかった。だって警戒しなければならない。この煙幕、どこから攻撃が飛んでくるか、分からない。
守らなくては、いけないから。
『伊勢美、友達ってさ、別に基準とか無いんだよ。何かさぁ……そういうのって、感じるものじゃね?』
『でもそれは、そんけいの気もち。上と思っていても、友だちになれるよ。ボクとすぅちゃんは、友だちだから』
『俺の友達を、助けてくれ』
私は小さく息を吸う。そして、振り返って。
「貴方が私の、友達だからです」
そう、言い放つ。
ココさんは、目を見開いた。その顔を見続けるのが何だか、気恥ずかしくて、私は視線を前に戻す。
「……だから、友達を助けることは……当たり前のことです」
「……」
「……逃げてください。ココさん。いつまでも庇い続けられる自信が、ありませんから」
「……うん」
ありがとう。
そう言って、ココさんは駆け出して行った。その場には私と……雷電先輩のみが、残る。
「……待っていてくれたんですか、雷電先輩」
「……」
「……貴方のご友人に頼まれましたので、僭越ながら、助けさせてください」
「……!」




