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明け星学園  作者: 秋野凛花
1-8「激闘!! 体育祭【後編】」
63/534

安心して生きていけるような世界

 ──


 私は言葉ちゃんを追って走っていた。しかしやはり私の脚力で……しかも二人三脚の後で疲れている私が、彼女に追いつけるわけもなく。私は言葉ちゃんを見失ってしまった。


「はあ……っ、はあ……」


 辺りを見回すが、それで言葉ちゃんが見つかるわけもなく。成す術がなかった。だから私は、一旦廊下の隅に座り込む。ひとまず体力を養わなければ。そうしなきゃマシに彼女を探すことも出来ない。

 ……こうしている間にもし何かあったら……とも思うけど、焦っても仕方がない。


「……あれ、伊勢美くん?」


 そこで横から声がかかった。少しだけ懐かしい声に、私は顔を上げる。そこにいたのは……。


「……理事長先生……」

「久しぶりだね。……座り込んでるけど、大丈夫かい?」

「あ、はい……疲れたので、休憩していて……」


 心配したようにそう言ってくれた理事長先生に、私はそう返す。理事長先生は私の隣に立つと、そうか、と優しく笑った。そしてそのままそこに留まるのをいいことに、私は口を開く。


「……あの、言葉ちゃんがどこに行ったか……知りませんか?」

「小鳥遊くんかい? ……知らないな。仕事じゃないのか?」

「……ですよね。すみません」


 私はそう言って目を逸らす。……やはり、この辺りにはいないのか……。場所を移動するべきか……。


「……もしかして、事件の調査をしてるのかい?」

「……え?」


 私は再び顔を上げる。そこでは鋭い目つきで私を見やる、理事長先生が。

 と思っていたが、すぐにその鋭さは緩む。それは、私たちを心配するような目つきに変わって。


「……君たちが事件解決のために行動しているのは、小鳥遊くんから聞いているよ。……それがこうしたイベントの日まで及んでいるとは思わなかったが……」

「……すみません」

「謝ることはないよ。伊勢美くん、君がこの学園を好いてくれているようで、私は嬉しい」

「いえ、私は……そんなんじゃ……」


 ……私は、別にこの学園が好きだからとか、そういったことを行動理念にしているんじゃない。ただ、たまたま、言葉ちゃんと行動を共にすることになってしまったから。そして、私は疑わしい人間の1人だから。何より、何とも言えない……衝動のようなものが、私の中で渦巻いているから……。だから行動している。そんな立派なものではない。

 しかしそんな私のことなど露知らず、謙遜することはないよ、と理事長先生は笑った。


「……私は、異能力者全員が、安心してこの現代社会で生きていけるような、そんな世界にしたいと思っているんだ」


 すると理事長先生は突然窓の外に目をやると、そんな風に喋り出す。外では相変わらず、沢山の生徒の笑い声、声援、楽しげな声で溢れている。


「だから君たちにはとても感謝している。学園というのは、社会の縮小版だからね。まずはここで何の不安もなく過ごすことが出来なければ、外に出ても何も意味がないのだから」

「……」


 その視線は真剣そのもので、理事長先生が、明け星学園の生徒たちを、異能力者を、とても大事に思っていることが分かる。

 ……問題は、私にそれを言われたところで、どう反応するべきか分からない、ってことだけど……。

 しかし何かしら言わなければ、と私が口を開こうとした、その瞬間。



 外から、閃光が迸った。



「……!?」


 次いで響く悲鳴。私が立ち上がって振り返ると、いつの間にか、外は曇り空となっていた。今の短時間で……!?

 そしてその黒い雲の隙間を埋めるように、電光が走っている。急に崩れた天気に、誰もが困惑しているようだった。

 ……いや、違う。これは……天気が崩れたのではない。


「……行くんだろう?」


 そこで理事長先生が、冷静に声を発する。理事長先生は、私に向け、微笑んでいた。


「気を付けて」


 私は神妙な顔つきでそれを見つめ返すと。


「……はい」


 休んで養った体力を、再び走ることに使う。言葉ちゃんを探すことは、一旦諦めた。それよりも今は……やらなければいけないことが、ある。



 ──



 外で迸る雷に、小鳥遊言葉は少しだけ視線を向けた。しかしすぐに興味を失ったように、その瞳を前に戻す。

 何故なら、今はそれより、目を離してはいけないものがあるから。



「……ねぇ、聖さん」

「……」



 ゆっくり、冷静に、感情が表に出ないよう、慎重に、小鳥遊言葉は言葉を紡ぐ。対して聖は、冷や汗を流しながら、1歩下がった。しかしそのたび、言葉は一歩詰める。じわじわ、聖を追い詰めていく。


「……灯子ちゃんに、手を出したよね?」

「……」

「……今まで異能力を使いそうになかったのに、急に使ったのはどうして? やっぱり、何か隠したいことでもあったのかな?」

「……」

「……筆談でもいい。何か言えよ」


 言葉の声色に、感情が乗らない。だからこそ、自然と低い声になる。その体、表情、声、全てで、聖を威圧する。

 それに耐えられず、聖は恐怖したような表情を浮かべた。逃げてしまいたい。そんな衝動に駆られ、思わず、口を少しだけ開き……。


「……貴方は本当に性懲りないですね。小鳥遊会長」

「……」


 その声に言葉は黙る。現れたのは、やはり瀬尾せお風澄かすみ。まあ予想通り、と、言葉は心の中で呟いた。


「……君も懲りないねぇ、瀬尾さん。流石に聖さんが何かに関わってるのかも~、とか、思わないわけ?」

「……思うわけがないでしょう。あんなに心優しい偲歌が、事件に関わるわけがない」

「……綺麗な友情だねぇ」


 そう言って笑うと、言葉は一気にその表情を冷たくする。鋭い眼光で、2人を睨みつけ。


「……無垢すぎて反吐が出るよ」

「……」

「あのさぁ、いい加減にしてもらっていい? 僕だってもう、悠長なことしてられないんだ。……こっちだってさ、大事な後輩に手ぇ出されてんだよ。分かったらさ、瀬尾さん。……そこを退け」


 瀬尾は何も言わない。ただ、言葉のことを睨み返すだけ。

 その脚が、震え始めていた。何故なら、分かっているから。自分では、この人物に敵わない。戦闘になろうものなら、きっと自分は、あっさり捻り潰される、と。

 でも、立たなければいけなかった。

 庇わなければ、いけなかった。


「……断り、ます」

「……」

「……貴方こそいいんですか? ……あの雷、イベントの予定には組み込まれていないこと……パニックが、起き始めています」

「……それは風紀委員長である君にも全力ブーメランだと思うけどねぇ……大丈夫だよ」


 言葉は冷静にそう返すと、後頭部を掻きながら、窓の外に目をやって。





「それこそ、僕の大事な後輩が、動かないわけないから」

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