本気で勝つ
思わず私が遠い目をしていると、金髪の人がゲラゲラ笑っている。何なんだ騒がしい……。私が視線を送ると、金髪の人は目じりに浮かんだ涙を指先で拭いながら、私を見つめ返した。
「……あ、ごめんごめん。俺は雷電閃。コイツの友達」
「……暑いから肩組むな……」
「……私は、伊勢美灯子です……。……墓前先輩、友達とかいたんですね……」
「……お前は俺のことを何だと思ってるんだ」
「……怪しい女装先輩ですが……」
「ブッ、あっはっは!! 面白い子だねぇ、灯子ちゃん!!」
「……はあ……」
良く分からないが、こうして肩を組んでいるあたり、本当に仲のいい友達であるようだ。墓前先輩は嫌そうな顔をしているが、無理して振り払うような様子は無い。
「……溌剌伊勢美。こいつは気を付けた方がいいぞ。脳味噌下半身だからな」
「……は?」
「ちょっ!? お前数少ない友人に何てことを!?」
「事実だろ。初対面で俺のことを女だと勘違いして執拗にナンパを……」
「だってそれはお前がセーラー着て女装してるからだろ!!」
「ただの女装じゃないオカルト少女だ何度言えば分かる!!」
「あーもーお前のそのこだわりめんっどくせぇ!! ……あ、灯子ちゃん、取って食ったりしないから安心してねー」
「……はあ」
もう何が何だか。すっかり私は二人の会話のペースに置いて行かれていた。いや、混ざりたいとも思わないが。
「……あっ、とーこちゃん、いたいた~!! ……ゲッ、しりょー……」
「ゲッ、腹黒生徒会長……」
そこでようやくやって来た言葉ちゃんが、私に駆け寄ってくる。そして墓前先輩の姿を捉えると、露骨に嫌そうな顔をした。対して墓前先輩も、露骨に嫌そうな顔をする。ある意味見事な両思いの2人の間で、爆笑する金髪の人……もとい、雷電先輩。何がそんなに面白いのか……。
「しりょーに雷電くん……君たちも出るんだ。二人三脚」
「……まあ。こいつが出たいってうるさかったので」
「何で俺のせいみたいに!?」
「へぇ、じゃあ……負けてられないね」
「……貴方と戦うとか、絶対嫌だ」
「ん? 僕らに負けるのが怖いのぉ~?」
「……」
好戦的な言葉ちゃんに対し、怠そうな墓前先輩。だが言葉ちゃんに煽られると、墓前先輩は黙った。……そして私たちに背を向けると、雷電先輩の襟首を、無造作に掴み。
「……閃。絶対勝つぞ」
「んー? それはいいけど……っちょ!? そこ引っ張るなぁ!! おいっ、首絞まるっ……!!」
「腹黒生徒会長、溌剌伊勢美。……本気で勝ちに行きます」
「いいねぇ、楽しくなってきたじゃん!!」
言葉ちゃんの思惑に乗り、好戦的になった墓前先輩に対し、言葉ちゃんは意気揚々とそう答える。
……ん、あれ、私の名前も呼ばれ……。
「そういうわけだからとーこちゃん……」
ポン、と、肩を優しく叩かれる。恐る恐る振り返ると、そこには満面の笑みの言葉ちゃんが。
「絶対勝とうね!!」
私は思わず青ざめる。どうやら私は、とんでもない勝負に巻き込まれたようだ。
「明け星学園には、『特別技能点』っていうものがあってね。それはこういうイベント事で獲得出来るんだ。逆に言うと、こういうイベント事でしか得られない」
「……はあ」
「で、超重要な点なの。1点でも少なかったら、即留年。他の点がどんなに良くても留年なんだ」
「……はあ」
「つまりね、とーこちゃん。君は一競技しか出ないから、ここで好成績残さないと、進級ヤバいよ」
「…………………………」
だからやる気出そうね♡ と、言葉ちゃん。私は思わず黙った。聞いてない。というか、そういうことならもっと勝手に競技入れておいてほしかった。だが今更言っても仕方がない。どうしても勝たなければいけなくなった。……もしかしてこれも、言葉ちゃんに仕組まれたこと……? すっかり疑心暗鬼になってしまっている私は、そんな風に考えた。
どんなにこの人に文句を言ったとて、現状が変わるわけではない。私は、やる気を出して、やらなければならない……。
「って言ってもとーこちゃん、そんな怖い顔しないで!! 勝つよりもまずは、楽しむことだよ!! ほら~、スマイルスマイル!!」
「……」
貴方にだけは言われたくない……と、心底思った。




