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明け星学園  作者: 秋野凛花
1-7「激闘!! 体育祭【中編】」
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問診と雑談

 結局言葉ちゃんは、泣き疲れて寝てしまった。子供か、と思ったが、まあうるさくないので良しとしよう。

 外からは沢山の人が騒いでいる声が響いている。まだ体育祭は続いているらしい。というのも、時刻は11時。そして私が眠っていたのは、ほんの1時間ほど。

 ここは保健室で、階段の踊り場で倒れていた私を、たまたまそこを通りかかった生徒が発見。それからここまで運んできてくれたらしい。そしてそれを聞きつけた生徒会長が保健室までやって来て、私の寝る横でずっと泣いていたらしい。約1時間、ずっと。

 ……そう言われると、何と言うか……少し気まずいものがある。


伊勢美いせみさん。そのまま起き上がっていられそうなら、この紙書いてくれる?」

「あ……はい」


 そう言って保健室の先生に差し出されたのは、問診票。記入欄に、名前、学年、保健室に来た理由、現症状……それらを記していく。もちろん現症状は、もう平気。特に異常はなし、だ。

 開いた窓から爽やかな風が舞い込む。それに思わず目を閉じて、そちらの方を見た。相変わらず外は騒がしくて、風がその騒めきを運ぶ。何だか壁1枚隔てるだけで、別世界みたいだ。

 それはそうとして問診票を書き終わり、私は保健室の先生にそれを手渡す。先生はそれを受け取ると、うんうん、と頷いた。


「なるほど……もう大丈夫そうね。確かに悪いところもないみたいだし……体育祭に戻っても平気ね」

「……あ」


 そうか、元気ということは、体育祭に戻らなければいけない。あの暑苦しい空間に。それよりこのフカフカなベッドに合法的に寝ていたい。……と思ったが、今更「やっぱり体調が悪くて」、と言っても、そんな嘘はすぐに見抜かれそうなため、結局口を噤んだ。

 私が1人で百面相をしていたせいかもしれない。先生はクスクスと笑うと、その問診票片手に、私の横まで椅子を引き寄せて、そのまま座った。


「すぐ行け、ってわけじゃないわよ。もう少し聞かないといけないことがあるから」

「あ……はい……」

「まず。……どうしてあそこで倒れたのか、その理由は分かる?」

「……えっと……」


 それは、ひじり先輩に「眠っていて」と言われたからで……。

 そう、馬鹿正直に言おうとして、私はハッ、となる。

 ……聖先輩は、私と同じ。異能力の使用を……制限されている。でもそれを、私に使った。……そのことを私が今、ここで言ってしまったら……。



 ──大切な人を、ボクに守らせてください。



 ……倒れる直前に聞こえた、気がする……その言葉を……。聖先輩は、出来なくなってしまうのではないか。


「……その、立ち眩みが……してしまって……」

「……そう。貴方に異能力が使われた形跡があるけど、それは?」

「……分かりません。私が眠っている間に……何かあったのか……」

「なるほど……」


 先生は質問を重ねていくと、問診票にその内容を記していく。……いつ嘘がバレるか。そのことを考え、ヒヤヒヤした。恐らくバレていない……と、思いたい……。


「……質問は以上よ。生徒会長が目を覚ましたら、一緒に体育祭に戻ってあげてね」

「……はい」


 それは、言葉ちゃんが目覚めるまではここにいていい、ということだろう。なるべく長くここにいたい。その要望を、先生は聞いてくれたらしかった。……何だか申し訳なくなってくる。


 私は、隣のベッドで眠る言葉ちゃんを見つめた。言葉ちゃんの瞳は、固く閉ざされている。その赤い瞳も、見えないままで。さながら眠り姫だ。……。

 まるで死んでいるみたいだった。確かによく見れば、その大きな胸が微かに上下している。でも、それだけ。身をよじったり、呼吸以外に動きそうな様子がない。目を離したら、もう死んでしまっていそうで、そんな馬鹿みたいな考えが頭から離れず、私はただひたすら、言葉ちゃんのことをじっと眺めていた。


「……こう見ていると、懐かしいのよね」


 そこで保健室の先生が、再び話しかけてくる。今度は問診ではなく、ただの雑談のようだ。


「……懐かしい?」

「歴代生徒会長はね、何だかんだ、1番保健室の利用率が高いのよ」

「……はあ」


 クスクスと笑う先生。そう言うということは、今までに何人もの生徒会長がここに来て、休んでいくのを、その目で見てきたのだろう。


「中でも、この子の前の生徒会長はすごくて。ほぼ毎日来ては、そこのベッドで休んでいたわ」

「……体が弱かったんですか?」

「いいえ。体は健康体そのものだったんだけれど……弱かったのよ。異能力が」

「……へえ……」


 その言葉を聞いて、思わず私は目を見開く。……てっきり生徒会長とは、強い人がなれるものだと思っていた。言葉ちゃんしか知らないから、そう思っていただけなのだと、私は思い知らされる。


 ……異能力が、弱い人……。

 それで保健室にほぼ毎日通う……ということは、ほぼ毎日誰かに喧嘩を吹っ掛けられ、そして、負けてきた……ということだろうか。


「しかも、この子と先代生徒会長はとても似てるから……この子がこのベッドで寝ていると、何だか懐かしい気持ちになっちゃうのよねぇ」

「……似てるんですか」

「ええ。何と言うか……纏う、オーラ?」

「オーラ……」


 ……まさかスピリチュアル的なことを返されるとは思わず、私は白けた目を向ける。そんな目しないでよ~、と、先生は朗らかに笑った。

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