泡となる夢
たぶん、夢を見ていた。
深く深く、心を支配する、とても悲しい、そんな夢。
友だちがいた。とても仲良しだった。何をするにも一緒だった。こんな日々が、ずっとずっと続けばいいのに。きみ以外何もいらないから。ずっとずっと、自分といてほしい。
しかしそれは、泡となって消え失せる。昨日まであった様々な色彩が、もうモノクロな世界に様変わって。
泣きわめきはしない。
ただ、立ち尽くして。
絶望するのだ。
──
「──ッ!!」
びくっ、と、勢いよく体が跳ねる。痙攣のような、そんな自分の動きに、私は目を覚ました。背中を伝う汗が気持ち悪い。何だか呼吸が荒い。……何か夢を見ていたような……このはやる鼓動や服をびっしょりと濡らす汗は、たぶんそのせいだ。でも、思い出せない。だから、考えるのをやめる。
ふう、と、呼吸を落ち着かせるためにも、まず小さく深呼吸をする。すると徐々に血と酸素が体を巡る感覚がして、頭が冴えてきた。……そこで私は、左手に温もりを感じた。反射的に握り返す。すると、その温もりも微かに反応を返した。
「……とーこ、ちゃん……?」
そしてその手がある方から、か細い声がした。その声があまりにも弱々しいものだから……私は初め、誰から話しかけられているか、分からなかった。
「……言葉、ちゃん……?」
「あ……ッ、う、良かっ……良かったぁっ……!!!!」
そして言葉ちゃんは私に勢い良く抱き着いて来る。その声に、表情に、私は思わずぎょっとなってしまった。
何故なら、いつも元気で、明るくて、うるさくて……いつも笑顔なあの彼女が、その綺麗な顔を、涙でぐちゃぐちゃにしていたから。
目の前の光景が、信じられない。これは本当に言葉ちゃんなのか? 超精巧なクローンなのではないか? ……現実逃避した頭が、そんなことを考え出す。それだけ、こんなに涙を流し、弱っている言葉ちゃんが……私は、信じられなかった。
でも、私を抱きしめるその体の温もりが、肩を濡らす涙が、彼女が本物だと私に教える。
彼女は、あの明け星学園の生徒会長は、小鳥遊言葉は……私の身を案じて、泣いている。
「良かっ……ぅ、もう、っ、とーこちゃん、が、目を……覚まさなかったら……っ、どうしよ、って……ッ、ひっく、うぐっ……」
「……勝手に殺さないでください……」
普通ならここでは、心配かけてごめん、といったことを言うのだろうか。それでも私はそれより、このテンションの彼女をどうするべきか。それだけ考えて、とりあえず思ったことを言っておいた。
「とーこ、ちゃ……っ、ごめんなさいっ……ごめ、っ……」
「……何で貴方が謝るんですか……」
「だ、っ、だって、僕が、僕が行けって、言ったからぁっ……」
「……あの、面倒なので、泣き止んでから喋ってもらっていいですか? まともな会話になりません」
「ひどい~~~〜っ……!!!!」
うわああああん、と言葉ちゃんが大声で泣き喚く。私の耳元で。……軽く鼓膜がお亡くなりになりそうだ。だが馬鹿力を持っているこの人に、私が勝てるわけもなく……黙って言葉ちゃんのことを抱きしめ返す。そして子供をあやすように、その背を撫でた。
……人を撫でた経験なんてないから、これでいいのかは知らない。




