ごめんなさい、
──だから私は、油断してしまっていたのだろう。
また聖先輩はメモ帳に何かを書き始める。長文を書いているのか、その時間はとても長かった。
やがて聖先輩は、私にゆっくりそれを見せる。私はその文に、目を通して。
『ボクには大切な人がいる。きみの言っていたように、じけんのかいけつは、大切な人を守ることになるんだろうね。たしかに、ボクは少しだけ、知ってることがある。でも、それはおしえられない。ごめんなさい』
「え……」
まさか、本当に知っていることがあると認められるとは。そして、断られるとは。
これは、どうにか問い詰めないといけない。でも、どうすれば……。そう思いながら私が、顔を上げると。
聖先輩が、微笑んでいた。
とても、悲しそうに。
その表情を見ただけで、私は固まってしまう。体が、動かない。目が離せない。聖先輩から。この……今目の前にある、この世で最も美しいものから。
聖先輩が、薄くその唇を開く。息の通るか細い音が、何故か私の鼓膜を激しく揺らす。頭が、くらくらする。自然と息が荒くなる。これは、分かる。これは、この状況は、まずい。
逃げなければ。
「……ごめんなさい。少し、眠っていて」
「──ッ!!」
息を呑む。まさかこの世に、これほど美しい声があるのか。……違う。思考がままならない。もっと聞いていたい。眠い。駄目だ。ここで、意識を失っては……。
混乱した思考の中、気づけば目の前は床だった。遅れて、脳が体の痛みを認識し、訴えてくる。床に打ち付けたところが、痛い。でも、体に力が入らない。立ち上がらないと。私しかいないんだから。私にしか出来ないんだから。動け、動け……ッ。
しかし、無情にも瞼が落ち始める。意識が沈んでいく。暗い暗い、水の底に。そんな感覚がした。ああ、駄目だ。逃れられない。あの、美しき怪物の歌声から。
セイレーン。ギリシャ神話の怪物の名前。歌声で人を惑わし、海に引きずりこむ。
だったら私はまさしく、セイレーンの歌声に魅了され、海に沈んだまぬけな人間だ。
「……ごめんなさい、とうこちゃん」
大切な人を、ボクに守らせてください。
意識が途切れる間際、そんな怪物の儚い願い事が、聞こえた気がした。
【第6話 終 第7話に続く】
こんにちは、もしくはこんばんは。秋野凛花です。
第1章第6話、「激闘!! 体育祭【前編】」はどうでしたでしょうか?
──
前話のあとがきで、学校と言えばイベント!! と言いましたが……皆さんはそういった学校行事は好きでしたか?
まあ皆さん予想はしていると思いますが、秋野は好きです。
今回体育祭の話なので、体育祭を例にとって喋ります。秋野、運動は得意ではありません。リレーとかで走ると、文字通り足を引っ張るタイプです。
ですが体育祭は嫌いではありませんでした。私はイベントの雰囲気、非日常感というものが大好きなものでして、そういうのを感じ取れるだけで十分楽しかったです。息を合わせた集団行動をしたり、好きな人が騎馬戦に出ているのを応援したり。楽しかったなぁ。
もちろんダンスとか以外の競技はボロクソでした。聞かないでください。
──
第7話は体育祭編中編。聖偲歌の異能力に倒れた灯子。果たして、やること山積みな灯子はどうなるのか……?
中編です! こんなに長くなると思わなかったのに……。
今回はキャラ紹介などはなしです。次の話から第7話スタート!!
それでは、次は第7話でお会いしましょう!!




