せっかくのイベントだから
「紅組ーーーーッ!! 気張っていくぞーーーーッ!!」
「白組ーーーーッ!! 紅組には絶対負けないよーーーーッ!!」
「……」
私は1人、人々にもみくちゃにされながら黙っていた。
快晴。6月にしては温かい、いや、暑い炎天下。
私がこの学園──明け星学園に来て初めての、学校行事だった。
話は数日前に遡る。私、伊勢美灯子は、事件のことについて何か知っていると思われる聖偲歌先輩との接触に成功。しかし、マシな言質を取ることは出来なかった。聖先輩の幼馴染で風紀委員会委員長の、瀬尾風澄先輩の横やりが入ってしまったからだった。
だがそこでめげない。今日の体育祭は、風紀委員会はとても忙しくなる日らしい。……確かに、イベントの日ということで羽目を外す人は多そうだ。だから風紀委員会委員長の瀬尾先輩は、とても忙しいはず。
そして一緒に事件解決を目指す生徒会長──小鳥遊言葉ももちろん忙しいため、私が頑張らなくてはならない。この体育祭で。
私は白色のハチマキを身に着ける。私は知らなかったが、いつの間にか色組み分けがされていたらしい。更に言うと、勝手に私の出場競技も決められていたらしい。……原因は分かっている。あの頭の中お花畑生徒会長のせいだ。何故なら私が出ることが決定している競技、二人三脚のペアが、言葉ちゃんだから。正直問い詰めたくて仕方がないが、今更言ったところで競技が変えられるわけじゃないし、絶対やりたい競技があるわけでもないし、何より彼女への連絡手段を持ち合わせていないため、もう何も言わないことにした。
一人一種目以上。必要最低限のノルマは達しているため、言い換えると二人三脚以外出ないため、ほぼ一日中暇だった。競技によっては予選・本線とかがあるけど、二人三脚はそういうのないし……恐らく言葉ちゃんが、私がそこまで嫌がらなそうで、かつ自由時間が取りやすい競技を選んでくれたのだろう。……悔しいが、ありがたい。
……二人三脚は午後イチか……というか、練習とか全くしてないけど大丈夫なのだろうか……私、言葉ちゃんほど体力ないし、何なら平均より下だし、引きずられて顔面負傷する未来しか見えないのだが……。
「……灯子ちゃん、お疲れ?」
そこで聞き慣れた声がし、誰かが私の隣に座った。
「……ココさん」
「灯子ちゃん、すごい顔でプログラム睨みつけてたからさ」
「……言葉ちゃんとの二人三脚が憂鬱だな、と思いまして」
「あはは、会長、灯子ちゃんのこと容赦なく引きずりそうだもんね」
「……やっぱり、そう思います?」
「……今から保健室のベッド、一つ開けておくようお願いしとくね」
「助けてはくれないんですね……」
毎度お馴染み、持木心音さんだった。頭には白色のハチマキ。どうやら、同じ組らしい。知っている人がいる、という事実に、少なからずホッとした。……一応言葉ちゃんも同じ組のはずだが(二人三脚に一緒に出る、というのはそういうことだろう)、あの人はノーカウントで。
私の隣で、ココさんも自前のプログラムを読みだす。そこにはカラフルなマーカーが引かれていて、几帳面な部分が窺える。
「……ダンスに、綱引きに、パン食い競争……」
「わぁ読まないでよ!!!!」
「あっ、すみません」
久しぶりに聞いた。すごく鋭い声。最近は何と言うか、口調が柔らかくなっていたものだから。
「あっ、ご、ごめん。驚いちゃって……」
「いえ、私こそ勝手に……のぞき見しちゃって」
「……いっぱい競技出るな、って思った?」
「はい」
「正直だね……」
まあいいけど、とココさんは恥ずかしそうに頬を掻く。
「せっかくのイベントだから、色々出たいなぁって思って……あたし、そこまで運動は得意じゃないけど……楽しいことは好きだからさ」
「……へぇ……」
「灯子ちゃんは……」
「……二人三脚だけです。私はこういうイベントごととか、そこまで好きじゃないので」
「だよね」
ココさんはケラケラと笑う。その表情は本当に楽しいそうで、今日この日を楽しみにしていたのが分かる。
……そこで私は気づく。プログラム、2色のマーカーで引いてあることに。一方はピンク。こちらはココさんが出る競技だろう。もう一方は……紫色。
……これは、聞くまでもないだろう。
「見てません」
「いや見たよね?」
わざとらしく目を逸らした私に、ココさんが身を乗り出して目を合わせてくる。……ここでは何も言わないのが正解だったのだろう。でも仕方がない。口をついて出てしまったのだから。




