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明け星学園  作者: 秋野凛花
1-5「怪物との邂逅」
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仲良くなった、かもしれない

「……あっ、いたいた、心音!!」


 そこで背後から大声が響いて、ココさんの肩が大きく跳ねた。そして先程まで微笑んでいたのが一変、顔を真っ赤にして引きつった表情で、ゆっくりと振り返る。


帆紫ほむら……」

「探してたぞ~……ん? 心音、顔赤いぞ? 大丈夫か?」

「は!? だ、大丈夫だし!!」

「……はは、そう大声が出せるなら、平気そうだな」


 持木くんの言葉に反射的といった調子でココさんが叫び返すと、持木くんはケラケラと笑いながらココさんの頭を撫でた。

 ……その光景は、まるで本当の兄妹の様にも、恋人同士の様にも見える。


「それで!! ……探してたって、リレーの練習は終わったの?」

「ああ、もう、バッチリ」

「ふーん……あっ、じゃあ灯子ちゃん、帆紫も来たし、私は帰るね」


 仲睦まじく会話をしていたものの、ココさんは思い出したように私のことを振り返ってそう言う。だから私は頷いた。


「……言葉ちゃんにまた会ったら、言っておきます」

「うん、よろしくね。……灯子ちゃんはこの後、どうするの?」

「さあ……まあ適当に帰ると思います」

「そっか、じゃあ、気をつけて帰ってね」

「……はい、お2人も」


 私とココさんはそんな会話を重ねる。すると黙っていた持木くんが、何故か私とココさんを見比べて、一言。


「……何か、前より仲良くなったか?」


 その言葉に、私とココさんは思わず顔を見合わせた。それに対しココさんは何も言わない。ただ少し、眉をひそめて私を遠慮気味に見ている。

 ……だから私は。


「……そうかもしれませんね」

「!」


 ため息交じりにそう答える。するとココさんが少し目を見開いて私を見つめた。私はそれを見つめ返し……やはり居心地が悪くて、結局目を逸らした。


「……すげぇ、伊勢美いせみがデレた」

「デレてません。……帰るんでしょう。とっとと帰ってください」

「伊勢美、照れたからって言い方~。……良かったな、心音」

「……うん」

「お前、友達少ないもんな」

「うっさい!! ……灯子ちゃん、またね!!」

「はあ……また」


 私はその痴話喧嘩を薄目で眺めてから、何とかココさんの言葉に頷く。2人は相変わらず大きい声で、仲睦まじく、帰っていった。

 ようやく目をきちんと開けた頃、私は思う。


 仲良くなったのか、と。


 正直、友達とか……そういうのは、良く分からない。何を基準にしてそう呼ぶのか、それがあって一体何になるのか……考えれば考えるほど、ドツボにはまる。やがて私は面倒になって、思考を止める。

 ……私とココさんは、周りから見たら……友達、なのだろうか。

 ……。

 ……脳裏に、記憶が掠めた。


「はーっ、ほんとにあのツインテちゃんはぁ……一応生徒たちに緊急事態が迫ってるっていう危険性を理解してないのかなぁ!? あーっ!! むしゃくしゃするっ!!」

「……言葉ちゃん、いつからそこに」

「ん? 今だけど」

「……話、聞いてましたか」

「話ぃ? なんか帆紫くんが心音ちゃんと帰ったのは見てたけど、話までは聞いてないよ。……何か面白い話した?」

「いえ、してません」

「食い気味〜〜〜〜!!!! 絶対してるやつだ!! 明日にでも心音ちゃんにきーこおっと!!」

「……」

「やだなぁ、冗談だよぉ。そんな怖い顔しないで?」


 嘘じゃないけど、とその後に聞こえたので、思いっきり睨みつけてやった。するとゴメンナサーイ、と笑いながら棒読みで言ってきやがった。……もう止めるのも面倒なので、それ以上は構ってやらない。


「……それで、ココさんから大体のことは聞きました。……どうしますか。これから」

「そうだねぇ……聖さんにも話を聞いてみないと、何とも……かな。というか正直、瀬尾さんに庇われてるっていう1点で、聖さんに対しての疑いが僕の中で大きくなってっちゃってんだよねぇ……。何もないなら、大人しく話聞いてくれればいいのにさ」

「……」


 確かに、話を避けられるということは、何かやましいことがあるのではないか? と思うのが普通だ。それを、あの瀬尾先輩が分かっていないとは思えない。普通に常識を持っていて、部別がある人のように……見えるし……。

 ……人は見かけによらないから、一概には言えないけど。

 それにしてもあの瀬尾先輩の庇い方は、少し過剰なように感じる。


「……瀬尾先輩と、その……聖先輩って、その、どういう……」

「ああ、幼馴染らしいよ。同い年で、家も近いんだって」


 私の言わんとすることを察してくれた言葉ちゃんがそう教えてくれる。……幼馴染か……。私にそういうのはいないから、いまいち感覚は掴めないが……そういう人は、ああいう風に大事にするものなのだろうか。


「……言葉ちゃんに、幼馴染はいますか?」

「え? 幼馴染の定義が分からないから何とも言えない」

「……それもそうですね」


 確かに、どの年齢から一緒にいたら「幼馴染」と呼べるのだろう。どのような距離感の人が「幼馴染」と呼ばれるのだろう。そこの定義を明確にしないと何とも言えなそうだ。……私と言葉ちゃんは。たぶん普通は引っかからないようなところで話が詰まる。

 ……というかこの分だと、言葉ちゃんのことを「幼馴染」だと思っている人がいるとして、言葉ちゃんはそう思ってない……っていう感じがする。何となく。

 まあそれはともかく。幼馴染の感覚をこの人に問うのは無理そうだ。


「とりあえず明日からは、聖さんに焦点を絞って当たってみようか。何もないにしても、それを立証するためにも1回話は聞かないといけないから。……」

「……分かりました」

「それで、しりょーの方は?」

「しりょー……あ、墓前先輩は……明日までに返事を書くから、取りに来てくれってことで……私が取りに行きます」

「ん、りょーかい。世話かけるね」


 それとは別に、墓前先輩から聞いたことを端的に伝える。だが言葉ちゃんの方は「予想通り」と言いたげな顔だった。……やはりこちらは、あくまで「確認」か。



『あの腹黒生徒会長……いや、生徒会長は、お前の身をよっぽど案じているらしいな』



 墓前先輩の声が耳元でよみがえる。……恐らく、私のため。

 本人に聞けないし、聞いてもはぐらかされる気がするし、確証は無いが。


「じゃあ今日はもう出来ることもないし、かいさーん。また明日ね。しっかり休みなよ」

「……はあ」


 言葉ちゃんはあっさりとまとめると、手を振り、踵を返して去って行ってしまう。その背中を見つめながら、私はため息のような返事をする。

 だが彼女は振り返らなかったし、いつまでも背中を見つめていても仕方がないな、と思って、私は言われた通り家に帰るために歩き出した。

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