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明け星学園  作者: 秋野凛花
1-5「怪物との邂逅」
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得意不得意

「何と言うか……大変なことになったね……」

「……そうですね」

 自然と私とココさんは、2人で校内をアテもなく歩いていた。辺りを見回すと、先程の寂莫感から一転、いつも通り、沢山の生徒たちの笑い声が響き渡り、活気にあふれていた。……不思議と安心してしまう。私がその騒がしさの輪に入ることがなくとも。


「……それで……ココさんは言葉ちゃんとの調査、どうでしたか?」

「……」

「……どうしました?」


 私が問いかけると、ココさんが驚いたように私のことを見つめていた。その視線の意味が分からず、私は首を傾げる。


「いや……その、まさか灯子ちゃんから事件の話題を振られるとは思わなくて……てっきり、会長に無理矢理付き合わされているのかと……」

「……まあ、半分は無理矢理付き合わされていますが……」


 なるほど、と納得してしまう。確かに私は、このようなことに積極的に首を突っ込まないタイプだ。むしろ全力で回避するタイプだ。それがこの短い期間しか私と過ごしていないココさんにも、伝わっているのだろう。


「……でも、今は自分から関わっています」


 それでも今は違う。

 この事件から離れられない。私はそう思っている。その理由は、やはり考えたところで分からないけれど。



『……悩んでるなら、やれば? やってもやんなくても、きっと後悔するから』



 ……今は、墓前はかまえ先輩のその言葉に乗っかる形で、自分の意思でここにいる。


「……そっか!」

「……何で嬉しそうなんですか」

「ううん、何でも」


 ココさんは満面の笑みを浮かべて首を横に振る。その表情の意味は分からなかったけれど、そこに追求しなくとも問題はない。それよりも事件のことだ。私は先程の質問の回答を促した。


「そうだね……やっぱり皆当たってみたけど、アリバイがあった。この学園には至る所に防犯カメラが張り巡らせられていて、生徒会長はそれが見れるからね。嘘は通用しない、って皆分かっているうえでの回答だし、何より誰も嘘を吐いた感じはしなかった。誰もやってないんじゃないかな、ってことで、あたしと会長で意見が一致したよ」

「……なるほど……。先程の……聖さん? という方は?」

「それがあたしも、詳しくは聞いてないんだよね……。名簿も見せてもらえなかったし、ただ、『この学園の中で、精神操作系では一番危険な異能力者だ』としか……会長からは聞いてないよ」

「一番危険な、精神操作系の異能力者……」


 あの綺麗な人が……一体どんな異能力なのだろう。というか、そんな人に接触しても大丈夫なのだろうか……。

 言葉ちゃんはともかく、ココさんに何かあったら……いや、言葉ちゃんに限って何も考えてないわけないだろう。それにもう過ぎた話だ。これは考えるのをやめる。


「あとは……」

「……?」

「……灯子ちゃん、よく会長と毎日一緒にいれるね……」

「……ああ……」


 そのどこか疲れたような表情に、私は心底同情した瞳を向ける。……ようやくわかってくれるか。私が毎日、どんなに大変なのかを……。


「気づいたら会長どこか行ってるし、あたしそっちのけで会話盛り上がるし、あたしが1喋ると12くらい返ってくるし……隙あらば飴を貰うし……」

「……お疲れ様です」


 今日ほど私の声に感情が乗った日は無いだろう。これまでもこの先も。いや、この先はわからないけれど。


「本当……灯子ちゃん、頑張ってねっ……」

「助けてはくれないんですね……」


 別にいいけど。

 2人で一通り言葉ちゃんの悪口で盛り上がった後、ココさんがふと口を開いた。


「灯子ちゃんは、すごいね」

「……え?」


 その発言の意味がわからず、私は思わず聞き返す。しかしココさんはその発言を撤回しようとする気配は無かった。ただ目の前で、優しく微笑んでいる。

 ……うん、やはり、ココさんは全然怖くない。


「いや、ね。……そうやって色んなところで活躍して、色んな人の役に立って、しかも会長に見初められてて、認められてて、しかも会長に対して、言葉ちゃん、なんて呼んだり……あたしは恐れ多くて、とてもそんな風に出来ない。……緊張しちゃうし」

「はあ……」


 ……よくわからないが、私はココさんから過大評価を受けているらしい。私が、すごい……? それに私は誰の役にも立っていない。どちらかと言えば私はまだこの学園の空気、というか……そういうものから浮いているし、どうしても、どこにいても、交われない。

 どことも、誰とも。

 私に関わるとしたら、そう、言葉ちゃんみたいな、こっちの話を一切聞かないで、頼んでもいないのに引っ張ってくるタイプ……。


「……私は、人の嘘とか見抜けません」

「……え?」

「好きな人もいませんし、転校生に話しかけるとか、面倒過ぎてしませんし、会話を盛り上げようともしませんし、したところで失敗するのが常だし……」

「う、うん……?」


 ココさんは私が何を言いたいかが分からないらしい。言っておくと、私も分からない。分からないが、つまりですね、と、ココさんの方を見る。



「……私には私に出来ることが、ココさんにはココさんに出来ることが、あるってことです」



 ……たぶん。


 私の言葉に、ココさんはぽかんとして黙っている。……早く何か言ってほしい。何と言うか、いたたまれない。

 その沈黙に耐えられなくなった私が、とにかく何かを言おうと口を開いた、その瞬間。


「……ありがとう」


 ココさんがそう言って、笑った。

 まるで花が咲いたが如く。


「励ましてくれて、ありがとう」

「……別に、そんなつもりはありません」

「またまた」


 クスクスとココさんは柔らかい笑みを向けてくる。……そんな表情で見られるのは何だか居心地が悪くて、私は思わず顔を背けた。

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