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明け星学園  作者: 秋野凛花
1-4「オカルト少女(?)と事件調査」
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今が最高に楽しい

「……ふうん、なるほどね。何となくわかった」


 そう言って墓前先輩は、糸くずをゴミ箱に放り込んで捨てた。

 ……さっきまで糸はいかに素晴らしいかと(以下略)。

 ……まあいい。


「それで……何がわかったんですか?」

「うん。『何もわからない』ということがわかった」

「……は?」


 私は思わず聞き返す。何もわからないことが、わかった。どういう逆説なのだろうか。


「確かにこれは、事件の中心となった生徒の服の一部だった。……そして事件がいかように起こったのかも間接的に見た。まず溌剌伊勢美が女子生徒を逃がし、彼の猛攻を食い止め、最終的には腹黒生徒会長と彼を打破……そういう流れであっているか?」

「……はい、あっています」


 そう返事しつつ、私は内心驚いていた。……この人、本当に糸の記憶を見ていたのか、ということに。

 ……今のところ、オカルト少女(男)、霊が見える人、周りを顧みない怪しい人……という印象しかないから……。


「それで、事件の直前の場面を見ようと思った。……が、何も見えなかった」

「……見えなかった……」

「ああ。糸は人間に比べ、記憶力がいい。更に四方八方、360°見ることが出来るという優秀さだ。……なのに直前の記憶がない。操るにしろ、本人の記憶を消すならまだわかる。が、わざわざ糸の記憶まで? ……恐らくこの分だと、事件に関わる全ての記憶が、彼を構成するものから消えているだろう」

「……」


 ……墓前先輩の言うことが正しいなら、この事件の犯人は……相当、用意周到な人物らしい。しかし、そんなことをするなんて大きな手間だ。……そんな手間まで掛けて、犯人は一体、何がしたいんだろう……。

 ……あと、糸への敬意、復活したな……。


「しかし、『何もわからない』は、『行き詰まり』ではない!!」

「……?」

「犯人のここまでの用意周到さ……糸の記憶まで消す。しかし俺は普段、こちらには来ない。別館に住んでいるからな!!」

「住んでるんですか……」


 あのボロボロな校舎に……確かにあの校舎に近寄るのは、物好きだけだ。


「だが犯人は俺の異能力に対し、対策を施してきた。つまり犯人は、あの腹黒生徒会長が、俺に事件解決を依頼するとわかっていた人物、ということだ」

「……それは、誰なんですか」

「誰だろうな」


 思わずその場で肩を落とす。……それ、結局、何も進んでいないのでは……。


「とりあえず、()()()()()()()()()()()()()()()、ということだ」

「……え……」


 私は思わず顔を上げる。墓前先輩は、ドヤ顔で続けた。


「当たり前だろ? 俺とお前は初対面。俺の異能を知ったのは、今日だ。つまりお前が俺の異能に対して対策を施すことは不可能。いや、異能を調べる程度なら可能かもしれないが、俺と腹黒生徒会長が繋がっていることまで知るのは、容易じゃない。そもそも俺たちは、用事がないと会わないし、用事があっても極力会いたくない」

「はあ……」


  確かに、データとしてこの学園には、様々な書類がある。異能力もその1つだ。先程生徒会室で散々見た私は、知っている。しかし、人と人との交友関係を調べること、知ることは、異能力ほど容易ではない。しかも私は、この学園に入ってから少ししか経っていないのだ。

 私が納得していると、ふと、墓前先輩が微笑んだ。……それこそ年上、先輩らしい、優しい笑みで。


「あの腹黒生徒会長……いや、生徒会長は、お前の身をよっぽど案じているらしいな」

「……」

「にしても、事件解決の傍らでそれを進めるものだから……何かあの腹黒生徒会長の掌の上で踊らされたみたいで癪だ……」


 墓前先輩はそんな風に呻くが、私はその傍らで黙っていた。



『最悪、君が事件の主犯だと疑われる可能性も浮上するだろう。後ろ盾のない君だ。すぐに吊るし上げられるだろうね。……異端者は、排除される。人間の残酷なところだよ。……そこで、だ。僕と事件解決に尽力に努めれば、自然と君に対する評価は、きっと変わる』



 昨日、ああ言っていたというのに。

 私の疑いをすぐに晴らしてしまったら、私がここで離脱する、と考えないのだろうか。あの場で言った通り、私は他人からの評価などどうでもいい。例え他人にどう思われようと、私が無実。それさえ証明できれば、後はどうでもいい、けど……。


「めんどくさ……」

「え、ごめんね?」

「貴方のことじゃないです……」


 離脱しにくい。そう出来ない。そんな自分に、嫌気が差す。切り捨てて、手を振り払ってしまえばいいのに。


「……何の話か、俺にはわかんないけど」


 黙って思案する私を前に、墓前先輩が、ゆっくり告げる。


「……悩んでるなら、やれば? やってもやんなくても、きっと後悔するから」


 だったらやって後悔しようじゃん。墓前先輩が、笑って告げる。


「俺もこうして女装して、周りから変な目で見られるし遠巻きにされるし、やらなきゃ良かった、って思う日もあるけどさ」


 墓前先輩は、胸元のスカーフを揺らす。まるで、墓前先輩と同じに。……笑っているような。


「俺、今が最高に楽しい」


 その言葉は、何故か私の胸の型にはまった……そんな感覚がしてしまった。こんなの、求めていない。今すぐ追い出したい。……はずなのに。

 出来ない。

 ……ああもう、考えるのも、億劫になってきた。


「……私、戻ります。言葉ちゃんの所へ」

「……うん。明日までにあの腹黒生徒会長に手紙の返事書いておくから、取りに来てくれ!」

「……自分で行ってくださいよ……」

「だから会いたくないんだって!!!!」


 後ろで喚く墓前先輩。やはりうるさい。こっちに来てからは少し大声量も治まったと思ったのに……。


「はあ……わかりました。明日も今日と同じ時間に向かいます……」

「ああ!! 助かる!!」

「というか、何で今更文通……スマホとかで連絡取ればいいのに……」

「別館、電波通じないんだよ」

「……あ、そうですか……」


 別館から離れればいいのでは、と思ったが、そんな答えの決まりきったことを言っても無駄なだけだ。

 とりあえず、私から言葉ちゃんに軽く結果を伝えておく。詳しくは墓前先輩からの手紙で、明日受け取りに行く、と約束をして、私たちはその場で解散する。

 ふと気になって、私は歩くのをやめて、振り返る。

 私の視界の向こうでは、墓前先輩が上機嫌にスカートを揺らして、別館へと戻っていっていた。……それこそ本当に、不思議なことに出会えて満足をした、オカルト少女のように。

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