奇妙で怪しい先輩
……それより、どうして言葉ちゃんがこの人に頼んだのか。そして何を頼んだのか。……苦労してここまで来たのだ。教えてもらってもいいだろう。
「……その手紙、何が書いてあったんですか?」
「あー。俺の異能力であることを調べてほしいんだと。……全く人使いの荒い女だよ、小鳥遊言葉は……」
毎度毎度何かあるたびに俺を頼ってくるんだから……俺はあの腹黒に関わりたくないというのに……とブツブツと呟く彼──墓前先輩。そんな彼を前に、私は告げた。
「じゃあ断ればいいじゃないですか」
「…………………………」
私の発言に、墓前先輩は黙ってしまう。どうかしたのか、と思っていると、墓前先輩は黙って頭を抱えた。
「……俺、あの会長の守護霊が怖くて……」
「……は?」
「すごい俺のこと睨んでくるし……しかもすごい神聖なものだから、下手に会長からの頼みごとを断ったら、何をされるか……」
「……いや、待って下さい」
何? と言うように、墓前先輩は顔を上げた。いや、何? と言いたいのはこちらなのだが。
「……守護霊って、何ですか」
私の問いかけに、彼はあっさりと答える。
「俺、人に憑いてる守護霊とか地縛霊とか……生まれつき、そういうものが見えるんだ。……これは異能力とかじゃなくて、体質」
「……体質」
「ちなみに俺は、『憑いているものの特徴+その人の名前』で人のことを呼ぶから、それで自分に憑いているものを判断してくれ。元気溌剌伊勢美」
「私には一体何が憑いているんですか……」
聞きたいことは沢山あったが、「あまりにその特徴を知りすぎると、加護の力が弱くなるから」とか何とか言って、それ以上は教えてもらえなかった。言葉ちゃんの守護霊……? に関しても同様だった。
……真偽は不明だが、まあ、いてもいなくてもどっちでもいい……。
……。
「それで溌剌伊勢美。その事件があった現場というのがここか?」
「その呼び方やめてください……そうですけど」
私が元気溌剌みたいで、変な気分になる。溌剌なんて、私には到底無縁の単語だろうに。
しかし私のその要望は聞き入れられることなく、あっさりスルーされてしまう。墓前先輩はその場にしゃがみ込むと……地面に這いつくばって、何かを探している。語弊を恐れずに言うなら、怪しい人だ。恐れずに言わなくても、怪しい人だ。
やがて彼は何かを拾う。それは……糸くずだった。一体それが何だというのか。
私の言わんとすることに気が付いたのだろう。墓前先輩は私の方を見て口を開く。
「溌剌伊勢美。俺の異能は、『糸の記憶を読む』というものだ」
「……糸の記憶を読む……?」
「ああ。……糸というものは、細いが頑丈だ。それは人やものを覆い、そのボディを守るために用いられる。いわば、この世に溢れる糸、そこから織りなされる生地は、我々のガーディアンだ」
「要約すると」
「糸ってスゴイ」
だったら最初からそう言ってほしいものだ。説明が回りくどい。
「そのガーディアンの記憶を、俺は読ませていただいている。……ところでこの糸は、その事件の中心となった生徒の服のものであっているか?」
「いや……知らないです……」
そう糸くずを差し出されたところで、私には何とも言えない。そもそも色すら把握できないし……そもそも私の中で、持木くんは黒の学ラン着ていたな……くらいの記憶しかない。そして私の紺色のブレザーも遠目から見れば黒色である様に、持木くんの学ランが本当に黒色かすら怪しい。
そんな私の思考を知ってか知らずしてか、役に立たないな……、と墓前先輩が呟く。悪かったな。
「まあいいか。……」
しかし切り替えたように墓前先輩は笑うと、糸くずをジッと見つめ始める。それこそ、瞬きもせず。……私は話しかけてその集中力を削ぐ、なんて事をしないよう。ただ黙ってその光景を見つめていた。
「……あ、いや、それよりもっと後……いや、違う。もっと……いや!! もっと先だって!! もっと最近!! ほんの……えーっと」
「……一昨日です」
「そう一昨日!! そんな前の持ち主のことはどーでもいいのっ!! ……ああそうそう、その記憶……」
何やら糸に対して文句を言っている墓前先輩に、私はそれ以上口を挟むことは無かった。……傍から見るとひとり相撲をしているようにしか見えないのだが……。
……さっきまで、糸はいかに素晴らしいかということを語っていたのに……何だこの変わりようは……正直、連れだと思われたくないし、帰りたい。今すぐに。




